≪六節;龍の涕≫

 

キ:それよりも・・・あの―――先ほど私の涕を拭ってならないと云ったのはどうして・・・

 

母:>・・・お前が先ほど流していた涕―――それこそは、お前がこの者を想うあまり流していたモノに他ならない。<

 

べ:キリエさんが―――オレのことを・・・?

キ:えっ―――あっ・・・(赤面)

 

母:>その通りだ―――そこな君も伝説くらいには耳にしたこともあるだろう、私たちの種族・・・ハイランダー(竜眷属)が流す涕には二通りの意義がある。

  一つは君たち人間の流すものとそうは変わらないが―――もう一つは、私たちが真に相手のことを認め、なおかつ相手を想うがあまりに流せるものがある。

  人はそれのことを、『龍の涕』として後世に広めたそうだ。<

 

べ:は? ちょっと待ってくれよ―――確かその『龍の涕』・・・って、不死の薬を調合するときに要るもんじゃ・・・

  そいつを、キリエさんがオレのために〜―――って・・・本当なのかい?

 

母:>フフ―――・・・本当もなにも、先ほどまで死にかけていたのに、もう大丈夫そうではないか。<

 

べ:あっ―――・・・ほ、本当だ・・・そ、それじゃ、オレは不死身に・・・

 

母:>勘違いするのではない、第一あの伝説は人間たちが勝手に作ったもの、・・・とは云え、満更(まんざら)嘘でもない部分もあるのだがな。

  それはなぜか―――・・・フフ、それは君がその身をもって体感をしていることではないか。<

 

 

〔そこでは、先ほどキリエが流していた『龍の涕』の解釈が語られたのです。

 

そう・・・それこそが、創作話などでよく知られている 不死の薬 などの原材料として知られているモノだったのです。

だからそれを服用したからとて、自分が不死の身になったと思うベイガンがいたのですが、

そこをこの人物は、人間たちによって広げられすぎた解釈を苦笑しつつも、本来の解釈―――

どんな治療不可能な病巣であっても、どんなに致命傷の傷を負っていたとしても、完全に治してしまう万能の治療薬・・・その源であると教えたのです。

 

 

しかし―――その人物が現れたのは、そのことを告げただけではなく・・・〕

 

 

べ:―――すげえぜ、なあ、キリエさ・・・き、キリエさん―――あんたぁ・・・

キ:えっ、何? どうかしたの―――ベイガン・・・

 

べ:・・・あんたが身に着けてるその鎧―――・・・

キ:・・・あっ!この鎧は―――!!

 

 

〔キリエ自身ですら気付かなかった、彼女の身に起こったある変化―――

その変化にいち早く気づいた存在こそ、お礼を云うために振り向いたベイガンなのでした。

 

それにしてもキリエの身に起きたある変化とは―――・・・

そのことを指摘され我が身を顧(かえり)みたとき、ようやく自分自身の変化に気がついたのです。

 

先ほどまでは―――人間たちと同じ鎧を身に着けていたのに・・・いつの頃からだったのか、キリエは自分がある種族である処の象徴の鎧を身に着けていた―――

そう、ハイランダーの・・・蒼龍の騎士の鎧を身に纏っていたのです。

 

けれども、その身体にはもう―――・・・〕

 

 

キ:蒼龍の―――・・・けど、龍がいなくなっている・・・ママーシャ、これは?

母:>私が・・・わざわざこの足をこちらに向けた理由がそこにある。

  お前自身ですら気付かなかった変化の予兆と云うものを、この私が視認したからなのだ。

  お前が、ハイランダーとしての次の段階に進む度に現れる予兆―――サンピラーを・・・な。

 

  しかも、お前が今よりも以前にみせたのは、遡ること10万年位になる。

  そのことをお前が知る由もない―――なぜならば、まだ物心がつかないほど幼かったのでな。<

 

 

〔その種族―――ハイランダーではない、人間であるベイガンはもとより、当人であるはずのキリエが驚いていたこととは、

すでに西部方面では騒がれつつある存在―――蒼龍の騎士の鎧を、キリエ自身が纏っていたからなのでした。

 

しかし・・・その象徴としての存在―――蒼キ龍はいなくなっており・・・云うなればキリエ達の前に姿を見せているキリエの母なる存在と同じだったのです。

 

 

そして―――自らの娘でもあり、部下でもある者の著しい成長を見届けたその人物は・・・〕

 

 

母:>確か君は・・・ヒ=チョウ=ベイガン―――と云うのであったな。

  キリエを・・・不束(ふつつか)な娘ではあるが、よろしく頼む。<

べ:えっ・・・ああ、いや―――むしろ世話んなりっぱなしなのはオレ達の方で・・・この人にゃかけなくてもいい心配をいつもかけちまってて―――・・・

 

母:>フフフ・・・いい人に、巡り合えたな―――これからも、二人とも仲睦まじくやっていきなさい・・・<

 

 

べ:あっっ―――もういなくなっちまいやがった・・・それよか、いいのか、キリエさん―――

キ:うん・・・私のことは、もう心配しないで。

 

 

〔その光景こそは、まさに母の下から娘が一人立ちをした瞬間でした。

そしてそれは―――また新たなる 万人の敵 の出現の瞬間でもあったのです。〕

 

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

 

あと