≪三節;女皇としての試練≫
〔この―――女皇陛下の弁舌を聞き、内政官の一人でもあった紅麗亜某という者は、
現在ウェオブリに駐屯している婀陀那に、至急コトの詳細を綴った書簡を送り―――・・・〕
婀:ほう―――紅麗亜から・・・ふむ、どれどれ・・・
〔元、自分の国の官であった者からの書簡に眼を通すと、すぐに婀陀那の眉は曇りました。
高度な政治的判断ではないにしろ、女皇が独自で判断したそのことに対し、
そのことが悪政に繋がることではなく、善政に繋がり行くことなのに官たちからの糾弾を受けてしまったこと・・・
そのことによって女皇が反省を処したことに鑑(かんが)み、婀陀那はすぐにシャクラディアにとって帰ろうとしたのです。
ところが―――・・・〕
タ:婀陀那、どこへ行く―――・・・
婀:あなた・・・これを見てくだされ―――
タ:・・・なんだ、このことか―――
婀:“なんだ”とはどう云うことですか、姫君が苦境に立たされているというのですぞ?
タ:ワシは・・・こういうこともあらんことよ―――と、ある程度予測はしておいた。
民たちの暮らしの窮状を知ると、あの方がどういう行動をなされるか・・・も、な。
婀:―――だとしたら・・・
タ:このことは、アヱカ様お一人で解決しなければならないことなのだ。
人間というものはな―――婀陀那・・・誰でも躓(つまづ)く、躓(つまづ)きやすい存在なのだ。
それはワシやお前にしても同じこと・・・況(ま)してやアヱカ様は一国の当主でもあられる。
ゆえにアヱカ様には、これからも様々な躓(つまづ)きが用意されていることであろう―――
だが、今回のコトに関して云えば、いわば初期のうちの・・・それも軽度な躓(つまづ)きに過ぎない、
そのようなことで度々我らにご相談になられては、この国の先行きも=列強=のそれらと同じことになってしまう―――・・・
婀:・・・と、云うことは―――
タ:フ・・・一部の報告では、難なく乗り切られたようではないか―――
それに、官たちもアヱカ様の胸の内を知り、一部にはアヱカ様に委ねてもよさそうだ・・・と、云う動きすらもあるという・・・
まさに“怪我の功名”だよ―――
〔婀陀那が愛馬を駆ってシャクラディアへ戻ろうとするところを、彼女の夫であるタケルが見つけ、諌めました。
すると婀陀那は、どうして引き止めるのか―――と、質(ただ)すと、タケルからは今回のような障害はあって然るべき、
そのことで万事を自分たちに押し付けるような君主ならば、これまでにあった=列強=の意義とは然程変わらないものになると指摘をしたのです。
事実―――今回アヱカの下した判断は、独断専行であったことには変わりはなかったのですが、
そのことに至ったところまでを詳(つまび)らかにしたことから、一部の内政官の間では女皇独断の判断に任せても良いのでは・・・
―――と、する動きもあったようなのです。
しかし―――・・・
アヱカより先々代の王である―――フ国・粛王ヒョウの時代に、
彼が悪政を招き、民たちから重税を取り立てたことで、フ国の穀物倉は常に潤っていました。
そして・・・その倉の備蓄は、現在のパライソにそのまま引き継がれていたのです。
ところが―――・・・
そう・・・今回アヱカが民たちに施したのはその倉の一部であり、全体の1/5を開放したに過ぎなかったのですが・・・
次第に、このことが裏目に出てしまうときが来ようとは―――・・・今の誰しもの眼からは明らかにはならなかったのです。〕
To be continued・・・・