≪六節;大失態≫
〔それから―――・・・
若い店主代理に進められるまま、ここの商品を手にとって見ている姫君が・・・・〕
キ:どう?いかがです? これなどは、とてもよくお似合いだと思いますけれど。
ア:うぅ・・・ん、そうですわね・・・。
キ:あぁ――― そのブローチは、最近私がデザインしたものです。
ア:ふぅん・・・(えっ??)
〔すると、丁度この時、姫君が手に取られて見ていたブローチが・・・
まるで、何かに反応するか・・・・の、ように―――「不思議な」・・・「虹色をした」・・・光を放ちだしたのです。〕
キ:(な――――なにっ?!)
ア:あ・・・・っ!!?
カ タ ―――――― ン ・ ・ ・
コロコロ・・・
ア:あ・・・・あぁ! も、申し訳ございません! 大事な商品を・・・粗相をいたしまして―――
キ:(はァ・・・・ああ・・・・あ・・・・・・)
〔いきなり、七色に輝きだしたアクセサリーに驚き、ついそれを落としてしまった姫君。
ですが―――・・・
それをみるにつけ、一番に驚いていたのが・・・・かの、若い店主代理だったのです。
でも、どうして―――――?
それは―――・・・〕
ア:あの・・・・もし?
キ:(ハッ!!) あぁ―――も、申し訳ございません―――!
ア:(え・・・?) あの・・・どうされたというのです?
キ:い・・・・いえ、なんでも・・・。
そ、それを御所望でいらっしゃるのですね? そ、それでしたら・・・お、お代金はよろしいですから・・・・
そ、それより、もう身につけてお帰りになりますか―――それとも・・・・何かにお包みいたしましょうか―――・・・
ア:いえ・・・それより、どうされたというのです? しかも―――お代金はいい・・・って・・・・。
どうかされたの―――?
キ:(え・・・)い、いえ―――とんでもない、あなた様のようなお方から、お金を取るなど・・・・
ア:(―――どうしたというの?この方・・・急に言葉遣いが、余所余所しくなられて・・・)
―――・・・いいえ・・・その好意、わたくしは受けるわけには参りません。
キ:ど・・・どうして・・・?
ア:それを・・・それを聞きたいのはこちらの方です。
確か、わたくし達は初対面であるはずなのに、それに・・・・先程までは、わたくしに対しても一般の方のように接していらっしゃったのに・・・
なのに・・・今のあなたのなさり様は、常連の・・・しかも上流階級の、上お得意客に対して接する時のよう・・・それも、急に―――
キ:ううっ―――(で・・・でも・・・それは、仕方が・・・)
ア:ですから・・・この品は、謹んでお返しさせていただきます。
落としてしまったのは・・・こちらの不覚ではございましたが・・・。
それでは、失礼いたします――――
キ:・・・・・。
〔そう―――この若い店主代理、姫君が手に取り、落としてしまったアクセサリーの反応に、驚きはしたのです。
ですが―――その時の反応は、世間一般の我々の反応とは、まるで違っていたのです。
それよりも姫君、品物を落としてしまったというのに、それを咎める風でもなく、
逆にあちらが謝ってしまい―――しかも剰(あまつさえ)、只(ただ)でその商品をくれようとしたのです。
だから若い店主代理に対し、多大なる不信感を抱いた姫君は、丁寧にお断りをし・・・その上で商品を返し、そのお店を後にしたのです。
それから・・・・若い店主代理が、がっくりと肩を落とし、誰もいなくなった店内で、こう・・・ポツリとつぶやいたのには・・・。〕
キ:私の―――・・・私の鱗に、ああまで反応するなんて・・・。
間違いない、今のあのお方こそ、私の友の云っていた「女禍様」の生まれ変わり・・・
〔そう・・・・若い店主代理が驚いた本当の理由とは・・・・
「自分の鱗」に、反応してしまった姫君が、紛(まぎ)れもなく「女禍の魂」の所有者である―――と、分かってしまったから・・・。
(この若い店主代理が何者であるか・・・それは、『補章』を参考の事―――・・・)
そして・・・・〕
キ:それにしても・・・どうしょう。
いらざる事をしてしまって・・・・あのお方を怒らせてしまったわ・・・・
何とかしなければ――――・・・・。
To be continued・・・・