≪五節;険悪≫
〔そうこうしているうちに、西方―――東方―――その二方面に出されていた使者同士が会うこととなり・・・
いや、しかし―――・・・
タケルも、ましてやヴェルノアの公主でさえも、あることまでは知ろうはずもなかったのです。
そう・・・それこそは―――〕
タ:おお―――公主様、ご足労に存じます。
どうやらそちらも、大任を果たすことが出来たようですな。
斯く云うワシも、須らく陛下からのご依頼を果たせることが出来ました。
公:フッ―――それは重畳の至り・・・。
では、早速成果の報告を女皇の下へ―――
ヱ:・・・おい、ちょっと待ちたまえ―――なぜ貴様のような輩(やから)が、ここにいる・・・
タ:(は?)ヱリヤ―――様?
エ:―――そう云うお前・・・は!!
ちょいと―――公主殿、こいつは一体どういうことなんだい?
あんの小憎たらしい口を叩くチビガギが、どぉ〜してこの私と一緒に―――??
公:エルム・・・様―――いや、これは〜その・・・
ヱ:―――タケルとやら・・・確かこの私の処に来たというのは、この私に軍事面での幇助を願いたい・・・そう云うことだったな。
それがどうして・・・あんなヤツがここにいるのだ―――!
タ:(この口調―――・・・)もしや―――“ゾハルの主”、ご本人であられるのですか?!
ヱ:そんなことは今はどうでも良い―――!
返答をしたまえ・・・但し、その返答の如何によっては、ただでは済まさぬぞ―――!!
〔殊の外ご立腹―――いえ、“立腹”と云うには過ぎるほどの 大激怒 をしていた、“古(いにし)え”より伝わる『帝國の双璧』の二人・・・
しかも、その二人が存外仲が悪かった―――と、云うことは、現代を生きる二人にとっては知ろうはずもなかったことなのです。
―――とは云っても、そんな彼らを余所に、こちらの二人は・・・〕
エ:はんっ―――云いたいことを云っておくれじゃあないか・・・
大体、そんな小さな形(なり)に憑依することでしか証を立てられやしない・・・この能無しが―――!
ヱ:なんっ〜・・・だとぉ―――っ!! もう一度云ってみろ!!
エ:ハハ〜ン―――おや、なんだい、怒ったのかい! だったらもっと云ってやるよ!
チビ―――ガキ―――サル―――ノウナシ――――!!
〔激しくも噛み付く“ゾハルの主”に、“ヴァルドノフスクの城主”は、ありとあらゆる罵詈雑言を並べ立て、
両者の間にあった確執の溝は、埋まるどころか一層深くするばかり・・・
それに、なんとこともあろに―――ここが皇城・・・禁裏であるにも拘わらず、
『双璧』の一人である≪鑓≫―――つまりは、“ゾハルの主”を憑依させた少女が・・・!!〕
ヱ:ぅう・・・お―――おのれぇえ〜!
――ズ・ズ・ズズ――
タ:おお?あれは―――・・・
公:あの少女がこれほどの気を発しておるというのか?!
それにしても・・・ああ!まるで焔のような気から出てきたアレは―――“鑓”?!
〔“激怒”により昂ぶらされた気は、いつしか焔のようになっており―――
そんな焔のような気から覗き出てしまったのは、これ―――全身が焔よりも真紅な・・・“鑓”。
その銘も―――
スカーレットブリューナク;【ゲイフォルグ】
その槍の銘の由来は―――伝説上の存在となっている『帝國の双璧』≪鑓≫こと、“ゾハルの主“の尻尾より生じたとされ、
燃え盛る焔によって鍛え上げられた・・・と、されていました。
けれども、その槍の伝承については、いくつかの矛盾点が好事家たちの間にて指摘されてもいたのです。
そう―――・・・そも、『スカーレットブリューナクなる槍が、“ゾハルの主”の尻尾より生ずる』・・・と云う部分。
もし、この有名なる武将が人間だと云うのならば、ついていようはずもない尻尾が確認されるのは可笑しくはないだろうか―――
この部分が、大いなる矛盾点ではあったのですが―――・・・
しかし、実際にその槍そのものは、実在しえました。
それも・・・『双璧』は≪鑓≫の尻尾―――よりではなく、焔を象(かたど)ったその気の中から・・・!
そのことにより、皇城内は瞬くの間にして騒然となり、この状況は宜しくも女皇と録尚書事の耳にも入ることとなり、
するとそこには―――いつそうなってもおかしくはない・・・そんな状況が、すでにお膳立てられていたのです。〕
To be continued・・・・