≪五節;=異能=の、眼力を持ちし者≫
〔そして・・・同じく、この飲食店で屯(たむろ)している一つの集団が・・・
どうやら、今日の一仕事を終え―――くつろいでいる・・・ようなのですが、
よく見ると、この集団の中に、ある注目すべき人物がいたのです・・・
その人物というのは、なんと、あの・・・〕
盗:なぁ―――姐御、今日の仕事は楽勝でやんしたねぇ?
サ:ぅん―――? あぁ―――・・・
盗:あっれぇ〜? 姐御、どうしたんでやんスかい?
サ:うん? ―――いや、なに・・・今、ここのオヤジと一悶着起こしそうになった連中を見てたんだがねぇ―――・・・・
盗:はぁ〜〜ん・・・あんの頑固オヤジに食って掛かるたぁ・・・命知らずも、あったもんでやんスねぇ?
サ:・・・・・。
盗:ねぇ―――? 姐御―――?
サ:ん? ああ―――すまないよ・・・で、なんだって?
盗:ちぇっ・・・こぉ〜れだもんなぁ〜〜。
姉御、何かに気をとられると、人の話なんざロクに聞いてやしねぇんだもん・・・
サ:・・・・・・。
盗:はぁ〜〜〜あ・・・言ってる傍からこれだもんなぁ・・・カンベンしてもらいたいっスよ。
まあ・・・姐御、後はあっしらで飲(や)ッてますんで・・・好きにしておくんなさいよ・・・・っと。
サ:あァ・・・・すまないよ・・・・。
〔そう・・・この集団の中に、あのギルドの構成員の一人「サヤ某」がいたのです。
しかも、今までの店主と姫君、お世話係のやり取りを、じっ・・・と見ていたようですが・・・・
それには彼女の取り巻きも、「また始まった・・・」と、思わざるをえなかったようです。
それというのも、このサヤ某、その双眸より発せられる眼力の鋭さには定評があったようで、何かを喰い入るように見つめていた・・・と、いうことのようです。
(しかし、“眼力の鋭さ”・・・とは、成る程・・・・
つまり姫君が捕らわれていた時、女頭領が彼女に依頼したその裏には、彼女のこの特殊な能力を知っていたから・・・のようですね。)
そして―――この構成員、なにを思ったのか、徐(おもむ)ろに席を立ち、姫君とお世話係に近付いてきたのです・・・。〕
サ:ちょいと―――すまないけど、ここ・・・いいかい?
ア:えっ――― は、はい・・・。
紫:ぅん―――?
サ:やっぱ・・・あんた、どこかで見た・・・と、思ったら・・・紫苑なんだろ?
紫:誰・・・なのです?その、紫苑―――とか云うお方・・・。
サ:違うのかい? 私は―――他人の顔は、一度見りゃ絶対忘れないほうなんだがねぇ・・・・
紫:フ・・・ッ、それは・・・恐らく、思い違い・・・と、云うものでしょう・・・。
サ:・・・それも、そうだね。
あんな大幹部が、よりによってこんな不味い店を択ぶ・・・って事もないだろうしさ。
〔そこで―――この構成員が、彼女達に近付いて何をしたか・・・と、いうと、
お世話係に対し、こう切り出し始めたのです・・・「ひょっとして、紫苑ではないか」・・・と。
するとお世話係、そのことをある程度予測していたのか、のらりくらりと上手くかわしていったようです。
それには構成員も、「なんだ人違いか―――」で、済ませたようなのですが・・・・なんとそこへ、ここの店主が・・・・〕
主:悪かったねぇ・・・不味くってよぅ・・・。
サ:おおっ・・・・と、なんだ、いたのかい。
主:んな・・・・悪口叩く暇があるんなら、今までに溜まりに溜まったツケ・・・・払っておくんなさいよ・・・。
サ:う゛いっ! わっ・・・わーかってるってよ!! 冗談よ、冗談・・・
いつか大出世した暁にゃ、そん時まとめて〜〜―――って、いつも言ってるだろ?!
主:まぁ〜〜――たそれですかい・・・姐さんの、その大口っぷりにゃあ、いい加減飽き飽きしてるんだけっどもねぇ〜?
サ:ちぇっ・・・わ――かってるってばよっ!! ほれっ!今、大事な話をしてんだから・・・あっちへ消えなっ!
主:へぇいへい――――・・・
ア:は・・・・。
紫:・・・・・。
サ:おぉ―――ッと・・・ちょいと、つまんないもん見せちまったみたいだね・・・
なぁに、あれとのやり取りはいつもの事だから、気にしなくてもいいんだよ。
紫:フぅ―――ん・・・いつも・・・なんですか・・・
サ:あぁ―――そうだよ、何か問題でも。
紫:いえ、別に―――・・・
ア:あの・・・それより、「ツケ」とは一体なんの事なのでしょう?
紫:ぐっは―――! えぇ〜〜?
サ:は・・・・? な、なに?? つ、ツケも知らないのかい?あんた―――
ア:えっ?えぇ・・・・
紫:(い・・・一瞬、咽喉に痞(つか)えた〜〜・・・)
つ、ツケとは・・・その時に代金などを払えないでいる者が、後でそれをまとめて払う―――と、言う事なのですよ・・・。
ア:はあ・・・あの、それでは、食い逃げと同じような事なのでは?
紫:ですよ・・・・ねぇ・・・・。
サ:ああ゛っ! ちょ・・・ちょいと! 私は何もそんなせせこましい事してるんじゃあないんだよ!!
現に、少しばかしだけど・・・払った事もあるんだしさぁ〜!
―――なっ?!!そうだよな?
