≪四節;花押≫
〔それはそうと―――マディアノからの急使がジュデッカに到着し、事の次第がノブシゲ本人に伝わると・・・〕
ノ:(フム・・・タケルの奴、何用だろう・・・。
まあ、今は一時(いっとき)の休息だし、それに・・・ここ最近のヱリヤ様は荒れているようだし―――な。
よし、行ってみるとするか。)
〔パライソ国にいる、元ラージャの主(おも)だった者は、このノブシゲとあと一人―――タケルの実弟であるチカラだけでした。
しかし―――そう・・・今回タケルは、弟のチカラではなく、幼馴染で親友でもあるノブシゲにある話を持ちかけてきたのです。
それには、ある理由があるからなのですが・・・
でもそれとは関係なく予定は進んで行き、二日を掛けて戻ってきた使い番と共に、ノブシゲはタケルに面通りをし・・・〕
ノ:おう―――それがしを呼びつけたのは、なんの用があってのことなのだ、タケル。
タ:多くは語らん―――その前に、まづお前に見て貰いたいモノがあるのだ・・・。
〔タケルにしては、豪(えら)く勿体つけた様な物言いでした。
だから自分なのか―――と、そう思ったノブシゲでありましたが・・・
やはり自分なのだ―――・・・タケルが見せつけたモノを見るなり、ノブシゲはそう思ったものでした。〕
タ:それはな・・・これのことなのだ―――
ノ:(・・・ん?) んん―――? こ・・・これは―――!?
〔血で綴られた文字・・・「血文字」―――
その血文字は、或る意味西国出身のラージャの人間でなければ判り辛いものでした。
けれどタケルは、血の繋がった実弟より寧ろ他人であるノブシゲを選んだのです。
その理由の一つに・・・血の繋がった―――つまり、タケルとチカラは、同じ「シノーラ」の家で生を育んできた・・・
それに、同じ家の出ならば、当家の事情も判っていた―――けれど、そのことだけで都合が悪くなってしまう場合もありうるのです。
実を云うと、血文字で綴られた何かの標のようなモノ―――これが、そちらの事情にも入り込んでくるモノだった・・・と、したら?
それに、ノブシゲもどうやらこの血文字の標が意味する処を理解出来たモノと見え・・・〕
ノ:これは・・・・っ―――!!
タ:そうだ・・・これは―――ワシの義姉・・・ジィルガ=式部=シノーラの・・・「花押」に相違ない。
ノ:莫迦な?! あの方はお前を救うために―――
タ:その通りだ・・・そのことは、誰よりもワシが一番よく心得ている。
〔彼女がまだ存命だった頃―――聡明な巫女は誰もの羨望の的でした・・・。
カルマの―――ワグナスが攻め込んでくるまでは・・・
当時のラージャは、ワグナスの戯れに揉まれ、実に多くの犠牲者を出してしまいました。
その内の一人に、日頃皆に慕われていたジィルガも含まれていたのです。
そのことに、当時はまだ若過ぎたタケルは失意の底に沈み、しかも事実上の敗戦ともなった責任を取るため、
当時就いていた「大老職」を自ら辞する処となり、それと共に都ワコウから人里離れた処にて庵を構え、隠居生活をしていたのです。
それから歳月は光陰の矢の様に過ぎゆき―――今またここに、何の因果か・・・故人の標を目にすることになろうとは・・・。
―――だとしたら?
義姉は自分に何を伝えようとしていたのか・・・
それともこれは、敵の遺した策なのか―――・・・
だからこそ、タケルは慎重になっていたのです。〕
To be continued・・・・