≪八節;“影”・・・その心情―――≫
〔そして―――立つのにも、両脇を抱えられ、やっとの思いで立たせてもらい、
茫然自失になって部屋を出る際にも、かのお方から、畳み掛けるようなこの一言が―――・・・〕
公:此度の任、真に大儀ではあった・・・。
じゃが―――今一つ、そちら側の国境付近・・・カトラス砦に集結しつつある二箇師団は、
一体いかなる理由で集められたものなのか・・・。
その理由の如何によっては、前述のようになりうることを、重々承知しておかれよ―――
リ:――――・・・。(コク・・・)
〔ここにきて・・・初めて“影”役のルリの口から、その思惑が語られたのでした。
そう―――皆が、自分の存在の事を疑っていることなど、百をも承知の上・・・だったのだから。
しかも、そのことを確信するために遣わされた、今回の『特使』の一件・・・
それと時を同じくして、自国の国境付近に集結しつつあるという、“列強”の軍隊・・・
いわば、『今、そこにある危機』が、ヴェルノアの公主様の姿をした者の手によって、
血の一滴をも流すことなく、収められたというのです。
そのことに、今更ながら・・・ただ感心せざるを得なかった紫苑は―――〕
紫:(ふぅ・・・)全く―――大したものね、あなた・・・って人は。
ル:・・・・なにが―――ですか?
紫:この一件の事よ・・・。
それにしても、あの婀陀那様でさえ思いもつかないようなことを、さらりと―――
平然とやってのけてしまうなんて・・・
ル:平然と――――・・・・ですか・・・。
――――そんな風に、振舞った覚えなど、ありませんよ・・・。
紫:(フフッ―――・・・)ナニをそんなに謙遜を、事実あなたはあそこで―――(チラ)
――――ッッ!!? ど・・・どうしたの?!その手・・・!!
ル:(ギュ・・・ググ―――)私は・・・その元を質せば、一般庶民とそう変わりはありません・・・。
それが、どうしてあの方並みの“将器”を持ち合わせることが出来ましょうか―――
紫:ル・・・・ルリ―――
ル:(フッ・・・)これも―――事前に、綿密に仲間内と連絡を取れあってきた成果です。
あの方が存命で、この国に帰られたとき、少しでも所領が減っていて・・・あのようにどやしつけられては、敵いませんから―――ね。
〔その時―――彼女は、本当の彼女の言葉で喋り、本当の彼女の顔で微笑んでいた・・・
少なくとも、紫苑にはそう感じられていたのです。
しかし、その手には・・・・今までの緊張を物語るかのように、深く爪が肉に喰い込み・・・
その全身も、僅かながらに震えていたのでした・・・。〕
To be continued・・・・