≪七節;狐を油断させるための策≫
〔リリアの撤退したベルルーイ砦に、意気揚々と入ってきたヴェネフィックの兄妹と、
カイン・ギャラハット・ヒヅメの三人は・・・〕
ョ:ンフフフ―――兄サマにも見せてやりたかったよ。
蒼くなって逃げて行くあいつらのサマを。
ヨ:フフフ・・・よくやった、我が愛する妹よ。
いかが―――かな? 戦というものはこうやってするものなのだよ。
諸君らも、我々を見習うがいい。
ヒ:・・・・・。
カ:いやぁ〜〜―――さすがですな。
私のほうも、よろしく戦略・戦術の書を教本とはしているのだが、
そこもとたちの理論はどこにも載ってはいない・・・
これからは見習わなければいかんですかな―――
ヨ:フン―――当たり前だ。
お前たちと私たちとでは、所詮頭の出来というものが違うのだよ。
〔この五人が、この砦に入ってきたとき、驕り高ぶる不遜なる兄妹を前に、
またもや一波乱ありそうな予感がしたのですが―――・・・
それでもまだ時期尚早だと感じていたカインは、憤る者を宥(なだ)め賺(すか)すかのようにして、
そこでは敢えて賛同するフリを見せたのです。
そう―――かの者から依頼された一件を遂行するには、未だ敵地であるここでするしかない・・・
けれども、今すぐ―――というわけではなく、やはりもっと時間をかけ、彼らの警戒を解いてからでなくては・・・
それがカインの取った計略なのですが、やはりここで納得できないとしていたヒヅメからは―――〕
ヒ:カインさん―――! どうしてあそこであんなヤツらを図に乗せるようなことを云うんですか!!
カ:落ち着きたまえ・・・ヒヅメ殿―――
そなたは今回も限らず、前回も殺気を漲(みなぎ)らせていただろう。
いいかね―――あやつらは狡賢(ずるがしこ)いグラス・フォックス―――“狐”の類なのだ。
“狐”というものは、狡賢(ずるがしこ)いとする反面、実に合理的、効率的に獲物を捕らえようとする、
それに、常に自分より強い者には恭順で、剰(あまつさ)え油断を誘うため自ら腹を見せることさえあるのだ。
そんな者達に―――今、刃を見せでもしたなら穴倉に深く潜り込まれて、“虎”どもの助けを請わないとも限らない、
だからこそ、ここは耐え忍ばなければならない・・・敵の将に出来て私たちに出来ない事はないだろう。
〔若い・・・若きゆえに頭に血が上る事は多くにある―――
けれども、今回のように重要な任を負っている時分には、それを堪えなければならないこともある・・・と、
カインはヒヅメに云って聞かせました。
そこでヒヅメは、本当はカインも腸(はらわた)が煮えくり返っており、それであったとしてもそのことを表面上に出さないというのは、
たいした精神力と耐久力を兼ね備えているものだと思うのでした。
こうして―――快勝に次ぐ快勝に湧くヴェネフィックの軍は、
これからの大勝祈願をこめての、連日連夜の大宴会を催す事となり・・・
しかし、実はこれはカインから申し出た事―――
そんな・・・いわばライバルとも思えていた者から、自分たちを賛辞することを申し出られたヨキは、
別段いやな顔もできず―――・・・
ですが・・・もうこのとき既に・・・裁きの刃は、不遜な者達の首筋にあてがわれていたのでした。〕
To be continued・・・・