≪六節;最後の試練を乗り越え・・・≫
〔こうして―――愈々(いよいよ)訓練も最終段階へと移り・・・〕
キ:これまでの段階でゾハルの環境には慣れたことでしょう―――
・・・と、云う事で今回は思い切って頂上を目指してみましょう。
〔これまでの段階を踏まえ、過酷なゾハルの環境へと身体を慣らして行き、ガルバディア大陸の最高峰であるゾハル山の頂上を目指すと云う・・・
しかし忘れてはならないのは、彼女たち・・・マグレブの民たちがこの山に入った真の目的は、自分たちの故郷へ連なる途(みち)―――
ゾハル山(標高15,129)ほどではなくても、12,000級の山々が連なる連峰―――ヴァーナム山脈を越えていくのがそうなのだから。
けれども、かと云って油断と云うのも禁物と云うもの。
それと云うのも、自分たちを引率してくれているキリエの表情が・・・
自分たちの中で一番山の恐さを知り、また魅力を知っている者が―――その時の言葉とは裏腹に、いつもより緊張をしていたのですから。
確かに―――ゾハル山にヴァーナム山脈と云えば、(これは後々聞かされたことなのですが)登山家の間ではかなり頻繁に最頂を目指そうとしていた・・・
けれども、栄光の裏には常に挫折が伴ってくる―――最高峰の踏破と云う美談が騒がれる中、裏では失敗し断念・・・
それだけならばまだしも、強行させて登山隊が全滅してしまったことがあるのも、キリエは知っていた・・・いくら熟達者とは云えども、気は抜けなかったのです。
そのうちにキリエ率いる登頂隊はある場所に差し掛かり―――〕
ピシュゥッ〜―――ピシュゥッ〜――――
キ:(!!)待って―――
シ:ど、どうしたんですか―――
〔冬場の登山―――や、その時期に係るスポーツに関連してくる ある現象 ・・・
その現象が起こる前触れとして、先ほどのような不気味な唸りを上げることがあると云う・・・
その現象と云うのが「雪崩」―――・・・
だからその前触れともなる「唸り声」を聞いて、キリエは素早く対処をしたのです。〕
キ:あなたたち・・・雪崩の恐ろしさは知っているわね。
では、あの白い悪魔があなた達に襲いかかってくるとき、今のような声(おと)を聞かなかった?
ナ:―――そう云えば・・・私のデータにも残っているな・・・
ああ、確かにこう云った唸り声のようなものだったよ。
キ:そう―――ならば覚えておいて、今のは「鞭の音」と云って、雪崩が起こるときによく聞かれる声(おと)よ。
〔ここでも・・・マグレブの民たちはキリエの持つ見識の高さに目を見張りました。
それに自分たちがどれだけ無知であり、無謀であったことも。
自分たちの誰か一人が、今のような現象を知っていて対処が出来ていれば、大切な仲間達は襲い来た白い悪魔に奪われることはなかった・・・
それをキリエはしっかりと経験で兆候を知っており、今も大切な仲間達を失わないための対処をしたのです。
では―――具体的にどう対処をしたのかと云うと・・・〕
キ:ちょっとこの場より下がって・・・そうね、あの岩陰に隠れて―――
ユ:キリエさん―――あなたは・・・
キ:大丈夫―――心配しないで、私も・・・
―――雪崩を起こしたらすぐ避難するから―――
ユ:え・・・っ―――なだ・・・
〔そこにいた誰もが耳を疑ったこと、それが―――起きる前に起こしてしまう・・・
しかし―――雪崩と云うモノの恐ろしさは、そこにいた誰もが身に沁みさせていたものでした。
本来の雪と云うものは、その一粒一粒は微にも満たないモノの、一度(ひとたび)傾斜を転がるとなると周囲の雪をかき集めて立ちどころに群となってくる・・・
しかも表層雪崩はその先端で1tを越え、爆弾並みの破壊力を秘めており・・・一瞬で窒息死してしまうか、
巻き込まれて雪中に埋まってしまえば−30°で徐々に体力を奪われて死んでしまう・・・文字通りの白い悪魔だったのです。
けれども―――キリエは・・・〕
キ:フゥ・・・これでもう大丈夫―――しばらくここでは雪崩は起きないわ。
ユ:えっ・・・あっ―――それでは、私たちを安全に頂上に行かせるように便宜を・・・
キ:ああ云ったものは手間をかけないのがベストだけれど、下の標高に人がいるときは避けないとね。
けれどもとりあえずは、現在ここには私たちしか入っていないことだし、だから私もこの方法を選択したのよ。
〔キリエの確かな登山技術に知識―――そのことのお陰でこうも自分たちはこの山の攻略を終えることが出来た・・・
自分たちの行いは、今にしてみれば間違いだらけだったけれども、今はこうして確かな経験者の下で技術を磨けることは運の良かったことだと或る者は思いました。
そして―――ゾハルを征服した時・・・そこから見えた未知なる光景を目の当たりにし、彼女たちは本格的に魔の山脈を越えることを誓ったのです。〕
To be continued・・・・