≪五節;誰が為の戦争≫
〔なんとなく・・・どことなく―――判りかけてきた・・・この人が闘うと云う理由・・・
その人がビーストライダーだろうが、ヴァンパイアの子爵だろうが、そんなことは一切関係のないこと―――
この人はただ―――何者よりからの主命を帯び、カルマと闘ってきている・・・
それも―――気の遠くなるような昔から・・・
けれども―――ならばもし、この世が平和になり・・・人間たちの世の中になってしまったら・・・?
セシルの方を向いていた子爵の真紅の眸が、ふと哀しげな色を帯び始めたと思ったとき、
セシルの口からはそれ以上の追求の言葉は挙がりませんでした・・・
今はいい―――共にカルマを倒すために協力をしてくれているのだから・・・
ならば国家が安定をしたとき、自分たちと違う種族であるこの人達の居場所は―――?
セシルは・・・今は黙って、闇の帳へと消えていく子爵の背後ろ姿を見ているしかありませんでした。
それはさておき―――今回の夜襲は、各々の努力が実り、見事敵を撤退させることが出来たのですが・・・〕
ミ:・・・セシル―――今までどこに。
セ:・・・会ってきたわ、ビーストライダーに。
ミ:ナニ―――? それで・・・
セ:判らない―――けれど判ってきたような気がする・・・あの人が何のために闘っているのか。
これは戦争なのよ―――それも、遙かな昔から続いている・・・
ミ:遙かな過去―――それはつまり、皇国シャクラディアのことを云っているのか。
セ:ええ・・・それに、あの人からも云われたわ。
ならばどうして人間同士で争い合い―――殺しあってきているのか・・・って。
云い返せなかった―――的確な言葉で・・・ねぇミルディン、私たちって何のために闘っているの?何のために多くの血を流し続けているの?
ミ:・・・それは―――・・・
〔その答えは、おそらく今は示せない。
その問題定義は、過去に多くの歴史家や哲学士達によって大いなる論争にもなり得たけれども、
未だ嘗(かつ)て、誰一人として十分に納得しうるだけの答えを導き出した者はいなかったのです。
そう・・・喩え、古(いにし)えの皇であろうとも―――セシルの慕う師である者であろうとも・・・
ただ、一つに云えることは、この世が一つにまとまったとき、何らかの答えが導き出せる・・・
セシルは少なくともそう感じていたのでした。〕
To be continued・・・・