≪六節;旨酒(うまさけ)≫
イ:さぁさぁ・・・まだまだこれからですぞ?
ア:あの・・・これは?
イ:まぁ、一献飲んでみて下され。
ア:はぁ―――・・・
・・・ん?? ぷっはぁ〜〜――――っ! こっ、これは?!!
影:<これは―――お酒か!>
ア:ええっ?! お酒??
イ:おや―――初めてでしたかな―――?
ア:え? は・・・はぁ―――
イ:それで、いかがなもんです? 中々に旨いものでしょう――――
ア:は―――・・・はぁ・・・
イ:どれ―――もう一献・・・
影:<どれ、次は私が試飲してみよう。>
ア:<えっ―――? あの・・・>
影:<まぁ―――いいじゃないか。
実はね、これに滅法目が無い人がいて・・・私もムリヤリに飲まされて、その味を覚えた口なんだ。>
ア:<はぁ・・・それはどなたなのです?>
影:<私の―――「姉」なんだ・・・>
ア:<「姉」?? どなたかご姉妹がおられるのです?>
影:<うん――・・・まぁね、どれ、一つ・・・・>
ア:うぅ〜〜―――ん・・・旨いっ! どうやら今年の新酒のようですね。
いや・・・実にいい仕上がりだ。
イ:―――でしょう・・・♪ どれ、もう一献・・・・
ア:〜〜―――はあぁ・・・・っ・・・
いや・・・実にいい米と麹を使っている。
このまろ味と甘さは・・・ひょっとするとガレリア地方のものなのでは?
イ:は―――? い、今そなた・・・なんと?!
ア:はい? ガレリア地方・・・だが――――それが何か??
イ:(ふむぅ・・・)確かに―――この新酒の原料ともなる米は、かつてはそう呼ばれていた地方のものなのだが――――
ア:い―――・・・今は違う・・・の、ですか?
イ:はぁ―――今は「コクトー」となっておりますが・・・
それに、そのガレリアという地名、今より5万年前まで使われていた―――とか・・・?
ア:(し、しまった―――!)い・・・いゃあ・・・わ、私もそうではないかな〜・・・なんて思ってたりなんかして・・・
ち―――ちょっと酔ってきたようなので、外へ出て夜風に当たってまいります――――
〔イクが、アヱカにお近付きの印―――と、杯台に注いだのは、今年出来上がったばかりの「新酒」なのでした。
しかもこれは―――アヱカにとっては初体験でもあったのですが、別段悪い気はしなかったようです。
そこで・・・件(くだん)の影の人も、わざわざアヱカの身体をまた借りて試飲をしたようです・・・。
でも―――その時、たまたま口から出た言葉・・・・『ガレリア』という地名が出てしまってから、
イクの手がパタリ―――と、止まってしまったのです。
それはどうして―――?
なぜならば、『ガレリア』というのが、今では使われていない地名だからであり、
しかもその地名も、今より5万年も前―――に、七度(ななたび)変わり、今のコクトーに落ち着いたのだから・・・
だからその事―――つまり、影の人が知っている地名と、今の地名とが違っているということに、
苦し紛れにその場を濁し、一時場を離れるアヱカが――――〕
ア:はァ・・・・参ったなぁ、今の失言―――酔いの上での戯言で、済ませてもらえないものだろうか・・・・
ア:<あの―――・・・・もし?>
影:あぁ―――アヱカか・・・・なんだい?
ア:<今の―――・・・昔の地名と言い、それにこの国の臣下達とのやり取りと言い・・・・
あなたという人は、本当は何者なのです?>
影:そろそろ―――来る頃だと思っていたよ。
けれども、このコトを説明するのには時間が要るんだ・・・申し訳ないが、今はそれ以上は答えられない。
ア:<・・・・そうですか―――未だ、この期に及んでも、ご自分の事をお話しになっていただけないとは・・・・
わたくしは、実に情けのうございます――――>
影:随分と・・・厳しいことを言うんだね、アヱカ――――
でもね・・・物事にはちゃんとした道理というものがあるんだ。
それをきちんと踏まえもせずに、結論だけを述べたとして、果たして君は納得できるものなのかな。
ア:<そ―――それは・・・>
影:出来ないだろう? 君もそのことが判らないほど莫迦じゃない。
まぁ・・・これは、そのうちの準備段階とでも思ってくれさえすれば・・・それでいい。
改めて、この私が何者で、どうしてこの場に存在しうるか・・・その意義が君にも判ってきた時に、驚いてもらいたくはないんだ。
ア:<そうは申されましても―――・・・・今までので、十分に驚いております。>
影:あっははは―――面白いことを云うものだね、アヱカ。
まぁいい、私もこれから寄らなければならない処があるから、後の事は適当に煙に撒いておいてくれないかな――――
ア:あっ―――あの・・・行って、しまわれたの? それにしても、身勝手な方ですわね・・・。
〔これは、アヱカ姫の一人芝居・・・ではなく、アヱカ本人と、影の人とのやり取り・・・
それは、今日一日起こった事―――そのままを総括しての質疑応答だったのですが、
未だ、下準備もままならないでいる影の人にとって、それは都合の悪い事らしく、
肝心なところはぼかされたままに・・・・その人は何処かへと去っていったようなのです。〕
To be continued・・・・