≪七節;誰にも知られざる存在≫
ガ:・・・ねえ女禍、お前は―――お前を傷つけようとしたラゼッタを、どうするつもりだったんだい。
女:ラゼッタは・・・操られていて―――自我というものがありませんでした・・・。
それに―――マインドコントロールを受けていたと聞いたから、クリーニングの処置も施した・・・
マテリアルプレーン(主物質界)―――アストラルプレーン(星幽界)―――イデアプレーン(意義界)・・・
果ては遺伝子レベルにまで到って、須らく疑わしいものは洗い落としたはずだったのに・・・
ガ:そうだね―――そこが技術の落とし穴・・・
今あるウィルスに抗するワクチンを作ったところで、そのワクチンを上回るウィルスが蔓延(はびこ)りだす・・・
おそらく―――ラゼッタにマインドコントロールを施した連中も、現在私たちが有している技術の欠落を見つけて、
さらに強力なものを開発したに違いない―――そうで間違いはないね・・・オーギュスト。
オ:フフフ・・・さすがはプロフェッサーと知られた存在―――全くもってその通りだよ。
さぁ・・・私が知りおくべきことは総て話したぞ―――早く楽にしてくれたまえ。
ガ:そうはいかないよ―――あと一つ・・・お前さんの首領の名を教えてもらっていないだろう。
オ:私のボス―――? おらんよ、そんな者は・・・
われらは個別に存在しえ、それがある意思の下に集(つど)っただけだ。
ジ:・・・その―――お前たちのような下衆を、一つの下に集(つど)わせた意思って・・・ナニ。
オ:意思―――? うおお・・・わ、判らない―――どうしたというのだ?!
つい先ほどまであの方のお側に仕えていたというのに・・・名や―――姿までもが・・・
こ―――こんな莫迦な?!
ジ:この・・・ふざけるんじゃないわよ! そんな三文芝居を打って、誰があんたのそんな―――
ガ:お待ち―――
ジ:お姉さま?
ガ:こいつの云っていることは本当だよ―――・・・
この私の眼をもってしても、こいつの頭の中は何も見えなかった・・・
こいつの側にいて―――椅子に腰掛けているヤツの姿が、まるで靄(もや)がかかったように・・・
――誰であるか判らない――
ジ:なんですって―――? そんな莫迦な・・・お姉さまの洞察眼をもってしても、判らないことなんて―――・・・
ガ:けれど・・・これではっきりしたことがあるね―――
この連中を、今まで相手にしてきたような、ステラバスター崩れの連中とは同じに思わないことだ。
こんな・・・私にも判らないような者を上に戴くなんて―――ブラックウィドウ・・・噂で聞いていたよりは手強い連中のようだよ。
〔そこには―――愛しき者を護らんがために揚言をした、“破壊”を司る姉の宣言でした。
それからガラティアは、最も重要とも云える―――世界情勢の裏で暗躍をしている、
オーギュスト某の所属している、組織の長の存在を詳(つまび)らかにしようとしたところ・・・
なぜかオーギュストはそのことについて話をしようとはしませんでした・・・。
いや―――正確には、話すことが出来なかったのです。
それというのも、今まで彼自身が側に仕え、尽くしてきた存在だったのに、
いざ聞き出そうとしたところ、虚偽などを申し立てていることを見抜けるガラティアの眼力をしても、全く判らない―――
――誰であるか判らない――
ヱ ニ グ マ
―――・・・。
あらゆる観点から、そう結論付けざるをえなかったことに、ガラティアは新たなる危機感を覚え始めるのですが・・・
ともあれ―――・・・〕
ガ:・・・まあ、そいつに関してはこれからおいおい判っていくことだろう―――と、云うことでマグラ・・・
マ:・・・判りました―――
オ:フフフ・・・これで、ようやく楽になれるのか―――永かった・・・これでヤツとの因縁も・・・
〔ただ―――“首”だけの存在となっていた者を、そのままにしておくというのもあまりに無慈悲な行為であったがため、
そこにいたものの中で一番に発言権があった者が、丁度その場に居合わせていた“伯爵”にある許可を与えたのでした。
いわゆる―――復元が叶わなくなった存在を、取り込んでも構わない・・・と―――
この行為により、“伯爵”は更なる力を取り込み、“公爵”へと階級を上げたのでした。〕
To be continued・・・・