≪七節;“人”としての決意―――≫
ア:・・・申し訳ないが、典医長と助手の方だけを残して、
至急、全員この部屋から退出願いたい。
リ:アヱカ殿・・・どうして―――
ホ:お姉ちゃん―――
婀:・・・そうさせていただく―――!!
リ:ああっ―――婀陀那様・・・
〔けれども、それは―――その場においては、一番理解に苦しむ行動でした・・・。
もはや明日をも知れぬ・・・いや、次の瞬間すら危うい者を、そんな重篤な者の最期を看取らずに、
この部屋から退出させるその意図に、そう思わざるを得ませんでした。
ですが、婀陀那は足早に部屋を退出し、その彼女のあとを追うように、
太后であるリジュやホウも、続いて退出したのでした。
そして―――そこには・・・医師とその助手と・・・
彼らを招き、この部屋にいた者達を全員退出させた者が・・・〕
へ:――――まさか・・・
ア:・・・何も云うな、ヘライトス。
人一人の生命を繋ぎ止めるんだ、この私の―――
へ:いけません! 今そのような状態でアレを行使するとなると、
あなた様のレゾンデートル自体に支障が!!
ア:いいんだ―――人一人の生命の重みに比べれば、この私の意義など軽いモノだ・・・
へ:お止めください!女禍様!!
多寡が低俗な人間の生命と、あなた様の魂とでは、その等価が―――・・・
ア:口を慎め!ヘライトス―――!!
へ:――――!
ソ:――――!
ア:今・・・お前はなんと云った?! “多寡”が・・・? 多寡が人間の生命“如き”・・・だと?
お前のほうこそなにを云っているんだ・・・
人間の・・・いや、“生命”というものが、なにものにも変えがたいモノであることは、
姉さんより生命を取り扱うことを赦された、お前たちなら判るはずだろう?!!
〔ヘライトスは、今・・・別の姿をしながらも、自分を叱責する者に、
在りし日の主の姿を重ね合わせていました。
何よりも自然を重んじ・・・なによりも生命そのものを重んじた・・・
他のどんなときにも、その優しき表情は崩れることはなかったのに―――
たった一つ・・・そのことに抵触することだけは、激しくも反応を示し、
“軽んじた者達”をそうしてきたものでした。
しかし・・・そうであったとはしても、ならばどうしてヘライトスは、
そうまでして止めようとしたのでしょうか・・・〕
へ:し・・・しかし―――これはもはや医師としてより、一技術者として・・・
それより、一個人としてその行為を認めるわけには参りません。
もし・・・どうしても―――というのであれば・・・
この、私どものコード(認識票)<シリウス>をお使いください。
いくらかの足しにはなるでしょう・・・
ア:ヘライトス・・・すまない―――
ソ:それにしてもヘライトス―――アレを使うには・・・
へ:いいんだ―――ソシアル・・・
この方の一途なところは、お前も知っての通り、筋金入りだ・・・
それに、私たちの主である公爵様も、この方のために貸与したというのであれば、何も責めはしまいよ・・・
ア:―――それでは・・・
―――私の力の源であるシャクラディアよ―――
―――マスターである ユピテール=アルダーナリシュヴァアラ の名において―――
―――その大いなる力の解放を認証する―――
〔そのものの一言は、“盟主”より叱責されたところの虚を衝いたものでした。
彼もまた、在りし日の“盟主”の一途なところは知りえているところであり、
ならばどんな正論を吐いたとしても、耳を貸してくれない―――と、云うところは、
この方の姉である方にも似通っていたことである・・・と、したのでした。
それにしても―――“古(いにし)えの皇”の真意は何処にあったのでしょうか・・・〕
To be continued・・・・