≪五節;サライ国内の波紋≫

 

 

〔こうして、何とか婀陀那を宥(なだ)めすかしたタケルは、女皇アヱカから相談を持ちかけられていることもあるとし、

旨くその場を切り抜け、単身シャクラディアへと赴いたのです。

 

そんな・・・夫の背中を見送った婀陀那の下に―――〕

 

 

梟:婀陀那様―――イセリア様よりご相談があるとのことですが・・・

婀:ナオミ殿か―――判った、すぐに参ろう。

 

 

〔婀陀那は内面、心中穏やかならぬものがありましたが、そういったものは政策や軍務での論議である程度紛らわせるものと思い、

今は頭を切り替えて、イセリアからの打診に応ずるため、彼女の待つ応接の間に足を向けたのです。

 

しかし・・・この、イセリアとの対話が、これからのパライソ国に新風を巻き起こすこととなるのです。

 

 

その一方で―――今回、当該国の一つでもあったサライ国でも、一つの・・・それも大きな波紋が細波(さざな)いでいるのでした。

そして、その中心にいたのは―――・・・

 

パライソ国からの外渉団が帰国した翌日、協議を進めるために、次々とヴェルフィオーレへと集まるサライ国の司祭や司教、枢機卿達。

ところが・・・話し合うための会議室に入ろうとしていた者達が目にしたものとは―――〕

 

 

ゴ:それにしても・・・今回の外交は、非常に上手くいったと云えたでしょう。

  女皇陛下の治める国も、中々に礼節を弁(わきま)えていると見えますな。

 

  ―――ところでどうしたのです、卿らはなぜに部屋の中に入ろうとしないのです。

 

司:そ・・・それがその〜〜―――

枢:・・・我らも見知らぬ顔が、何と教皇様の席に陣取っておりまして―――

 

 

〔サライ国においては、国家の最高指導者にして「列強」の国王達と同格だと云えた、教皇―――ナユタ=ディーヴァ=シルメリア・・・

その人物が座る席に、どこぞかの不心得者が、すでに陣取っていると聞き―――

実質上では教皇に次ぐ権力を握っている 大司教(マルシェビキコプス) であるゴウガシャが、他の信徒たちの手前もある為、

その不心得者に対し、厳重注意を促せようとしたところ―――・・・〕

 

 

ゴ:これ―――そな・・・あ、ああっ?! あなた―――様は?!!

 

 

〔サライと云う国家の、国中で一番に畏敬を払われなければいけない人物・・・

その人物が座らなければいけない席に、ただ―――ただ―――権威をもって、堂々たる風格を持ち合わせた者が、すでに腰を据えていた・・・

 

しかし、ゴウガシャはこの人物を知っていたらしいのです。

 

確かに、今現在におけるサライ国の当主は、教皇をおいては他にはない―――と、思われていましたが・・・

実はもう一人、そこに座ることを赦された人物が、自分たちよりも先んじてそこに座っていた―――それだけのことだったのです。

 

では、自分たちが崇める教皇以外に、その席を座ることを赦された人物とは―――・・・〕

 

 

ミ:随分と・・・また、久しぶりだな―――セガール・・・

  いや、今はゴウガシャと呼んだ方が良いか―――

 

ゴ:・・・創主・ミトラ様―――

 

 

〔ゴウガシャは・・・教皇が座るべき席に、既に座っている意外すぎる顔に、ただ―――息を呑むばかりでした。

 

それもそのはず、その人物こそはゴウガシャ自身の父―――アソウギの同志にして彼自身の師・・・

また或いは、友であり主君であるナユタの・・・実の母親にして、サライ国の礎を築いた人物だったのですから。

 

しかも、間の悪い事に―――・・・〕

 

 

ナ:これ、ゴウガシャ・・・どうしたと云うのです。

ゴ:ああっ、これは・・・いやそれよりも一大事でございます。

  あなたの母上である方が―――・・・

 

ナ:なんと―――?!

 

ミ:ほう・・・今頃になってようやくご出勤か。

  いい身分になったものだな・・・。

 

  私がこの団体を作り、代表に収まっていた時には、他の誰よりも先んじ、議事の進行予定などを立てていたモノなのだが・・・な。

 

ナ:―――・・・。

 

ミ:・・・返事は、なし―――か・・・

  私は、そのように躾けた覚えはないのだがな。

  あたら自分がお偉い者だ―――と、勘違いと驕慢さだけが育ったようだ。

 

  まあいい・・・この私の横に座りなさい。

 

ナ:―――・・・。

 

ミ:・・・私の―――声が聞こえなかったのか。

  それとも敢えて聞く耳を持とうとしないのか・・・。

 

  ここへきて―――私の隣に座れと云っている!

 

ナ:は・・・っ―――はい・・・

 

ミ:諸卿らも、各自の席に着きたまえ・・・これより私から云って聞かせることがある。

 

 

〔自分たちが崇める教皇を、あたかも自分の子供を叱咤するかのように接する人物がいる・・・

 

しかも、教皇も大司教も畏れを為してなのか、その人物には返す言葉もなく、ただ押し黙ってその人物の云うなりになっていた。

そこで他の者達は、大いに感じるところとなったのです。

 

教皇と大司教でさえ平伏するこの人物こそ―――サライ建国の祖にして、マハトマの創設者である・・・ミトラであると云う事を。〕

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

あと