≪五節;ざわめき立つコーリタニ≫

 

 

〔一方―――そのコーリタニでは・・・〕

 

 

キ:―――失礼いたします・・・

 

紫:はい―――ああ、キリエ・・・キリエ殿?!どうされたのですか、その鎧は―――

コ:いや・・・それよりも、その鎧の形状は―――

チ:なぜ・・・そなたが蒼龍と同じものを―――

 

紫:・・・なんですって?! 彼女の着つけているのが蒼龍の騎士と同じモノ??

  それは一体どう云う意味なのですか、誰か判るように説明を―――!

 

べ:へっ―――説明のしようなんてあるかよ、あんたらの見たまんまさ。

コ:虎髯殿―――しかし、キリエ殿は・・・

 

べ:ああ〜だろうな―――・・・オレも最初はそのことでひと悶着起こしたもんだったが・・・

  じゃあよ、あんたら今まで誰のおかげで助かってきたんだい。

 

 

〔今まで、彼らには思い当たり過ぎることがいくつかありました。

自分たちが窮地に追い込まれると、必ずと云っていいほど現れ、救ってきた存在―――・・・

 

旧フ国ガク州でのグランデル戦役に、ラージャはヤツシロでの防衛線・・・

つい最近では、コーリタニの兵糧庫の全損を間一髪で食い止めたとされる蒼龍の騎士―――

 

あまり目立たない武将が、自らが持つ怪異の力で敵を退け、その後は誰に褒められるでもなく姿を消していた・・・

 

ではどうして―――この期に及んで、その人物は自らの正体を自分で暴きにかかったのか・・・

その理由とは―――〕

 

 

キ:長らく―――あなたたちを欺き続けてきたことは、慙愧の念に堪えない次第でございます。

  かかる上はいかような処罰を持っても、甘んじてお受けする覚悟・・・

  ですが・・・今はこのまま―――このままで今しばらくのご猶予のほどを・・・

 

紫:なるほど・・・以前からあなたの言動には不自然に感ずる点がいくつかありましたが―――

  ならば、あの時の口笛も―――?

 

キ:フフ・・・どうやら紫苑卿には、私の下手な芝居を見破られていたようです―――

  いかにも、その通り・・・あの大事な作戦会議の最中に、私直属の上官の将軍様から直々に連絡がございまして、

  それを誤魔化しきるために口笛を吹いたものだったのですが・・・

 

紫:あなたの直属の上官から―――そう云えば気にはなっていたことなのですが、あなたの就いている将軍職は・・・

 

キ:私が―――古きから就かせていただいているのは、左将軍・・・

  私は、左将軍・キリエ=クォシム=アグリシャスと申し上げる。

 

コ:むン? 左将軍―――・・・そう云えば以前何かの歴史を記した書物の中に、こう記述をされているのを見たことがござるが・・・

曰くに―――幕舎の内にて左に座するを、驃騎・左両将軍が連ね・・・

  ・・・と―――

 

チ:それでは・・・そなたの上官と云われるのは―――

 

 

〔古の歴史書に斯く在り―――幕舎の内にてよろしく作戦の立案をする者ありき、は、幕舎の内にて左に座するを、驃騎・左両将軍が連ね、

向かひて右に座するを、車騎右両将軍が連なりて、難攻不落の大要塞を攻略されたし―――

 

その書には、驃騎・車騎だけではなく左・右の両将軍も控えており、互いに武功を競い合って古えの皇国シャクラディアの統一に尽力していたことがあることを、

愛読書として読んでいたコウは知っていました。

 

しかし・・・その歴史書が書かれていた顛末は、およそ七万年前の昔―――

 

では、現在ここに存在し、自らのことを左将軍と呼べる者は、全きのその者ではないのか―――と云う疑問が湧いてくるのですが、

しばらくすると場外がざわめき始め・・・するとそこには―――〕

 

 

ヱ:―――お邪魔をいたす・・・

紫:あなたは―――・・・キリエ殿と同じ鎧?!

 

ヱ:私の部下がよろしく世話になったようなのでな、改めて礼を述べるとしよう。

コ:・・・して―――貴殿は?

 

ヱ:私か―――私は今後君たちを援けるよう申し渡され、ここへと赴いた者・・・

  大尉・驃騎将軍ヱリヤ=プレイズ=アトーカシャと申し上げる。

 

紫:大尉―――驃騎将軍??! では・・・事実上の軍最高司令官殿ではありませんか!

  これは・・・大変な無礼を―――

 

ヱ:まあ待ちたまえ―――私の部下も私自身も、云うなれば過去の栄光を引きずっているに過ぎない。

  肩書と云うモノは所詮飾りに過ぎないが、またそれもないと不便な時もある。

  とは云え―――私が辞したくともそうはさせてくれない方がいるのでな・・・

  本来ならば、君たちのような前途有望なる若者が目指すに値するものなのだがな。

 

 

〔先ほど正体を明かせたキリエと同様の鎧を着こむ女性―――

しかしその肩書は尋常ではありませんでした。

 

彼の者が背負っていたものとは、現在最高の将軍職となっている婀陀那の大将軍―――

それを除けば事実上の軍事の最高司令官職にあり、そこでは当然紫苑になり変り西部方面の指揮をするものと思われたのですが・・・

ヱリヤはそうはしませんでした。

 

それよりもヱリヤは自らの矜持に生きる選択をし、あたら時代の表舞台に立つことを嫌う衒いすらあったのです。

 

それに、ヱリヤの持ちたる矜持の高さに、そこにいた者は皆感銘を受け、

新たにこの戦線に加わることとなった者も含め、これからの展望について話し合うのでした。〕

 

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

 

あと