≪五節;蝋白の美女≫
〔その一方・・・マグレヴの敵対国であるマルドゥクでは―――
落日寸前のマグレヴを滅ぼすための協力は惜しまないとする者達をどうするか・・・判断するため、
自分達を従えているこの国家の主に、それを委ねようと―――玉座のある部屋までその者達を連れてきたところ・・・〕
ゾ:只今ご報告に上がりました・・・我が主よ―――
主:・・・どうやら、この地域へと他所者が入り込んできたようですわね―――ルクスゥ・・・
ゾ:は・・・先頃派遣しておいた先遣隊も、何者かによって全滅させられた形跡もございます。
主:ホ・ホ・ホ―――
ゾ:主上―――?
主:吾はそのような小虫の話をしているのではありませんよ・・・
先刻お前が接見していた者達のこと―――
それにしても・・・随分と久しいですわね―――死せる賢者・・・
ガ:ふふ・・・とっくに知られていたようだ―――油断がならないねぇ・・・プルミエール。
ゾ:ぬうっ?! なぜそなた・・・我らが主上の名を―――
プ:(プルミエール=ド=オプスキュリテ;女;“女性”であると云う以外知られていないマルドゥクの国主。
ただその存在は秘匿とされ、朧気である為不気味だと云わざるを禁じ得ない。
しかしこの者の紡げる言葉・・・以前どこかで―――?)
およしなさい・・・ルクスゥ―――この者に嘘偽りを申し立てても、それは無駄なこと。
そうでしょう―――死せる賢者・・・いえ、昔通り「フロンティア・ゼニス艦長」ガラティア=ヤドランカ=イグレイシァス・・・と、お呼び立てした方がよろしいのでしょうね。
ガ:おやおや、どうやら筒抜けのようだよ―――と、云うより、一度お目にかかっていることだしねぇ・・・お互い。
それも100万年も前に―――
プ:この度は、どんな策を巡らせてきたかは知りませんが・・・あの時と同じ結果に収まるモノとは―――
ガ:―――なるさ・・・お前達のような性根の腐った奴らの辿る途は一つのみ。
その業の重さに耐えかね・・・自滅するだけなのさ―――よく覚えときな!
〔マルドゥクが本拠を構えている首都「ノスフェラン」では、軍事の統括指揮権を委ねられている将軍のゾズマが、
自分の主である人物に事の次第を報告するためと、或る判断を下してもらうために主の下を訪ねていたのでした。
すると彼方からは、すでに何かを感じていたかのような語り草・・・
将軍のゾズマと一緒にいた者が、死せる賢者ではないか・・・と、言及したのです。
その存在こそは不敵―――・・・
その存在こそは不遜―――・・・
その存在こそは艶媚―――・・・
その存在こそは不貞―――・・・
その存在こそは堕落―――・・・
その存在こそは不浄―――・・・
それは・・・遥かなる過去にも存在したある者と、存在の意義を同じくしており―――
けれどそのある者は、自分の妹によって滅ぼされ、また同じ存在が出て来ようなどとは思ってもいませんでした。
然るに、当時のゼニス艦長をして「混沌を好みし者」とまで称された―――『漆黒の美女』・・・
しかし・・・現実に、こうしてガラティアの前に立ちはだかっていたのは、
彼の存在・・・ヱニグマとは対照的な―――『蝋白の美女』・・・
そう・・・何もかも「白」でした。
でもガラティアは、その者を一目見てその本質を見抜いていました。
この者こそはヱニグマのもう一つの形態であり、あの女の「純悪」あるがままの姿―――
あの女を「黒」に象徴させるならば、この女は「白」・・・
しかし、その色の持つ印象―――「雪白」「潔白」「精白」「白妙」など・・・清らかなのに対し、その者が持つ印象は違いました。
どちらかと云えば、蝋のようにくすみ―――どこかとどったような・・・不透明な存在。
それに現在のヱニグマであるアヱカは、生来あの女の持っていた性悪さが見受けられない。
だとするならば―――・・・
その仮説は、目の前の女自らが証明してくれていたのです。
それこそが『蝋白の美女』・・・プルミエール=ド=オプスキュリテ―――「最初の闇」と、ガラティアは呼んだのです。〕
To be continued・・・・