ある日の夜半―――既に眠りの床に就き、静やかな寝息を立てる王……

―――ところが? 快眠をしているはずの、その(つぶ)らな(まなこ)が開き、やおらすると手慣れた手つきで身支度を整え……どこかで用意してきたロープを部屋の窓から垂らす……と?

 

 

リ:ぃよっ―――と……悪いとは思うけど、またちょっと借りるよ。

 

 

そうした不審な言葉を遺すと、王の姿を持った者は夜の……城下へと消えて行ったのです。

しかしながらそう―――この時点で判っている事だけを申し述べれば、王リリアの身体を操作していたのは、紛れもなく……

 

 

リ:いやあ〜それにしても、盲点だったよ―――この人の意識がない時に、“私”が表に出られるなんて……ね。

  とは言え、こう言うのって“よくある設定”ダヨネ〜〜―――いいのかい、こんな安直でw

 

 

この話しを進める為です―――我慢しなさい

 

 

リ:(うわぁ〜お、“天の声”がぶっちゃけちっゃたよ―――ま、仕方ないけどねw)

  さあ〜〜て、と―――今日はどんな話しを伺いましょうかね〜♪

 

 

まあ、“よくある設定”―――と、言ってしまえばそうなのですが……

そもそも、王リリアに囁きかけていた声だけのリリア―――つまりは、『意識(イデア)のリリア』は王リリアの為に今自分がしてあげられる事を模索していた時、王リリアの意識が無くなった時―――所謂(いわゆる)気を失ってしまったり……だとか、このように熟睡している時に―――だとか……そう言った時に、意識のリリアが“表”に出られる事を知ることが出来たのです。

そして、ここからが本題―――つまり意識のリリアは、王リリアの為に、王の国……そこに住まう多くの民達が、王自身の事をどう思っているのか―――

 

 

リ:よう―――やってるかい。

 

兵:おう、お前か―――駆けつけの一杯だ、呑めよ。

 

リ:おう―――ぷひゃ〜〜! やっぱ、(うめ)えな!w

 

兵:へっ―――何言ってやがる、傭兵稼業のお前は気楽なもんだろw

 

リ:まあなw 好きな時に闘えさえすればいいんだからな。

  そんなお前ら兵士は、上から命令されりゃ……

 

兵:ああ―――例え、やりたくなくてもやらなきゃならねえ……まあその分、装備も以前から比べたら上等なモンになってきてるがな。

 

リ:その装備―――やっぱ、この国の人達のお金……“税”てヤツから出てきてるんだろ。

 

兵:なんだ? お前―――やけに“そう言う事”に詳しいじゃねえか……

 

リ:おいおい―――忘れたのか?w 私は“傭兵”だ―――ここだけじゃなく、色んなところを回ってきてる。

  嫌でも判って来る……ってなもんさ、まあ、大体どこも似たようなモンだけど―――な。

 

兵:そう言う事か……まあ、実際今の王さんが就いてここ10年ほどで20倍に跳ね上がったって話しらしいぜ。

 

 

この国の実情を知る必要がある―――“王”と言うのは、ただ上に立って下々の事を考えてやればいい―――が、しかし……必ずしも上に挙がってくる報告は、真実ばかりとは限らない……。

けれど―――思い知らされる現実……自分も“意識体(イデア)”の一つとして臣下や部下からの報告を聞いていましたが、ならば現実としての国民達は……国の事を、王の事を果たしてどう思っているのか―――知る必要性があったのです。

 

それにもし―――その事を知らなければ王はただの“飾り”……ただの“傀儡”……ただの“神輿”に、成り下がって果ててしまう……。

そうならない―――させない為にも、“こう言う時”に動ける自分が何とかしてやらなければならない……

そして“よくある設定”―――とは思いながらも、自分が“表”へと出てこられるきっかけを知った……

それに、特に“この時分(じぶん)”―――夜の城下……それも酒場ともなれば、皆アルコールが入り本音も出やすいと思っていたら、案の定……

 

そこで意識のリリアは、一人の兵士と意気投合し彼を通じてこの国の実情に迫ろうとしていたのです。

 

それに……またしても夜の酒場で起こる―――いや、夜の酒場だからこそでしか起こらない……

 

 

兵:おっ―――またおっ(ぱじ)めやがったな。

  ま、お互い肚ん中に溜め込んでるのは多いし……な。

  それにお前と出会ったのも、今から思えば懐かしい気さえしてくるってもんだ。

 

リ:ああ―――本当に……な。

 

兵:おっ―――また止めに行くのか。

  構いやしないが、手加減してやんなよw

 

 

想えば、意識のリリアとこの兵士が出会ったのも、こうした夜の酒場特有の、些細な行き違いから起こる喧嘩―――それが原因でした。

 

 

* * * * * * * *

 

 

その時の喧嘩も、その発生(はっしょう)原因は定かではない……単なる感情のすれ違いから起こってしまう衝突―――

それを、当の本人達だけでやればいいものを、偶々この酒場に来ていた一人の傭兵の―――

 

 

兵:あんだと? 手前ぇ―――もう一度言ってみやがれ!

兵:手前の方こそ、もう一度言ってみやがれ!!

