≪五節;幼な子の、頬を張った者の真意≫

 

 

〔やはり―――ひと足遅かったか・・・サナトリウムから出る一歩手前で王后に見つかり、

しかも、あらぬ嫌疑までかけられ、嘲罵されていたのです。

 

―――と、そこへ・・・〕

 

 

ホ:姉ちゃ―――・・・あっ! やめて! 母さま、やめて?!!

ア:お・・・王子様?!

 

リ:ホウや・・・ナゼにこの女を庇(かば)うのじゃ―――

  この女は、そなた等を蔑(ないがし)ろにし、燦然たる王家を簒奪しようと企んでおるのじゃぞ―――?!!

 

ホ:母さま―――・・・?

  (キッ!)ボクの母さまは、決してそんなことを言ったりしない!

 

ボクの母さまは、いつも優しくて―――こんな事を言ったりはしない!! お前は誰だ!!

 

リ:ホ・・・ホウや?!! 何を言い給えるか・・・妾じゃ―――そなたの唯一の母なるぞ・・・??

ホ:何を言う!! ボクの知ってる母さまは、お前なんかのようなヤツじゃあないっ―――!!

  お前は誰だっ―――! お前は・・・ボクの母さまなんかじゃないっ!!

 

リ:あ―――・・・あぁ・・・ほ、ホウや・・・(ポロポロ)

 

 

〔自分が敬愛している、義兄の見舞いに来てくれていた女性を、お見送りするため・・・

ホウ王子が、アヱカのあとを付いていってみれば―――

 

丁度この時―――その人は、自分の母親らしき人物から打擲(ちょうちゃく)を受けていたのです。

しかも、その女の人を打っている自分の母親らしき人物は―――いつも、自分が知る上での、あの“優しい”母ではなく・・・

まるで鬼女のような形相をした人―――・・・

 

だから、その幼な子は、思わずも、自分の母親に対し・・・『自分の母親ではない』と、言ってしまったのでした。

 

 

すると―――その時・・・王后・リジュの前を何者かが横切り・・・・〕

 

―――             ちんッ〜☆ ―――

 

ホ:(え―――・・・っ??)

リ:(あぁ―――・・・)お、おま・え・・・・・??! た、大切なわが子に対し・・・なんという事を?!!

 

ア:――――・・・・。

 

 

〔フイに・・・リジュの、その前を横切り、ホウの頬を張ったのは―――

なんと・・・先程まで、王后に嘲罵・打擲され続けていた、アヱカ―――だったのです。

 

しかし、ナゼ・・・どうして彼女が、幼な子であるホウの頬を張ったのでしょうか―――

でも、それは間違いなく・・・・〕

 

 

ホ:お・・・お姉・・・・・ちゃん?

 

ア:・・・今―――、この方に対し、なんということを申し上げたのですか・・・・

リ:(ナ・・・ナニ??)

 

ホ:えっ―――・・・ええっ??

 

ア:この世に・・・唯一人しかいない、あなた様のお母上に対し・・・なんと言うことを申し上げたのかと言っているのです!!

ホ:えっ―――・・・でも、こいつは・・・

 

ア:“でも”でも、“こいつ”でもありませんっ!

わたくしは全くの他人ですから、この方に何を言われても構わないのです!!

  ですが・・・あなた様にとってこの方は、愛すべき・・・・そして、愛されるべき唯一の存在ではございませんか!!

 

  それを・・・・(ホロリ) なぜ・・・?! ナゼ、『母親などではない』などという、滅多な事を申し上げたのです・・・・

  ナゼそのような、哀しい事をおっしゃられたのです!!(ポロポロ)

 

ホ:お・・・お姉・・・ちゃん。

 

 

〔それは・・・不思議な光景でした。

 

少し厳しい顔をしながらも、泪ながらに訴えられたそれは、確実に、実の親を、親ではないと言った者と、その母親―――

そして、今までアヱカに辛く当たっていた者に響いていったのです。

 

しかもそれは、その者にこういった感情を芽生えさせていったのです・・・・。〕

 

 

リ:(この者・・・簒奪を目論む為に、宮中に入り込もうとしていたのではないのか??

  少なくとも、妾は・・・兄上や、そのお仲間内から、そう訴えかけられ、この者を排除するよう促されたのに・・・

  これでは全くの反対ではないか―――!!?)

 

 

ホ:お姉ちゃん―――ごめんね。

ア:いいえ―――王子様が真にお謝りにならなければならないのは、わたくしではなく、お母上に対して―――で、ございましょう?

 

ホ:(あ・・・)うん―――(クル) 母さま、ごめんなさい・・・

リ:・・・・ホウ―――

 

ア:それでは、わたくしの方からも・・・。

  ごめんなさい、王子様、急に頬を張られて、さぞや痛かったことでしょう――――

 

  ですが、わたくしは・・・わたくしの母が好きだった者ですから・・・

  ですから、あのようなことを申された王子様に対し、つい怒りがこみ上げてしまったのです。

 

  どうか、お許しになって下さいませ―――・・・。

 

ホ:ううん―――、お姉ちゃんこそ・・・手が痛かったでしょう? ボクなんかより、ずっと―――ずっと・・・・

 

ア:あぁ――――王子様!!(抱きッ!)

 

 

〔その・・・王子様をぶった者は、自分がなしてしまったことに対し、深い謝意を顕わすと共に、許しを乞い・・・

そして、けなげな王子様の、その言葉に、思わず彼を抱きしめていたのです。

 

 

でも―――その小さな肩は、小刻みに震えていたのでした・・・。〕

 

 

 

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

あと