主:あっれぇ〜〜そうでしたっけ・・・・ねぇ――――・・・
サ:あ゛〜〜っ!きったねぇ〜ぞ?!お前!! ちゃんと払っただろが!20年前に!!
ア:は???
紫:なん―――だと?
サ:〜〜ぢゃなかった・・・2年前に!!
主:・・・・。
もう・・・・そんなになるんですかねぇ・・・・
〔どうやらここの店主の言(げん)によると、この構成員は、ここのツケを相当に溜め込んでいるようなのですが・・・・
(それにしても、姫君・・・・ツケの事を知らないでいたとは・・・・w)
すると構成員、ここで少し奇妙な事を言ったのです。
それは―――随分前に溜め込んでたツケの一部を、払ったことがある――――しかも、それは20年も前・・・だ、とは・・・
そう・・・その「奇妙な事」・・・とは、そこだったのです。
もし、この――「20年前」という時間の観念が聞き違いなどではなければ、相当に不釣合いというもの・・・
なぜならこの構成員は、どう贔屓目に見ても「20代前半」の姿だったのだから・・・・〕
サ:(ああ゛〜〜っ・・・ぶない、危ない・・・うっかり口に出すもんじゃあないねぇ〜、もう少しでここにいられなくとこだったよ・・・)
ア:あの・・・
サ:(ぅん・・・?)なんだい?
ア:あの、よろしければ、少しばかりわたくしが肩代わりしてあげましょうか?
サ:えっ??いいけど――――いいよ、あんたには悪いからさぁ・・・
紫:どうしてなのだ? 少しばかりなら、私も持ち合わせがあるから協力してやれないこともないが・・・・
サ:あ・・・・いゃ・・・そのぅ・・・溜まってるツケ、2,000や、3,000じゃあないんだよ・・・・
ア:それでは・・・5,000?
サ:・・・・ぃ・・・ぇ・・・・・。
紫:ならば・・・8,000?9,000とか・・・?
サ:・・・・・ご・・・500,000〜―――
ア:(えっ??!)
紫:(なんとぉ??)
ア:ご・・・・500,000!!?
紫:ご・・・・500,000!!?
サ:あっ!バカッ!! しぃ〜〜―――っ!しぃ――――っ!
ア:(あっ・・・・あわわわ・・・)
紫:(しっ・・・しかし・・・50万も?? 一体どんな食べ方をしたらそんなに・・・・)
サ:いゃあ・・・実はここだけの話なんだけどな? この額・・・・って、何も私だけのじゃあないんだよ。
ア:はあ・・・(そう、ですよねぇ・・・・)
サ:ほれ、あそこの一角でバカやってるヤツらがいるだろ? あれも・・・全部私持ちなんだよ・・・。
紫:成る程・・・それで・・・
ア:納得・・・です。
サ:私の・・・だけならまだしも、あいつらのまでも嵩(かさ)んできてしまってねぇ、でも・・・・
でも―――あいつらは、私の事を「姐御、姐御・・・」って、慕ってついてきてくれる・・・・
まぁ・・・あれはあれで可愛いもんさ・・・・実際・・・・ね。
ア:・・・・それは―――
それは・・・実によろしい事だと思います・・・・。
こんなご時世、自分を慕ってついてきてくれるなど・・・そうはいませんからね・・・。
紫:(姫君・・・・)
サ:・・・・・。
なぁ――― あんた――――
ア:はい、なんでしょう。
サ:・・・・・・。
ア:な、なんでしょう? イヤですわ? そんな・・・わたくしの顔を見つめられては・・・困ります・・・。
サ:(ふ・・・ぅ・・・)
イヤ―――ご免よ? 今の、あなたのお顔・・・私がよく知ってるお方に随分とよく似てたもんでねぇ・・・・悪かったね、見つめちゃったりして。
ア:(え・・・・?) いえ・・・・。
サ:おぉっ・・・と―――そう云えば、この後大事な約束があるんだった―――
いや、悪かったね、お蔭でいい時間つぶしになったよ。
それじゃ―――
〔こうして・・・・構成員は、とある約束事のためにその店を出て行ったのですが――――
皆さんは、もう気付きましたか??
構成員が―――サヤが、この姫君に対して、なした事を・・・・〕
紫:どうか・・・・なされたのですか・・・?
ア:(はっっ!) い・・・いえ・・・・・なんでも・・・。
(気の・・・気のせいかしら・・・なぜか、あの人に見つめられた時―――こう・・・何かしら、瞳の奥まで見られていたように感じられたのだけれど・・・・)
〔そう・・・サヤ某が、この姫君に対してなした事・・・・
それは、彼女の特殊な能力といえるべき、「まなざし」が働いていたのです。
では・・・彼女は、当初から、これが目的で・・・・?〕
サ:フフ・・・・偶然・・・とはいえ、あそこに屯(たむろ)していて、正解だったな・・・・
こうも早くに出会える事になろうとは・・・
(これも・・・主のお導きか―――)
さて・・・と、そんなことよりも、早くあの人に・・・私の友につなぎをつけないと・・・!
〔そう―――構成員が、姫君に近付いてきた理由がここにあったのです。
それというのも、最初にお世話係に、「紫苑だろう―――」と、近付いたのは、彼女達に取り入りやすくするための手段―――だったのです。
彼女が―――サヤ某が、本当になしたかった事・・・
それは、自己の特殊な能力を用い、とある者の瞳の奥を覗き込むという事・・・
その「とある者」こそ、姫君だったのです。
すると・・・いうことは―――
そう、姫君の持っている「とあるモノ」が、この構成員にも分かってしまった・・・と、いう事でもあったのです。
しかも、彼女・・・とても不思議な事を言っていたようですね・・・
その思わせぶりな発言は、一体なにを意味しようとしているのでしょうか・・・。〕
To be continued・・・・