 

 

互いに、適量以上のアルコールが体内に入っており、酩酊(めいてい)状態で繰り出されるボキャブラリーの無さ加減には辟易(へきえき)するものですが。

次第に感情的になり、熱を帯び―――やがて“とばっちり”は……

 

 

リ:(!!)ああ〜〜〜―――っ! こんの野郎共……! なにしやがんだ!!

  ああ〜〜……折角の一張羅を―――喧嘩するなら、表ぇ出てから余所でやれ!

 

兵:あ゛あ゛〜〜ん゛? なんだ手前え―――女のくせに、偉っそうな事抜かしてんじゃねえ!

 

リ:あ゛あ゛ん゛?!  私が女だから……って、なんだってえ?!

  ハッ―――この国は、ここ最近軍備に力入れてるって話しだから、傭兵の私でも食い扶持にありつけるものかと思いきや……お前らみたいな“クソ”な連中ばかりだと、この国の王さんも多寡が知れてんなあ〜?

 

兵:あ゛あ゛?! オ……オレ等を“クソ”呼ばわりしやがったな?! こんの―――……

 

リ:(……)“抜いた”な―――? お前…………真剣(それ)を。

  そいつを抜く―――ってのが、どう言う意味か……解かってったんだな……?

 

兵:やかましい―――! ゴタゴタ御託を抜かすな! お前も……その腰に下げてるもん―――抜けよ……!

 

 

女傭兵が、頼んでいたものを飲んでいた処を(はず)みでひっくり返され、飲み物が女傭兵の装備を濡らしてしまった……

その事に大憤慨する女傭兵―――なのでしたが、こちらでも互いがヒート・アップし、(かね)てからの熱も加わり、とうとうこの国の兵士の一人が、女傭兵にその剣を突き付けてしまったのです。

 

その途端―――女傭兵の……リリアの表情が一変する……

 

その“イザコザ”は、元はと言えば酒の席の上での話し―――かも知れない……が、しかし、人を(あや)められる道具を出すまでもない―――

それは、“その気”がなかったとしても、何らかの“弾み”により間違いが起こってしまうかもしれない……

だからリリアは―――

 

 

リ:私は……“抜”かないよ―――もし間違いがあったら困るからな……。

  それに、お前ら程度だったらこれで十分だッ!!

 

 

* * * * * * * *

 

 

そしてそれは“今”に通ずる―――またしても、この酒場で起ころうとしていた喧嘩を素手で捻じ伏せてしまっていたのですから。

 

 

兵:相変わらず強ぇえな、あんたは―――w

 

リ:ま、喧嘩程度だったらこんなもんだろ……それにしても、治安悪いな―――皆が皆殺伐としている……。

 

兵:まあなあ……下っ端のオレなんかが言う事じゃないが、近い内に魔族と一当てやる―――って話しだぜ。

 

リ:本当か? それは―――

 

兵:ああ、だからこそ準備を進めてる……兵もまだまだ足らんから、“(つの)る”―――って話しで持ち切りだぜ。

 

 

そんな事……上にも報告(あが)ってきてないぞ?

……と、言う事は何か? こいつが知らない処で話しが進んでいるのか?

それに……その話し、知らないのは王であるこいつだけなのか?

イセリアは―――? セシルは―――?

 

 

ふとした拍子で口にしたことから出てきた真実―――

この国の軍部は、王の知らない処で軍備を整え、いつでもその戦端を(ひら)ける用意をしていた―――と、言うのです。

しかしながら―――そう……その事を、王であるリリアは知らない……

しかもこれとよく似た“史実”を、意識のリリアは彼女の現実世界で『歴史』として学んでいました。

 

 

この事態……非常によく似ている―――私の現実世界の故郷の国が、大敗を喫した“あの大戦”の時と……

 

 

勝つ見込みすらないのに、一体どこからか湧いて出てきた“自信”で、戦争に踏み切ってしまった国―――

“東洋”と言う場所に浮かぶちっぽけな島国が、大きな“世界”を相手にして挑んだ『大戦争』―――

当初は、“奇襲”“電撃作戦”が功を奏し、世界の半分を手にすることが出来てはいましたが、そこで止めておけばいいのに調子に乗った“軍部”がそれ以上のモノを望み―――

拡大する戦域……けれど追い付かない前線への補給―――

そしてある局面での敗戦を機に、それまで占領していた地域を奪われ、やがては本国をも戦火に巻き込んでしまった……

 

この、大敗した大戦を起こした張本人たちは皆、何処へかと消え―――

後の始末……敗戦の事後処理を、その国の統治者本人が為される始末……

 

あの敗戦は、一体誰が為(たがため)の戦争だったのか―――……

師の授業でリリアはそう思いましたが、師はたった一言だけ……

 

『これも、戦争なんだよ―――』

 

どこか淋しそうだった…………

戦争の―――“争う”事の真の意味を理解していた人でさえも、そう言うしかなかった、『戦争』と言うモノの本質―――

 

 

王よ……決してあんたは間違ってやしない……

こんなにも、誰も得るものがない“争い”は全力で……断固として拒否しなくちゃならない……

こんな下らないものは、即刻止めさせるべきだ―――!

 

 

意識のリリアは、今でこそ思う―――

“今”自分が、ここに居る―――と、言う理由を……

 

 

 

#9;“意識体(イデア)”不条理を知る


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