≪六節;“観月の會” ―――蒼い月光(つき)の下で―――≫
〔こうして―――互いの誤解を解いた者同士は、膝を交わせあっての“観月の會”と洒落込むこととなり・・・〕
タ:う~む・・・まさに名月―――
一つお伺いをしますが、この月はあなた方がその昔に見られていたものと、全くお変わりございませんか。
ヱ:―――うん? うん・・・この―――天空に輝ける月は、変わってはいない・・・
地上は欲望と戦乱に塗(まみ)れ 穢れたとしても―――
吾らの頭上に昇り 煌々と照らしたる月の光までは―――
何人(なんぴと)たりとて 穢すことは出来まいよ―――・・・
婀:ほほう―――存外にヱリヤ様は、詩人なのでござりまするなぁ。
エ:―――どぉだい、妬けちゃうだろ?
ヱ:ははは―――なに・・・女々しいだけだよ。
タ:フフ―――・・・
天に 映える この月を
杯の内に 映し取り
宵の内に 呑み干さんと 欲す
ヱ:おお―――・・・“観月にての一献の句”とは・・・
婀:・・・いかが―――な、ものです?
エ:あぁん~もう―――小憎らしいッたらありゃしないねぇ!♪
ヱ:・・・ところで―――いつ気付いたのだ・・・ よもや陛下に促されて―――ではなかろう。
タ:ふむ・・・ですが“いつ”と申されましても―――ワシにしてみれば、そこかしこで“もしや”と思えることがいくつか・・・
それに、ワシの耳や眼は、この身体に備わっているものだけではございませんので―――・・・
ヱ:=禽=―――とか云う、面白い術式を扱うあの手の輩か・・・これは下手な芝居は打てんな・・・
婀:・・・やはり、この方々は仲がよろしいので―――?
タ:まあ、そういうことだ―――・・・。
・・・で、なければ―――こうも頃合よくカルマの先遣隊を退けようハズもあるまい。
それに―――前(さき)の一件で、見せてもらうべきあなた様方の実力を、知り得ることが出来ました。
それは感謝の言葉を申すべくもございませぬ―――
エ:ちぇ~っ―――なんだよなんだよ~こちとら、もうちょっと今の人間たちの反応を見てたいなぁ~と思ったのにさぁ~♪
ヱ:フフフ―――とは云え、その男は“古(いにし)えの丞相”に匹敵する才を持ち合わせている―――と、云う報告もなされている。
今回の看破劇一つを見ても、それを否定する材料などない―――と、云うことだよ・・・。
〔その場は、最初の頃こそ名月を観賞する会―――“観月會”ではございましたが・・・
いつしか座は、今回の看破劇を、どのようにして行われたか―――についての意見交換の場に変わり、
その中では、ヱリヤも知ることとなった“面白い術”―――いわゆるこれは=禽=たちのもつ個人技のことを示すようであり・・・
その者達を手足の如くに操るこの男を、一目置くような辞(ことば)が、古の雄将の一人からなされたものだったのです。〕
こうして―――『観月會』は 夜が更けるまで行われ・・・
今も―――昔も――― 変わりなく地上を照らしたる 蒼月は・・・
これから起こらんとする 大きな戦乱を さも知るかの如く―――・・・
ただ―――靜かに・・・
その光を 湛えていたのです・・・
To be continued・・・・