≪六節;御大将≫
〔すると―――・・・この“副将”というのが意外にも・・・〕
紫:ははっ―――こちらに!!
ア:えっ?!あっ・・・紫苑さん??!
タ:(この方は確か―――・・・)
公:これより―――そなたは、この近衛の軍を率い、宜しくヴェルノアの錬兵の高さを、各国に知らしめてくるがよい!!
紫:ははっ―――!! 御意にござりまして・・・
公:・・・時に―――この軍を統率する将である“あの者”は、何処(いずこ)にあるのか・・・。
紫:は―――・・・
公主さま、お言葉では御座いますが、この軍を束ねたる“将”たるお方は、
今朝一番に遠乗りに出掛けられた由に御座います。
さすれば―――今時分に出立をすれば、途中で合流できるもの・・・かと。
公:然様―――か・・・。
それでは姫君、名残惜しいは尽きぬものですが・・・これにてお暇申し上げます・・・。
お体のほう、呉々も―――
ア:はい・・・婀陀那さん、あなたも―――
公:(ニコ・・)それでは――――
〔この、ヴェルノア軍の“副将”には、なんと婀陀那の寵愛を受けているあの人物・・・ 紫苑=ヴァーユ=コーデリア その人なのでした。
この人事の奇抜さに、アヱカは驚くしかありませんでした・・・
昨夜の晩餐会でも、付かず離れずして公主である婀陀那に随時してきたこの人物が、
それもヘタをすると異国の地にて死に別れをするかもしれないというのに・・・
でも・・・だ―――とすると、この度の外交における、ヴェルノアの並ならぬ意気込みを感じずにはいられないのですが・・・
実は―――今回の軍部における人事の目玉は、“副将”である紫苑ではなく・・・
寧ろ、この近衛軍を須らく掌握し、指揮を執る・・・“将”そのものに、焦点が注がれていた事でしょう。
なぜならば―――・・・
タケルとアヱカ乗り合いの馬車と・・・紫苑を先頭にした二万騎もの軍隊が―――
アルルハイムの城をあとにし、一里あまり離れているであろう林の入り口に差し掛かったとき―――・・・〕
ア:(はぁ・・・)それにしても―――遠乗りに出かけられた将の方・・・未だに合流できませんよね。
一体・・・どこまで出掛けられたのでしょう―――・・・
―――すると―――
御:う・おっ―――?!
〜ガクン!〜
タ:―――どうした、何があったのだ?
御:い―――いえ・・・これから差し掛かる林の入り口に・・・ 白銀の騎士が ―――
ア:えっ??! 白銀の―――騎士??
〔その“将”――――白銀の甲冑を身に纏い、腰にはクロスクレイモアを佩き、練り絹の純白のマントを翻し、
白鹿毛の馬に騎乗した存在であり・・・そして何より、頭髪には亜麻色の長髪を靡(なび)かせていた―――と、伝えうる・・・
しかも―――手綱裁きも堂に入り、何よりも『威風堂々』としていた・・・
その存在こそ―――・・・〕
ア:ああっ―――・・・婀陀那・・・さん?!
いえ―――でも、確かにあの方とは先ほど・・・・
――スッ・・・――
ア:っ・・・・えっ?!!
婀:―――ご苦労であった・・・
紫:いえ―――将軍閣下に於かれましても、朝錬を切り上げられたあと、遠乗りに出掛けられたようで――・・・
婀:(フ――・・)衛将軍―――!!
紫:はっ―――・・・
―――全員・・・
整
列
!!
〔その・・・“将”某こそ、先ほど別れを惜しんだはずの、婀陀那と瓜二つの存在であった事に・・・
アヱカは驚くしかなかった―――の、ですが・・・
かたや―――その“将”某の存在である者は、そんなアヱカに眼もくれるでもなく、
アヱカ乗り合いの馬車の横を素通りし―――副将の紫苑をして二万騎もの兵を整列させる号令を下させたのです。
そして――――この、“将”たる彼女の口からは・・・〕
紫:拝聴―――!!
これより、公主将軍である婀陀那=ナタラージャ=ヴェルノア様よりの、直々のご訓示である―――!
ア:(えぇぇっ―――?!!)
タ:―――――。
婀:皆の者・・・よく聞くがよい―――
これより妾達は、永年恩がありながらも、その仇でしか返してこなかった中華の国に、
今までの不敬不徳を詫びるとともに、かの国の有事にはわが国の得意分野をして払拭していただく事にした―――。
これが嫌な輩(ともがら)は、この林より入ってはならぬ―――! 即刻ヴェルノアへと戻るがよい・・・
妾が申し付けておく事は以上じゃ――――・・・。
〔これから・・・自分たちが赴かんとする処は、中華の国・フ国―――・・・
しかしながら、ここ近年は国交も途絶え小競り合いすらなかったのだけれど、
双方が余りいい感情を持ち合わせていなかったのは事実―――
でも、この度は、これまでにあった事を須らく水に流し、改めて自国の唯一自慢できるモノで、
かの国の溜飲を下げてもらうことにしたのです。
けれど―――“上部”の意向はそうであったとしても、“末端”としての兵卒まではどうだろうか・・・
今の、公主将軍の弁は、まさにそのことを問うたものだったのです。
ですが―――・・・その場には、 微 たりともしない精鋭の軍団が・・・
云われるでもなくとも、彼らは上官であるこの将軍の命に従っていたのです。〕
To be continued・・・・