≪四節;新州公、蔵の点検に入る≫
〔それからしばらくして――――ガク州城に到着したアヱカは・・・。〕
ア:どうも申し訳ございません、予定より大幅に遅れてしまいました。
セ:あっ―――!? アヱカ様・・・どうなされたのです、全身が泥だらけになられて―――
ア:いえ―――あの・・・その・・・実は、この地がどうなのかを巡察していました折に、誤って転んでしまいまして・・・。
ちょっとはしたないところをお見せして、申し訳ありません。(ペコリ)
セ:はぁ―――そうでしたか・・・。
(・・・・うんっ?? この方の―――手の爪に土が?? ただ転んだだけなら、あのようなところには、土は入り込まないはずなのだが・・・・
まさか―――?)
〔ごらんのように、農耕作を手伝っていたお蔭で、アヱカは土塗(まみ)れ・・・・
しかし、アヱカはそのことを言わなかっただけでなく、自分の不注意でこうなってしまった―――と、言ったのです。
でも、セキは、アヱカの手の爪を見るに及び、それは嘘なのでは―――と、思っていたのです。
それはまぁそれとして――――今は十分に身なりを整え、州の役人達と初顔合わせをする、
新・ガク州州公としてのアヱカ・・・。〕
ア:この度――― 新たにここ、ガク州の州公に任ぜられた、アヱカ=ラー=ガラドリエルと申し上げる者です。
以後、宜しく・・・・。
官:それはそうと―――新州公におかれては、予定の時刻に遅れただけでなく、
何でも聞くところによると、州城まで徒歩(かち)で来なされた――――と?
官:な、なんと――――
官:それであの馬車に、セキ様しか乗っておられなんだのか―――
官:なにを考えておるのやら――――
―――ザワザワ・・・・わいわい・がやがや―――
ア:・・・・それは、本当の事です。
わたくしは、この地に赴任するに際し、ここに住まう民達の暮らしの実情がどうあるのか―――
それを前もって知っておく必要があると思い、敢えて徒歩でここまで来たのです。
そして―――事実を知るに及び、とても残念に思ったことも、また事実でございます。
あんなにも・・・よい土をお持ちなのに―――― ここの田畑は、その半分が死んでいるではございませんか?!
それに・・・民の一人に、この州での税制がどうあるかも、聞いて参りました。
官:えっ――――?!!
官:な、なにっ――――?!!
セ:ここの・・・・ガク州の税制?!
ア:(コク・・・)セキ殿、今、都・ウェオブリのある、チ州での税率がどの程度か・・・知っておいでか?
セ:ナニを申されるやら・・・チ州に及ばず、他の州―――いや、この大陸においては、その率は古えより不変のものだと思いますが・・・?
ア:では――― 収穫分の二割・・・ということだな?
セ:はい―――それはもう間違いなく・・・。
ア:本当に――― その率の分だけ、税を取り立てているの・・・だな?
セ:・・・・はぁ??
ア:まぁ―――それはいいとして。
私が実際にその民の口から聞いたのは・・・収穫分の六割――――だ、そうだが・・・・。
セ:な、なんですと―――それは・・・??
ア:ああ――― 紛れもない事実だ。
セ:む・・・・むむぅ〜〜―――だとしたなら、アヱカ様が言われおいた、『この土地の半分が死んでいる』というのも、合点がいく・・・。
これ―――州司農、これはどういう事なのか、端的に説明してもらおうか。
官:は――――ははぁ・・・
ア:まァ―――セキ殿・・・。
セ:ア、アヱカ様―――?
ア:それより、これから州の蔵の点検に、私自ら入る。
案内していただけまいか―――
官:(ぐ・ぅぅ・・・)か―――かしこまって・・・・
〔ガク州の事実上の施政官になったのに、馬車にも乗らず、州城までを徒歩で来ていた・・・という、就任当初から痛いところを突かれたアヱカなのですが、
でも、それ以上の事実を突きつけ、州官たちを黙らせたのです。
そしてそのことは、ごく自然と侍中であるセキの耳にも届き、『なんとも怪しからん事―――』と、思いつつも、
このときのアヱカの問いかけには、疑問も残りはしたのです。
なぜならば―――自分自身の目で、それを実際に確かめたことはないから・・・。
そして―――この州の、苛酷な税の取立てを知るに及び、セキは官の一人を厳しく問い質そうとしたのです・・・
――-が、アヱカは逆にそれを遮り、実際に租税が納められているであろう、州の蔵の点検を実施する―――と、明言したのです。
そう・・・これから動かぬ証拠を押さえるために―――
そして、州の蔵を点検するに及び、事実が露わとなってしまったのです。〕