≪五節;越えられぬ一線≫

 

 

〔しかし―――と、は云っても、未だリリアはキュクノスの百足鎖鞭に捕らわれたまま・・・

それに、リリアの身柄を取り戻したとしても、どうやってリリアをこの戦場から離脱させることが出来たのでしょうか・・・

 

そのための手筈(てはず)は、すでに整えられていたようで―――・・・〕

 

~グルル―――・・・       ~ゴルル―――・・・

 

キ:ぬうっ?! そやつらは・・・熊狗―――!

 

♂:>公爵様―――これは・・・!<

♀:>あいつはキュクノス―――!<

 

エ:来てくれたようだね・・・お前たち―――

  いいかい、これからお前たちにやってもらいたいことがある。

  今から私が術式であの子をキュクノスの手から取り戻すから・・・ヘライトス―――お前が責任を持ってあの子をシェトラルブールまで届けるんだ。

 

へ:>そのことは承りましたが・・・だとすると、公爵様自身は―――?<

 

エ:私は・・・こいつへの恨みを今ここで雪(そそ)がせてもらう!

  こいつのことを信じ―――亡くなって逝ったハートランドたちや、野望の巻き添えになってしまった人たちの仇を・・・ねぇ!!

 

 

〔一体―――いつ呼ばれたのか・・・その場には熊狗が二体。

けれどもどうやら、彼らは・・・エルムがこれからのことを予測し、遠くシャクラディアから呼び寄せていたのです。

 

それに・・・伝えられたことも、どこかこれから起こることを前提にした上でのことに、熊狗の一匹は心配をしたりもしたものなのですが、

主の決意の・・・殊の外固かったことに、命に服しようとしたところ―――・・・〕

 

 

キ:そろそろ終わったかぁ・・・くだらねぇ―――

  お前らがこれから何をしようとも、この娘の命を握られたままでは手も足も出はしまい!

 

エ:・・・確かに、ね―――けども、その子を穢れたあんたの手より逃がすことは、嚢中の珠を探るより簡単なことなんだよ!

=裏面・九式:リヴァーサルゲイン=

 

リ:あ・あっ―――・・・

エ:―――ヘライトス!今だよ!!

 

へ:>畏まりました―――リリア様、しばしのご容赦を・・・<

 

キ:フン―――あの娘とお前の位相を変えて、あの娘だけ脱出させたか・・・

  だぁが、依然としてお前の窮地には・・・

 

=裏面・三十六式:アシッドアロウ=

 

キ:ぐぅおぅっ―――?!

エ:ヘンッ・・・どうだい―――酸の矢はきついだろう!

 

キ:ぬうぅっ~・・・味な真似を―――こうなったら、貴様らもろとも、塵と化してくれるわ!!

=蒙古覇極道=

 

 

〔ヴァンパイアの操る魔術・・・「裏面式」で、キュクノスの手の内にあったリリアと、エルム自身の位相の変換を行い、

またエルム自身もキュクノスの手より脱出する際には、眼晦ましとも云える酸の矢を、キュクノスの顔面めがけて放ったのです。

 

するとエルムの思惑通りに、酸の刺激に思わず両手で顔を覆ってしまったキュクノスのお陰で、エルムは自由の身に・・・

しかしそこでキュクノスは怒り心頭となってしまい、破壊力のある突進技を繰り出してきたのです。

 

この技を見たリリア達は、さすがに覚悟を決め・・・思わず目を瞑ってしまったようなのですが―――

中々技の衝撃は、自分たちに届いてこなかった・・・

 

それもそのはず―――あのキュクノスの突進技を止めた者が・・・〕

 

 

リ:ああっ―――エルム様!!

 

エ:あんたの・・・莫迦の一つ覚えの突進技など、もう私は見切っているんだよ!

キ:・・・らしいようだなぁ―――だが、それでこそ・・・だ、エルム。

  やはりお前はワシにこそ相応しい・・・どうだ―――今一度考え直さんか・・・

 

エ:何を莫迦な―――あんたからのお誘いは、あの時に断ったはず・・・

キ:フッ―――フフフ・・・だった、な。

  ―――とは云え、お前は忘れておる・・・なぜ、お前がワシを越えられぬのか・・・そのことを!!

 

エ:(!!)ヘライトス・・・何をしている―――早くお逃げ!!

 

へ:>リリア様・・・御免―――!<

リ:な・・・何をするの―――止め・・・

 

エルム様ぁ~!

 

〔自らが奥儀の一つとしている技を破られたとしても、魔将は動揺だにしていませんでした。

それどころか、エルムがキュクノスを越えられない一線―――そのことを口にしたのです。

 

そのことは、エルムの方でも承知していたのかも知れません―――

それ故に、急に身の危険を感じたエルムは、下僕である熊狗の♂に向かい・・・

最後の命令―――この場から逃げることを下したのです。〕

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

 

 

あと