≪九節;闇夜を駆け抜けて―――≫
〔それから――― 一刻余り経った頃、フ国との境の、ある部落の小屋にて―――・・・〕
梟:(ふう〜〜・・・)遅いなぁ―――約束の時間を二画も過ぎているぞ・・・
リ:―――――・・・。(スリスリ・・・)
梟:(フ・・・)それにしても、あんたもトンだ災難に遭ったもんだね―――
=鵺=のヤツも、何も悪気があってやったことじゃあないんだ、許してやってもらえないものかな・・・。
リ:――――・・・・。(じろ〜)
梟:(フフっ――)そんな怖い顔で睨まないでよ―――
それに、大体この話、そちらのほうから持ちかけたモンなんだから。
リ:――――こちらの?? でも・・・私たちは何も・・・
梟:ええっ―――? でも・・・ミルディンって人は、ジン州公とはお知り合いだったはず・・・
リ:―――ミルディンさんが??
そう―――・・・でも、彼はハイネスの人ではないわ・・・。
梟:ふぅん・・・じゃあどこの―――
リ:・・・クー・ナ・・・・
梟:クー・ナ―――・・・成る程なァ、これで少しは読めてきたぞ。
リ:それよりも―――=梟=さん? これ・・・って、一体どういう事なのか、そろそろ説明してくれない?
〔その小屋には、なんと=鵺=より交代した、『禽』の中でもリーダー的存在である=梟=がおり、
先程に=鵺=から施されていた、リリアの戒めを解いてやっていたのでした。
しかも―――この僅かなやり取りで、ハイネス・ブルグの武将ではない、元クー・ナの将―――ミルディンが、
リリアたちハイネスの三将と折衝せずに、なぜこんな強引なまでの行動に踏み切ったのか―――・・・
そのことを=梟=は察したのです。
そして、まさにその理由をリリアに話そうとした刹那―――〕
――バンッ☆――
ミ:遅くなった―――申し訳ない・・・
ギ:思ったより手間取ってしまってな・・・
梟:早くしなよ〜〜―――あたしらの主と、ジン州公との間で取り交わした契約・・・≪宵の後刻≫まで、あと数画しかないんだよ。
ミ:―――判っている・・・それでは急ごう。
リ:ちょっと待って―――
ミルディンさん―――それにギルダスさん・・・あなたたち、自分が何をしているか判っているの?!
夜半になって、女性を拐わかす―――だ、なんて・・・。
それは・・・私たちのためを思ってやってくれてるのは判るけれど・・・一番やってはいけない最低の行為だわ!!
ミ:――――・・・。
ギ:――――・・・。
〔その背に、セシルとイセリアを背負った二人・・・ミルディンとギルダスが、時間も逼迫したところで、ようやく到着したのです。
そして=梟=からは手厳しい一言・・・
でも、それもどうやら、自分たちの主―――タケルと、ジン州公である―――カとの間で取り交わせた契約
―――≪宵の後刻≫―――
のうちに、行動を完了させておく・・・と、言う事・・・
その彼らが指定された場所に来たとき、先だって匿われたリリアから、非難とも取れる声を浴びせられたのです。
―――が・・・ここで、ギルダスの背にて、大人しくしていたイセリアが・・・〕
イ:・・・待って、リリア―――
リ:(え・・・?)い、イセリア―――?!!
イ:この人たちも―――よく考えた上で、この行動を起こしたと思うの・・・
だから、それ以上責めては―――ダメ・・・。
リ:・・・イセリア―――
イ:それより、急ぐのだったら早くして頂戴。
私の・・・この決心が、鈍らないうちに・・・・
梟:(ふぅ〜ん・・・)よし―――判った、こっちだよ。
〔いつの頃から気が付いていたのか・・・でも、イセリアは、自分たちを拐(かど)わかした者達を非難しませんでした。
しかし、それは・・・少なからずも、この国の仕打ちが妥当ではないから―――と、思い始めていたから・・・
それに、自分たちの意思ではなく、寧ろこちらのほうが好都合なのでは―――と、思い始めていたから。
だから―――自分たちの身に、不当になされた行為を責めるでもなく、彼女もまた、彼らの背に自らの運命を委ねたのかも、知れません。〕
ギ:・・・すまなかったな、だか、こうでもしない限り――――
イ:ううん―――もう、いいの・・・。
それよりも、ありがとう―――
ギ:(ほぉう・・・)どうしてかな―――
イ:あなたたちは、私たちを二度も助けてくれた・・・。
ううん―――実際は二度だけじゃない、それよりももっと・・・
なのに・・・お礼の言葉なんかしなくって―――・・・
だから―――遅すぎるかもしれないけれど・・・・
――ありがとう――
ギ:(フフフッ―――)オレはまた、拐わかした事で叱り飛ばされるんじゃあないかと思っていたが・・・
とんだ取りこし苦労だったようだなぁ。
イ:いいのよ―――そんなこと・・・
(ああ・・・それにしても、なんて広い背中なんだろう―――
これが・・・男の背中というものなの―――?
私たちの国の・・・なよなよとした連中とは違う―――頼り甲斐のある背中・・・
これこそが、私の求めていたもの―――なのかもしれない・・・。)
〔思っていたこと、感じていたことそれぞれは、三者三様だったのかもしれません。
でも、似通っていた事は、さすがに否めなかったことでしょう。
こうして―――彼女たち三人を乗せた、二頭の馬と一台の荷馬車は、その刻限ギリギリにフ国・ジン州へと滑り込み、
ここに、クー・ナとハイネス・ブルグの5名と、その配下数百余名は、無事フ国へと亡命を果たしたのでした。
その一方で―――・・・・
カ・ルマの拠点である<ゴモラ>にて、そこの守将が、何者かによって斬殺された事件は、
どこの誰もが知りえない事実―――だったのです。〕
To be continued・・・・