≪六節;Men is love≫
〔その夜のこと―――
近くのカルマの砦で起きた一件が、不可解な行動をとる者の仕業との報告を受け、花の将セシルが直々に捜索をしていた時・・・
暗闇の中で何者かが火花を散らしている―――そんな場面に出くわしたのです。〕
セ:(・・・ナニ―――? 私たち以外に、誰かが何者かと・・・戦っている?)
〔その誰かが―――フィダックにいる自分たちの仲間以外だと云う事は、すぐに判りました。
では、どこの誰が―――?
セシルなりに推理してみると、一番可能性があるのだとすれば、一番近くにいるウェオブリのタケルか婀陀那―――
しかし、セシルが物陰に隠れ―――その誰かを確認しようとしたとき・・・〕
セ:(あっ―――あれは?? ・・・ひょっとして、あれが ビーストライダー ―――)
〔その日の月夜は27夜・・・最後の半月―――
その月光が 誰か を照らし合わせたとき、思わずセシルは息を呑んだのです。
月の光に照らされ・・・きらめく銀の髪―――
闇に一際浮かんで見える・・・金色の眸―――
引き締まったボディラインに・・・片手には血を思わせるかのような色をした刀―――
そう・・・そこにいたのは、ホワイトナイツであるミルディン・ギルダスから詳しい説明を受けた通りの存在―――・・・
ビーストライダー ―――子爵とも呼ばれているヴァンパイアがいたのです。
けれども、もう少しばかり聞き耳を立ててみると―――・・・〕
ヴ:お前ら・・・こんな夜中にどこうろついてやがるんだ―――
まさか・・・あれじゃねぇだろうな、これから人間たちがいる集落を襲おう―――って・・・
魔:ああ―――そうだ、それなのに・・・どうしてなんだ?
魔:お前ぇもオレ達の仲間なんだろうが―――!
ヴ:あぁん? 何云ってやがるんだ―――バカヤロウ・・・フザけてっとブッ殺しちまうぞ・・・
魔:ブ・・・ブッ殺すもなにも―――モレ達の隊の半数以上を・・・
魔:ああっ―――ひ、ひでぇ・・・な、なんで?どうして? お前ヴァンパイアじゃ・・・
ヴ:ああ、そうだよ・・・文句があるのかい! 私はこう見えて人間たちが好きなんだ―――
こんな私でも・・・美人だ―――なんて云ってくれるあいつらのことが・・・
セ:(・・・えっ―――?)
ヴ:そんな、可愛いことを云ってくれる奴らをねぇ・・・この私が、黙ってお前ら何ぞにやられるのを見てられるってのかい!
〔今の・・・まさか―――? いや、そんなはずはない・・・
この場面に偶然遭遇したものならば、セシルではなくともそう思ったことでしょう。
人間が―――魔族のことを褒め称え・・・そのことを恩義に感じて人間のために同族でもある魔族を狩っている・・・。
それにしてもセシルが一様にして奇妙に感じたのは、その魔物・・・ヴァンパイアが人間たちに美人だ―――と囃(はや)されたと云う事。
―――私たちが、魔物なんかを・・・?
セシルは、奇妙に感じずはいられませんでした―――
だって・・・最近そう囃したてていたのは、人間―――
サヤと云う、少しおっちょこちょいでドジなメイドッ子―――
けれども、確かにそのヴァンパイアは、セシルたち人間からそう褒められたことがあると云っていたのです。
それに―――・・・〕
ヴ:それに―――・・・私があいつらにしてやれるのは、今夜限り・・・なぜなら今夜が月で最後の半月なんだからねぇ。
西の方じゃ―――あの 左将軍 が頑張ってる〜って噂だけど、月のうち半分しか果々(はかばか)しい働きが出来ない、
この 右将軍 も、今だからこそ声を大にして云える―――・・・
私たちが、人間たちを、この身体を張って守ってやることが出来るのは――― 人間を愛する ・・・
この大事なことを、 皇 であったあの方から、よろしく教えを受けたからなんだよ!
〔衝撃の事実―――もはやそれ以外の何があったでしょうか・・・
魔物が人間を愛する―――それだけでも十分すぎることだったのに、このヴァンパイアが嘯(うそぶ)いていたことに、
さらなる重要性が隠されていたことを、セシルは聞き逃さなかったのです。
それに西部方面で活躍しているのは、人間の将では紫苑だけれども、あの人物は 左将軍 ではない・・・
では何者が―――?
それにこのヴァンパイアは、自分自身のことを 右将軍 と呼んでいた―――・・・
―――だとするならば、西部方面で一番活躍しているのが人間ではないとするのなら、心当たりはただ一つ・・・
それがここ最近東部方面でも噂になりつつある 蒼龍の騎士 のこと―――・・・
その蒼龍が 左将軍 で―――ビーストライダーが 右将軍 ・・・
まさか、人外の者が自分たち人間より上級の将軍・・・
そう云えば、パライソ女皇の初勅の辞(ことば)にも、気になる部分があった―――
――総ての生きとし生ける者に平等を――
生きとし生ける者―――あの部分は、自分たち人間だけのことを指しているものと思っていました。
この世に生き、等しく生を受けた存在には、その初めから貧富の差など生じはしていない・・・
―――だとするならば、あの部分の一文は、 総ての人民に と云う表現が妥当ではないか・・・との、見解の声もあったものでしたが、
そのことがもし、今回の・・・いや、それよりも以前の蒼龍の件に関しても端を発していないのは、上がそのことを知り得ているからであり、
初勅にもそのことが言い含められているのではないか・・・と、セシルは次第にそう思い始めていたのです。〕
To be continued・・・・