≪六節;託される意志≫
〔―――ともあれ、二人が大手門の守備を放棄して後方へと下がったために、
瞬く間に大手門は陥とされてしまい、
その後も息つく暇さえ与えさせず、ワコウ城西ノ丸・二ノ丸―――と、蹂躙を許してしまったのです。
そして・・・目下には、現在彼らの立て篭もるワコウ城・本丸に、
カルマの軍兵は詰め寄り始め・・・〕
チ:おのれぇ〜〜―――・・・手前の武と智では、刃が立たぬと申すのか!
ノ:―――なあチカラよ・・・あの使い番、無事あいつのところへと、辿り着けただろうか・・・
チ:・・・今はそう願うしかありますまい―――
ここが陥ちることを、兄上が知ってくれるだけで、後事をよろしく取り計らってくれるはず・・・。
ノ:“援軍の要請”―――と、違(たが)えてくれねばよいのだが・・・な。
チ:それは万が一にもありえません―――
もしそうであったとしても、途中で気付いて中止してくれるはずです。
〔存外に、自身が備えていた智勇と武名では、カルマの進撃を食い止められないものと感じ始めたチカラ・・・
するとそこでは―――前述していた、シャクラディア方面への使い番のことが取り沙汰されたのです。
あの使い番は、おのれの命を賭してでも、タケルの下へと辿り着くだろう・・・
そこでタケルは、その瞬間にラージャの王都であるワコウが陥落することを知るに違いない・・・
ただ・・・そのことを―――“救援に駆けつけてもらいたい”ということと混同しないだろうか・・・
けれども、タケルの実弟でもあるチカラは、もしそうなったとしても兄・タケルは、隠された自分たちの真の意図に気付き、
派兵を思いとどまってくれるに違いはない―――と、していたのです。
そして、ノブシゲとチカラが、ラージャを復興させるために、
ワコウを捨ててある場所に退去する際、都城に火をかけたところ・・・〕
チ:さあ・・・大殿に父上――― 一度ここを棄て、コンゴウへと落ち延びましょう・・・!
そこでわれらの再起を図るのです!!
王:・・・いや、ワシらはここに残ろう―――
ノ:殿・・・? ナニをお戯れを―――!
父:いや―――戯れではない。
もはやこの老骨が残ったところで、老害になるばかりじゃ・・・
ノ:大納言様も―――
チ:父上―――・・・
王:(フ・・・ッ)ワシらはな―――もう十分に生を謳歌した。
もはや悔いなどありはせん―――
父:それに・・・残ってお主ら若い連中の足手まといになってはな、申し訳もたたんのだ・・・
チ:ナニを仰られているのです―――!
忠誠を誓う君主あってこその“もののふ”・・・
それを、殿が亡くなられたら、これからは誰の御旗を仰げばよいのですか!!
もう一度―――もう一度ご再考のほどを!!
〔王都ワコウより東南東の外れ―――約八里の処に、コンゴウという場所ありき・・・
そこは、ラージャ国の王族や重臣たちの保養地であると同時に、
急場を凌ぐ為の仮の王都がある場所でもありました。
そこへ彼らは、主だった者達と一緒に落ち延び、再起を図ろう―――と、したのですが、
ラージャ国国王と、その第一家臣である者は、最後の自分たちの務めとして、
ワコウの城に居残ることを選択したのです。
しかし・・・そのことは、同時にこの城と滅び逝くことを選択したことであり・・・
だからこそ、何とか思い留まってもらおうと、必死の説得がなされたのですが―――〕
チ:父上ぇ―――!!
ノ:殿ぉ―――!!
父:・・・何をしておる、早よう行け―――!
ここはワシらに任せるのじゃ!
王:そして・・・コンゴウにて、カルマの野望を打ち砕く策謀をめぐらせるのだ。
国の象徴たる王がおらずとも、そなたらが生き続けてくれる限り、
国としての意義までは死んでおらぬことを、やつらに思い知らしめてやれ―――!!
〔痩せても・・・涸(か)れても・・・“もののふ”は“もののふ”でした―――
どんなに恥辱を噛み締めようとも、おのれの内に一本筋が入っていれば、挫けようはずもない・・・
ラージャの国王と、彼の一番の家臣であり、理解者であり、また友でもあった者は、
自分たちの 死に様 を、若者たちに見せることで、
士 道 と は 死 し た る こ と に 見 つ け た り
・・・を、教えようとしていたのです。
―――こうして、燃え盛る天守を背中で見送りながら、
二人の若武者とそれに随行するもののふたちは、一路コンゴウへと落ち延びるのでした。
けれども、国の王が亡くなったとはいえども、その精神は次世代の者達へと受け継がれ、
未だラージャは滅していないことを、暗に物語っていたのです・・・。〕
To be continued・・・・