≪七節;古(いにし)えあるがままに・・・≫
〔その文章を一目見た、“生贄”の少女の眼からは、一条の涕が零れ落ちていました・・・
けれどもその涕は、これから生贄となる恐怖心や寂しさからなどではなく・・・
遙か昔に見たことのある・・・ある方の―――
それでいて、悲壮なる決意が表されていた一言だけが・・・
その紙の上には落とされていたから―――・・・〕
ヱ:・・・この手紙―――封が切られているようですけれど・・・あなたもご一読を・・・?
タ:これは・・・お恥ずかしながら―――
ですが・・・一体何と書かれてあるか〜までは・・・
簡単な件(くだり)であることは、字面(じづら)が少ないことからも判りはするのですが・・・
〔ここに・・・ナニが書いているのかが判らない―――?!
それは当然・・・何しろ、ここに落とされている字体そのものは、古代の文字―――
“ナグハマディ”と呼ばれる、古代に頻繁に使用されたものであり、現在ではそんなには使われてはいない・・・
ただ―――この宗教国家と呼ばれているサライの、最初期の聖典書の“原本”くらいにしか、
使用例の見ない、難解不読とされているもの・・・
それが・・・現代を生きる人間如きになど、判ろうはずもない―――・・・
けれども・・・私には判る・・・
このお言葉を―――あの方が文章に落とされたとき・・・
どんなお気持ちで、そうなされたのか―――を・・・
そこには・・・今にも消え入りそうな―――それでいて、哀しみ漂う一言・・・
――申し訳ない――
その一言が判ったからこそ、私は申し出を引き受ける気になったのだ・・・
難解不読であり―――また、哀愁の漂うパライソ国女皇からの招聘状を受けた少女は、
自身が涕を流していることを覚られまいと、居住を訪れた使者に背を向けて、その文(ふみ)に眼を通していました。
それに、この文書を作成したのが、誰であるかが判った時点で、
すでに受理した者の気持ちは、そちらのほうに動いていたわけであり―――
けれども、どうしても“手続き”というものは、必要不可欠であり―――・・・〕
ヱ:・・・判りました―――
それでは、“ゾハルの主”に捧げるための供物一式を取り揃えてもらいます。
まづ・・・一つ目は―――この山・・・ゾハル山の八合目付近に咲いている花・・・
<キンカリンドウ>という花を一輪・・・
それともう一つは―――この山・・・ゾハル山の中腹付近にある洞窟・・・
通称<焔竜の祠>―――そこまで無事に送り届けること。
この二つの条件を揃えていただければ、かのお方への案内役の大任、
須らくお引き受けいたしましょう―――・・・
〔この者達が・・・この私をどうしたいか―――
それは、あの方からの文章に眼を通すまでもなく、その態度にありありと出ていたこと・・・
あとは、その決意の程を、いかほどのものであるか―――見極めさせていただくまで・・・
この度、女皇からの招聘状を受理した者は、いかにも容易(たやす)そうで、その実試練が待ち受けている二つの頼みごとを、
女皇に成り代わり、使者として赴いてきた者とその従者に課すことで、
その決意の程を見定めようとしていたのでした。〕
To be continued・・・・