≪五節;決意≫

 

 

〔一方その頃―――・・・サライへの帰途の途上だった特使は、今回帰りの宿としているヴェルノア公国・カリヨステの町で、

自分たちの種族、エルフが行使する魔法技術で、遠く離れたサライ国・聖都ヴェルフィオーレにいる、

彼の上司とも云える大司教(マルシェビキコプス)・ゴウガシャに、今回のことの次第を報告している最中でした。〕

 

 

ゴ:>そうか・・・折衝は難航しそうだな。<

特:はい―――こちら側からしても、パライソ国には何ら罪を被せるつもりはなかったので、すんなりと受け入れてもらえると思ってはいたのですが・・・

 

ゴ:>いや―――・・・しかし、パライソ国女皇におかれては、拒絶したのはそこではないのだろう。

  報告の内容を聞く処では、そのように感じたが・・・<

特:その通りにございます―――あの方は、何よりも第一に民たちのことを考えていらっしゃる・・・。

  それに、『女禍の魂』を受け継いでいると云う噂も強(あなが)ち―――・・・

 

ゴ:>ふぅむ・・・ならば早急に、代替え案を用意する必要があるな。

  それに、女皇陛下のお気持ちを察せず、逆撫でしたこちらの過ちも認めなければ・・・

 

  そう云う事で、卿も急ぎヴェルフィオーレへと戻ってくれたまえ。

  急ぎ、案を練り込まなければならない―――<

 

特:承知いたしました―――

 

 

〔そこでは、当時の技術としてはあまりにも似つかわしくないモノ―――

喩え、遠隔の地であったとしても、音声や映像が近くにいる時のように感じる・・・そんな技術があしらわれた、一つの筐体が存在したのですから。

 

けれどこの技術も、云わばシャクラディアにあるモノと酷似している・・・と、気付かなければならないのですが―――

今、重要な処はそんな処ではなく、、サライの―――アヱカに対する評価の内容なのでした。

 

 

パライソ国の女皇陛下が、サライ国からの折衝内容を拒絶したと云うのも、

自分の国の国益が損なわれるから―――と、云うモノではなく、今回の折衝内容の対象となっていたヴェルノア公国の領民たちのことを考えていた・・・と、云う事に、

アヱカが「古(いにし)えの皇」である女禍に准(なぞら)えられていることも一理ある―――ともしていたのです。

 

片や、そのアヱカは・・・と、云うと、配下であるタケルの策を、気持ち半分で聞いていることに注意を受けてしまい―――〕

 

 

タ:―――アヱカ様・・・?

ア:ああ・・・すまない―――少し考え事をしていてね。

 

タ:考え事―――とは、何をお考えになられていたのでしょう。

ア:いや―――なに・・・サライにいる、或る人のことなんだけれどね・・・

 

タ:或る人―――・・・

ア:うん・・・その人はここ最近、表舞台に出てきていないみたいだからね。

  だから、どうしているのかなぁ―――そう思って・・・

 

タ:お知り合い―――の、方なので?

ア:フフッ―――随分と昔の話になるのだけれどね。

 

 

〔滅多と、他人が話しをしている時に別の考え事などしないお方が、一番信頼を置いている臣下の話しを気持ち半分で聞いていた―――

それはそれでどうかとも思われるのですが、どうもアヱカは、今回の件がサライ国も深く係わり出してきたことから、

そのことに対する案を模索していた・・・とも、取れなくもなかったのです。

 

ところが―――その時にはそうではなかったらしく、云わば回顧にも似た思いを馳せていたようなのです。

 

それも・・・サライ国に、昔の自分の知り合いがいる―――と、云うような感じで・・・

 

すると、突然何かを思い立ったかのように―――〕

 

 

ア:よし―――決めた!

  タケル、私も今回の外渉団の一員に加えてもらおう。

  それも・・・女皇ではなく、一人の官吏として―――

タ:は?? で・・・ですが―――

 

ア:玉座の心配ならば、ルリさんに任せておけばいい―――

  それから、ウェオブリにいる婀陀那さんも外渉団に・・・

タ:―――なんですと? いや、しかし・・・それでは・・・

 

ア:大丈夫―――彼女の代わりならば君が務めればいい・・・

  それに、心配しなくても、今回の交渉事は必ずや成功するよ。

 

 

〔そこでは、タケルでさえ驚くほどの奇抜さが覗われました。

 

それに・・・やはりアヱカは、タケルが今回の対策を講じている間にも、回顧に浸りながらあることを模索していた―――

 

それが、今回のことの詫び状を携えた外渉団に、アヱカ自身と・・・それと、婀陀那をも伴って参加する―――と、云う事だったのです。

 

そのことに、タケルも・・・そこまでする必要があるのか―――と、つい思いたくもなったのですが、

アヱカの決意は、彼が想像している以上に頑(かたく)なであり、しかも相当強い確信を抱いてもいた―――・・・

 

自分の主の知る、サライ国の知り合い―――またそれと相成って、女皇自身が政策に動こうとしていることに、

タケルは強い興味を惹かれ・・・今回の策の全般を、アヱカに託してみることにしたのです。〕

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

あと