≪五節;明かせられぬ理由≫
〔その一方で―――徐々に収まりつつある戦線を確認し、
たった一人で、手のつけられない荒くれ者のゴートサイクロップスをおびき寄せた、ガク州司馬・・・
自分たちの上司である彼女に、この事を知らせるため、ヒは彼女の形跡を辿っていったのです。
すると―――暫らくしたところで、彼女が騎乗していた馬の無惨な屍骸が見つかり、
イヤなことを想像してしまうのです。
―――もしかすると司馬は、この馬のようにあの魔物“一つ目の山羊頭の巨人”に討ち取られたのではないか―――と・・・
しかし、もう暫らく進むと、何かに警戒し、身構えているキリエの姿が―――
その彼女の姿を見て、気が緩んだのか、つい声を掛けてしまったのです。〕
ヒ:おぉ〜〜―――い! 司馬殿ぉ〜〜―――!!
キ:(はっ!!)虎鬚殿―――! ここに来てはダメ! あいつが――――――っ!!
〔戦線では、味方が有利だったために、今回も勝利は間違いではないだろう・・・と、思っていました。
ですが、逆にそのことが“禍い”だったのかもしれません――――
なぜならば、そのことで気が緩み、大声を出してしまった事で・・・
ヒの背後(うし)ろで、大きく黒い影が動いてしまったのだから―――・・・
しかしそれこそは―――キリエの馬を潰し、素早く林の中に紛れ込んだ、あのゴートサイクロップス・・・
キリエが、ヒのいる地点を振り返った時―――その怪力で、高々と掲げられた巨大な槌を見て、
思わずも息を呑んでしまうキリエ・・・〕
ゴ:ブ・・・グモモォ〜〜―――!!!
ヒ:こ、こいつ―――・・・(ヤベェ・・・)
キ:ベイガ―――――・・・・ン・・・・
〔一つ目の山羊頭の雄叫びと・・・キリエの注意とで・・・背後ろを振り返ったとき―――
ようやくにして自分の生命の危機を知るヒ―――・・・
普段は豪気て知られる彼も、このときばかりは体の機能が麻痺し、いくら頭の中で避けるように促せても、
体のほうがいうことを利かなかったようです。
しかも・・・キリエのほうも、急ぐ余りか、足がもつれてしまい―――〕
キ:――――・・・・。(ドサ)
ヒ:司馬殿―――?!!
〔その時―――・・・彼が見たモノとは・・・・自分を助けようと焦る余り、足をもつらせてその場に倒れこむキリエ・・・
―――と・・・そんな彼女から、また別の影が移動(うご)き・・・〕
―――なんと―――
―――そこからは!!―――
ズ ズ ゥ ゥ ウ ― ― ――・・ ・!!
ヒ:(え え え――――ッ??)
ゴ:ブ グモ?!
蒼:でぇゃぁああ――――!!
ド ズ
ガシュッ―――!
ゴ:ぐモモォぉ〜〜―――!!
ドズゥゥン――――・・・!
〔――――そんな・・・彼女の・・・もう一つの影から実体化を果たした存在・・・・
それこそは―――以前から目撃されていた『蒼龍の騎士』・・・。
それに違いはなかったのです。
そして―――またも、『蒼龍の騎士』・・・いえ、ガク州の州司馬に助けられた者は・・・〕
ヒ:お―――・・・おい・・・ウ、ウソだろ・・・なんかの―――間違いなんだろ・・・?
蒼:―――――・・・・。
ヒ:おいっ―――! なんか言ってくれよ!司馬殿!!
蒼:・・・・何も言うことはない・・・。
今、あなたが見たのが現実なのよ―――虎鬚殿・・・。
ヒ:(ギリィ・・・)そんなことを聴いてるんじゃあねぇやいっ―――!!
なんであんたが・・・そんな―――そんな格好をしてるってことがだいっ!!
蒼:・・・“そんな格好”?
―――だ、なんて・・・私は、元々からこんな存在なのよ・・・
ヒ:蒼い―――龍・・・と、一緒なのが・・・か―――
蒼:・・・・そうよ―――私は、『ヒューマン』(人間)ではない・・・『ハイランダー』(龍眷属)・・・
古えの昔より息づいている種族なの―――・・・
〔ヒは―――・・・幻を見ているのかと思いました・・・。
以前から噂になりだしたとある存在・・・カ・ルマによる侵攻騒動があり、
それに乱入して、なぜかカ・ルマ軍だけを薙いでいた“異形の騎士”・・・
そして―――自分たちが闘っている最中に、なぜか一人きりになりたがり・・・
あるときは お漏らし の疑惑を―――・・・あるときは 便秘 の疑惑をかけられた、
ゴシップだらけの州司馬・・・
なぜ―――あのとき・・・この女性が、作戦を変えてまで一人になりたがったのか・・・
それが、今にしてようやく符合していくのですが・・・・〕
ヒ:(へヘッ―――へへへ・・・)・・・・するってぇと―――なにかい・・・
オレ達ゃ―――得体の知れない化け物風情に救われてきた・・・
いや・・・てめぇの都合のいいよう、踊らされてきたってことだなぁ―――!!
蒼:ま―――待って! ベイガン! それは――――・・・
ヒ:(ギリィ!)るっせぇやいっ―――!! 馴れ馴れしく名なんか呼ぶんじゃあねえ!!
片時でも、てめぇみたいな存在を信じちまった事に、情けなくなってきちまわぁ!!
蒼:ベイ―――ガ・・・・
ヒュゥゥン―――・・・
キ:・・・待って―――虎鬚殿・・・お願いだから・・・このことは――――
〔ですが・・・彼からの返事はありませんでした――――・・・。
自分の正体を隠し、敵対する勢力に抗っていた・・・そういってしまえば、聞こえはいいのかもしれないけれども、
よく考えて見れば、それは味方をも騙しながらやっているということ・・・。
自分たちは、ようやくその人の事を、州司馬と認め始めているというのに、
その人は自分たちを欺いて―――つまり、その人は自分たちのことを認めていなかった・・・信用していなかった――――
そのことに、ヒは憤りの色を現していたのです。〕
To be continued・・・・