≪八節;もののふの意地≫
鵺:・・・ノブシゲ様―――
ノ:鵺―――・・・どうしてそなたが・・・
鵺:・・・先ほど入りました最新の情報でございます。
ノ:・・・・うむ―――
鵺:この度、この国に侵攻してくる将の名・・・判明しましたので。
ノ:・・・それだけではないな―――
鵺:・・・はい―――
〔将一人につき二十もの防塁・・・噂に聞くには聞いているカ・ルマの兵の強壮ぶり・・・予測される激戦区・・・
それぞれのうちに秘めるものはあったようなのですが―――
そのうちの一人、ノブシゲ=弾正=タイラーの下に、ある者・・・
『禽』の=鵺=が忍び寄っていたのです。
けれども、何も彼女はノブシゲの命を頂戴しよう―――などということでそこにいたわけではなく、
カ・ルマに潜入している者より知らされた情報を、“巣”に持ち帰る途中で寄り途をした・・・
いや―――それは故意であり、その理由としても、主であるタケルより先に、
タケルの親友であるノブシゲに、知らせておいたほうが良いと判断したからなのです。
ではなぜ・・・ユミエが、主であるタケルに先んじてノブシゲに、
今回ラー・ジャを侵攻してくる将の名を知らせておかなければならなかったか・・・
それは―――・・・次の、ユミエの一言に言及されていたのです。
――14年前の・・・あの惨劇事件・・・――
そのことを聞くに及び、ノブシゲにはあの悪夢の日の再現が呼び起こされていくように感じました・・・
黒き魔将の一人―――ザルエラ=タナトス=スービエ・・・
その者の名こそ、自分たちの羨望の的であり、当時の“女禍の魂を引き継ぐ者”であったこの国の巫女―――ジィルガ=式部=シノーラ・・・
その人の命を収奪し、死に至らしめた者・・・
それを・・・もし・・・・彼女の義弟であった自分の親友が知ったとしたならば―――??
おそらくは、尋常かつ冷静な気持ちには到底なれはしない・・・そう感じていたのです。
それはそれとして―――刻は待ってはくれず、戦端は徐々に開かれていき、
そこには一進一退の攻防戦、両者相譲る事などなく―――まさに血みどろの様相が展開されつつありました。
そして前評定通り、強(こわ)い軍―――しかも、人間の兵に混ざるようにしている、
ゴブリンやオーク・ミノタウロスやリザードマンなどの魔物兵に、
二万五千はいたラー・ジャの兵も、徐々にその数を減らしていき、いよいよ持って後退を余儀なくされたのです。〕
ノ:(聞いていたのよりは・・・相当に手強いな―――)
皆―――大丈夫か。
チ:はい・・・なんとか―――
ヨ:弾正殿、やはりここは一つ―――・・・
ノ:・・・いや―――まだだめだ・・・まだフ国に頼るわけにはいかない。
それに、まだこちらには兵力を温存している、まだ・・・力を借りるわけにはいかんのだ―――!
〔自分たちが想定していた以上に手強かったカ・ルマ軍・・・
そこには、傷を負っていない者など、一人としておりはしませんでした・・・。
人も―――馬も・・・・装備や軍旗まで皆ボロボロ・・・それでも、今、生があるのが奇跡なくらいでした。
しかも、士気は極端に低くなり、将校の一人からは隣国に頼ってみるべきなのでは・・・との声も出たのではありますが・・・
“意地”―――それもあったのかもしれません・・・けれどもやはり、
自分の親友を、因縁深い今回の敵将とやり合わせてはならない・・・
そちらの気持ちのほうが強かったから―――なのかもしれません・・・。〕
To be continued・・・・