≪十節;士大夫≫
男:おい―――ラクシュミ、外が騒がしいが、何かあったのか?
ア:(えっ―――?)今の声・・・
キ:(男―――?)なんだ・・・ボク、いるじゃない、ここの主人が―――・・・
ラ:えっ―――違うよ? この人は、先生の友達で・・・
男:ほほう―――ここの主、『典厩』を存じておいでとは・・・そなた、もしや―――
キ:そういう・・・あなたは―――?
―――ザ・・・
ア:き・・・キリエさん―――
男:ほお―――・・・それがしを見慣れない顔であると認識をし、自分の主の盾となるべく前方に塞がる―――とは・・・
成る程、そなたキリエと申すのか。
キ:(ムッ―――・・・)アヱカ様・・・お下がりを―――!
男:ふむ―――成る程・・・やはりそうでしたか。
そこな御仁が、フ国はガク州、州公・アヱカであるとは。
ノ:(ノブシゲ=弾正=タイラー;以前にも出演した、ラー・ジャ国の重鎮)
いや―――申し遅れた、それがし名はノブシゲ=弾正=タイラーと申し上げる。
キ:ノブ―――シゲ・・・・?
(ハッ!)もしやそなたは、“大老”“老中”に次ぐ高官である、“若年寄”の・・・!!
そんな方が―――どうしてこのような処に・・・
ノ:(フフ・・・)“このような処”―――とは・・・
キリエ殿も、ここの童子が言い置かれたことをもうお忘れであるのか?
キ:えっ―――?
ア:――――と、いうことは・・・
ノ:それがしは、十年来の友が、どうしておるか―――と、気にかけ、二日をかけて張り込んでおったのだが・・・
未だその成果は得られず―――と、いったところですかな。
〔そう―――その時、竹林の庵の主に代わり、そこにいたというのが、“彼”の十年来の友であるという、
ラー・ジャ国・若年寄の、ノブシゲという人物だったのです。
そして、意外な大人物が、自分たちを待ち構えているものと思い、改めての礼を施す、州公としてのアヱカが・・・〕
ア:それはそうと―――あなた様のような大人物がここにいるとは知らず・・・粗相をいたしました。
いかにも―――私が、ガク州を治めさせてもらっているアヱカです。
そしてこちらは、供としてついてきているキリエと申します。
それにしても―――ノブシゲ様も、ここの庵の主の智をお求めになって・・・
ノ:はは―――イヤイヤ、それはちと違いますなぁ・・・。
キ:それは―――どうして・・・?
ノ:うん―――?いや、なに・・・
元々ここの主の典厩は、それがしの国での老中にまで昇りつめた者・・・
それが、ある事を契機に、その職を辞め、若くして楽隠居をしておるのでなぁ―――・・・
少しでも頭痛の種を持ってきてやろう―――と、思ってきてみれば、どうしてかその事を察知して未だ帰ってこぬとは・・・
いやはや、悪い事は出来ぬものよ。
キ:(ププッ―――)
ア:これ―――キリエ・・・それにしても、面白い事を言われるものですね。
ノ:・・・それはそうと、異国の州公であるあなた様が、度々来られている―――と、いうのは・・・
ア:はい・・・私は、自分の至らない面を援けていただくために、ここの主の方にご助力を願おうと・・・
そう思い、足を向かわせてはいるのですが・・・これが不思議と“縁”(えにし)が結びつかぬようで・・・・
ノ:(・・・・ふむ)確かに―――典厩のヤツが、ラー・ジャより出てしまうことは痛い・・・
―――が、しかし・・・アレの力が要るというならば、やがてその願いは相手に通じることでしょう。
ア:ほ―――本当ですか??!
ノ:ええ―――それに、あいつを求めているのが、州公様のような方で良かった・・・。
若くて―――美しくて―――それでいて、利発そうで―――
ア:(えっ??)な・・・何を急に言われるやら―――からかう言葉はやめていただきたい。(顔紅)
ノ:はははは―――!からかうなどと・・・本当の事でございますよ―――
それに―――・・・
ア:(ぅん?!)―――なんでしよう。
ノ:・・・・いや、なんでも―――
(ふむ・・・これがかの噂にいい置かれた御仁か・・・確かに、その噂―――いや、それ以上に品位・人格、ともに申し分ない・・・。
それどころか、一国の州を治むる器ではない・・・おそらくは一国を治める立場にして、その才は大いに奮われるだろうに・・・
おっと―――今は、他国の心配をしてやれるどころの立場ではなかったな・・・)
〔この人物・・・ノブシゲがこの庵にいたというのは、
自分と同期であり、能力的にも自分より上をいくものが、こんなところに楽隠居をしているので、少しは皮肉・愚痴を言ってやろう―――・・・
と、そう冗談交じりに言ってはいたのですが、その実は、この庵の主“典厩”に少しでも考えを改めてもらおう―――と、説得をしに出向いてきていたのです。
そんなところに、丁度出会ったのが、アヱカとキリエ・・・しかも、この人物は、他人を鑑る目を持ち合わせていたようで、
州公・アヱカに関する、巷の噂と合わせて、その人物評価をしていたのです。〕
To be continued・・・・