≪八節;風雲急を告ぐ≫

 

 

〔閑話休題―――それからまたしばらくして、その宿の泊まり部屋には、今度はこの人物が・・・〕

 

 

紫:―――失礼いたします。

ア:(あ・・・)紫苑さん。

 

紫:アヱカ様・・・―――ふぅ・・・なんともないようですね、よかった―――

ア:え――――??

キ:どうか・・・したのですか?

 

紫:・・・・いえ、少しアヱカ様に対し、余りよくないお噂を耳に入れましたので・・・

  それで、お気を悪くされていないものか―――と、思い、直接私がお伺いに来たのです。

 

キ:ほぅ―――で、その「お噂」とは、一体どんなものなのです・・・かな?

紫:お婆さん―――・・・それが、アヱカ様が簒奪(さんだつ)を目論んで、宮中を出入りしている――――などと、根も葉もないような事を・・・・

 

キ:な・・・なんですとっ―――! そのような事を吹き込む輩が〜・・・

ア:あの―――キリエさん・・・

 

キ:分かって・・・おりますよ。

  して、何者がそのような噂話を?

 

紫:はぁ・・・それが―――私も、あそこの女官の一人から聞き出した次第なので・・・

 

キ:と―――なると・・・・王后?

紫:恐らく―――は・・・ですが、確証がない限りでは・・・・

 

キ:恥をかいて、逆に揚げ足を取られかねない――――と・・・

紫:はい・・・。

  そこで提案なのですが、私は一時的にここを離れ、この事を夜ノ街の婀陀那様の下(もと)に持ち帰ってみようと思うのです。

 

ア:そうですか・・・分かりました。

  幸いに、こちらにはキリエさんも、コみゅ・乃亜ちゃんもいることですし、

  わたくしもここしばらくは、宮城には参らぬことといたしましょう。

 

紫:は―――では、すぐにでも出立いたしますので・・・

  お婆さん、あとの事お頼み申し上げます。

 

キ:はいはい――――お任せ下さいよ・・・。

 

 

〔その人物―――とは、アヱカのお目付け役でもあった紫苑だったのです。

でも・・・その彼女は、入室するや否や、アヱカを確かめるように見―――無事な事を知って安堵したようです。

 

しかし―――ナゼ彼女がこんな事を?

そのわけが、紫苑の耳にもアヱカを誹謗中傷する噂が入り、そのことで心配になった紫苑が、急ぎアヱカの下(もと)に参じてみれば・・・

何事もなく、杞憂に過ぎたものだ―――と、云うことのようだったのです。

 

でも、このままではいけないと思ったのか、紫苑はあることを提示してみたのです。

それは―――間違いなく、自分の直接の上司でもあるギルド・現頭領―――婀陀那に、事の顛末を話しておくということ・・・

そして、その上で何らかの解決策を講じようともしたようです。

 

 

こうして―――それらの物事の了承を得るために、急ぎ夜ノ街へと還る紫苑・・・・と、そのあとで―――〕

 

 

キ:・・・・あの、アヱカ様―――

ア:はい、なんでしょう、キリエさん。

 

キ:実は・・・あれからよく考えたのですが―――私も一時的に、夜ノ街に帰還してみようか・・・と、思っているのです。

ア:え・・・? で―――でも・・・

 

キ:よろしいですか―――私も、此度の一件で肌身に感じたことなのですが・・・

  これは、思ったよりも長引きそうなことになりはしないか・・・とも思えるのです。

 

ア:――――・・・成る程、お前もそう感じたか。

キ:(女禍様!)・・・はい。

  そこで、僅かながらの期間、あなた様のお側を離れなくてはならなくなるのですが・・・・

 

コ:はいっ―――あとは、長史のアタシにお任せ下さいっ。

乃:おなちく、ちょうちのあたちも、おねぇちゃまといっちょに、まかちぇてくだちゃいっ。

 

キ:(だ・・・大丈夫かなァ・・・・)

 

ア:<えっ?コみゅちゃん?乃亜ちゃん?? これは・・・どういう事なのです?>

 

女:ぅん? はは―――つまりね、キリエは・・・これから必要となるモノを、取りに帰ろう・・・と、いうことなんだよ。

  それに、この子達二人も、私の治世から仕えてきている、重要な官ではあるし・・・ね。

 

ア:<まぁ・・・そうだったの、それに、なんです? 必要な・・・モノ?>

女:うん・・・これからは、何かと物入りになってくる事だろう・・・

  それを見込んでの、資金となるものや換金できうるものなどをね、それから―――・・・

 

キ:はい、これからは私の一存でも動けるように、自分の「グノーシス」を取りに戻ろう・・・と、いうことなのです。

 

ア:<ぐ・・・ぐのー・・・しす?>

 

女:(ふぅ・・・む)だが、しかし――― 一度それを得ると、その姿(老婆の)ではいられなくなるはずだが・・・

 

キ:それはそれで一向に構わないと思います。

  それに・・・この姿では、逆に何かと制限がついて廻ることでしょうから。

 

女:確かに―――な、それに・・・年老いた者の代わりだ―――と、述べておけば、すむことでもあるし・・・な。

  よし―――分かった、そのことは許可しよう・・・だけど、なるべく早く帰ってきておくれ・・・。

 

キ:ははっ―――かしこまりまして。

 

 

〔なんと、この時キリエまでもが、夜ノ街に戻ると言い出したのです。

 

でもそれは、何も職務放棄云々―――と、言った意味ではなく、自身の「グノーシス」をとりに戻るためと、

これから必要になるであろう「資金」や、「換金でき得るモノ」を、いくらか持ち出してこようというのです。

 

 

しかし―――これは、何かしらの偶然なのか・・・果てまたは、既に仕組まれた策謀だったのか――――

この・・・三者三様の身に置かれた「宿」は、これから激しく流転していくのです・・・・。〕

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

あと