≪九節;高潔なる矜持≫
〔しかし、それをただ手を拱(こまね)いて見ているでもない 敵 は、戦場のその一角だけに異様に血が舞っている事に不信を覚え、
それからはいよいよ持ってその周辺に敵が集(たか)りだし、ここに絶体絶命の窮地に追い込まれたのですが―――〕
ヒ:(くっ・・)とうとう囲まれちまったい―――もう・・・どうしようもねえのかよ。
サ:・・・あんた、あの人からなにを学んだんだい。
そう・・・簡単に諦めろ―――そう云われたのかい!!
違うだろうが・・・信じてりゃ、いつか必ず助けが来る―――そうじゃないのかい!!
ヒ:・・・あんた、なんの事を云って――― まさかあんた??
サ:(ち・・)しゃあねぇ―――おい、マダラ・・・そいつと一緒にここから退きな!
あとは・・・このあたし一人で片す!
マ:―――子爵様・・・余りご無理をなされぬよう・・・
〔まさに―――雲霞の如く群がりくる敵兵を目の前に、さすがのヒも怯んでしまったのか、
どうやら自分の死命もここまでだ・・・と、覚えてしまったのです。
そのことを見かねたサヤは、マダラにヒをこの殺地から遠退けるように伝え―――
でも、それは・・・何もヒを助けるという意味合いだけではなく、自分の真力が開放できないから・・・
そう―――ヴァンパイアが行使するという魔術を・・・
そして今、自らがもっとも得意とする 印契『夜叉火輪印』 を結ぶサヤが・・・・
その一方で、ヒを咥え込んで殺地から抜け出してきたマダラは・・・〕
ヒ:おいっ! 放せってよ!! オレはまだまだ戦えるぞ!!
マ:(強がりを・・・)うっ――――?!!
ヒ:(おおっ?!)どうした・・・おい―――
〔いきなり魔獣の口に咥えられ、どこぞかに運ばれようとしている事に、別の危機感を覚えたヒは、必死の抵抗を試みたのです。
しかし・・・すると、一体ナニに驚いたのか、急に移動を止めてしまったマダラが・・・
そのことに訝しんだヒなのですが、咥えられていたのを放され、そこから振り向いてみれば―――・・・〕
ヒ:あっ・・・キリエ―――
キ:(虎鬚殿・・・)―――ご苦労でした、マダラ。
ここは私が受け持ちますから、お前は早急に右将軍様の下へ。
マ:・・・左将軍様―――・・・では。
〔そこにいたのは、すでに『蒼龍の騎士』の姿をしたキリエが・・・けれども彼女はもう迷いませんでした。
例え自分の正体が割れたとしても、古えから矜持としている事を貫き通すために・・・
だから、その姿で・・・再び―――戦場に立っていたのです。〕
ヒ:・・・キリエさん、あんたぁ―――・・・
キ:・・・この姿になっているのに、そう呼んでくれるのね・・・。
だけど勘違いしないで、私は自分で打ち立てた誓いを、こんなことで違えたくはないの。
ヒ:あんたが立てた―――誓い?
キ:(フフっ――)笑っちゃうようなコトなんだけどね・・・
ヒ:・・・なんだい、云ってみろよ―――
キ:“皇”であられた方の、その理想のために・・・私たちはどんな艱難辛苦にも耐えてみせる―――
それが例え、あなたたち人類を総て敵に回したとしても・・・。
ヒ:フ・・・・ハハハハ! そうか、そういうことだったかい!
だからあんたは、その“皇”とやらにたてついてきているカ・ルマを、こと如くに潰してきた―――ッてわけだ。
――――で、その“皇”とやらの理想・・・ってなんだい。
キ:―――総ては人民のために・・・人が人としてあるべきことを・・・
あのお方は、そのことを粗野なる私にお教えしてくれた・・・そしてそれは今でも受け継がれているの。
ヒ:はァ〜ン・・・ン? 今・・・でも?? どういう事なんだい―――そりゃ・・・
キ:(クス・・)それはあなたの方でも考えてみて、私如きがどうのと話すことではないから・・・
それよりも今は、この戦をどう収めるかが先決よ、当然征くでしょう――――・・・
タワーリシチ
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To be continued・・・・