≪五節;砂の器≫
〔それにしても・・・なんと云う憤り―――
通話口からでもその雰囲気が感じられる―――
ただ、キリエにとって幸いだったのは、今現在そんな母の下にいなかったと云う事実・・・
けれども、今となってはそんなことは云っていられなくなってきた状況になっていたのです。
それが故の「ダイレクト・コール」―――
ナゼ、人間とは違う種族の母娘が、その種族固有の言語である「竜言語」<ドラゴンズ・ローアー>で、言葉を交わしていたのか・・・
その理由とは、最早多くを語らず・・・〕
ヱ:私たちの陛下が、断腸の想いで発令をしてより早、半月・・・
なのに―――成果と云えば城の一部しか陥落(おと)せておらん。
これでは何をして陛下への申し開きとするのだ。
キ:≫も・・・申し訳次第も―――御座いません・・・≪
ヱ:フン・・・まあいい―――
だがな、私はそれでも我慢を積み重ねてきているのだ。
ただ・・・一つ、我慢をし切れないところがあってな―――実は、最近シュターデンのヤツに、私が丸くなったと云われてしまってな・・・
〔公爵様が・・・ママーシャにそんなことを?!
あの人ったらなんてことを―――・・・
そう云えば、なんだかここ最近のママーシャの態度が、以前とは違ってきていたって云うのは・・・そう云う事だったの??
キリエは、自分の母と同格の人物からの、何気ない一言で気にしてしまっている母と―――
母の本来の性格を無理に抑え込んでしまっているため、そのギャップから来るフラストレーションやストレスの所為で、
母の機嫌が悪くなっている・・・・と、そう理解しました。
しかし―――
確かに、ヱリヤにしてみれば、この不快感はそこから来るものだと感じてはいたようなのですが・・・
実を云うと、ヱリヤ自身はその状況を愉しんでもいたのです。
それと云うのも―――・・・〕
ヱ:そこで―――だ・・・
本当に私が丸くなってしまったものかどうか、一つ試してみようと思っていることがあってな。
キ:≫は・・・?え・・・?≪
紫:な―――なんですか?それは・・・
―――『砂の器』?
〔恐らく隣にいるのだろう、本陣にて戦局を見据えている指揮官の紫苑が発した言葉のお陰で、キリエは自分の母が何をしでかそうとしているのを理解し始めました。
それが・・・『砂の器』―――
最初に一目見た時、紫苑は感じたままを口から発しましたが、そのモノ自体があまりにも戦場とかけ離れていたため、
それが「砂時計」だと判るのにしばらくかかってしまいました。
しかし―――キリエにしてみれば、そのことの自体が何を意味するのか判っているらしく・・・〕
キ:≫ま―――まさか・・・大尉・驃騎将軍! まさかあなた様は!!≪
ヱ:察しが好いようだな・・・愛しのわが娘よ。
今、お前が理解している通り、この砂が下の容器に落ち切るまで―――それがタイムリミットだ。
それが過ぎれば・・・私は、もう、我慢をすることを辞めるとする。
キ:≫ちょ―――ちょっと待ってください!!
では、彼らは・・・
ノブシゲさんやチカラさん―――タルタロスさんやベイガンは、どうしろと・・・?≪
ヱ:では―――健闘を祈る。
〔何と云う事だ・・・自分の母は、母自身の身に起こっている異状を愉しみ、また自分自身に対しても試練を・・・
いや―――戯れを申し出てきたのだ・・・。
あの砂時計の期限は三ヶ月―――
この年も、あと三ヶ月もすれば新しき年となる・・・
恐らくは、そこのところもあるのだろう―――
が・・・
キリエが危惧していたのは、そんな事にではなく、あの砂時計の砂が総て落ち切ってしまった時に、
自分の母がどう云う行動に出るのかが判っていたからでした。
そう・・・あの砂時計の期限(砂)が、切れてしまった時(総て落ち切ったとき)―――
再び、ワコウの城は紅蓮の焔に包まれるところとなる―――
しかも今回はカルマ軍だけではなく、ワコウ城を攻略しているパライソ軍の将兵たちに対しても、
分け隔てなく平等に死と云うものを与えようとしている・・・
キリエは、過去に一度だけ、母があの砂の器を使い、カルマたちを焼き尽くした時のことを思い出していました。
生き物の焼ける厭な臭い―――
当時まだ幼かったキリエにとって、生理的にもその臭いは厭なものでした。
それをこんな時に―――・・・
いや、こんな時だからこそ、あの時と同じ状況を創り出そうとしているのかもしれない・・・
そして、そのことを唯一知る自分に対し、ワコウ城の攻略の早期決着を求めているのかもしれない・・・
そうキリエは理解したのです。〕
To be continued・・・・