≪五節;一陣の風≫
婀:フ―――・・・そなたこそ、未だ敗れてはおらぬのに、なのになぜそうも弱腰であるのか・・・妾にはとても理解できかねる。
テ:な―――では、何を根拠に、そなたも・・・そなたの夫も! あのような魔物に対して・・・
――~ヒィイイィィン~――
テ:な―――なんだ・・・この奇怪な音は・・・
婀:(来たか・・・)誰ぞある―――妾の駒を引けい!
〔本陣内に敵兵が傾(なだ)れ込んでも、異国の女丈夫は威厳を保ち続けていました。
しかも彼女の口ぶりは、喩え相手が魔物の兵であったとしても、決して「敗れぬ」と云う自信・・・
それは彼女の夫もそうであったように―――・・・
なぜ―――・・・
自分達は、自分達人間とは異なる異形の軍団を目にし、怖くて・・・恐ろしくて・・・手も足も出なかったと云うのに―――
それなのに・・・彼女達は、どこかそんな者達と相対峙するときの骨(こつ)を心得ているかのようだった・・・
しかし―――そう・・・
「見た」だけで戦意喪失・・・心が挫けてしまうのは、それだけで「相手にはならない」と云うこと・・・
異国の彼らのように、毅然と刃を向けられる度胸が、自分達には座っていなかったと云う事・・・
そんな彼らを味方につけるなんて―――・・・
自分達が知る王女時代のルリは、どこか鼻持ならなくて「我がまま娘」がお似合いだった・・・
それに―――この国を旅立つ日、またいつものように癇癪を起こし、自分の父・・・大臣のススムを困らせていたけれど、
それが十数年ぶりに帰ってみれば、本当に・・・まるで見違えるように成長を果たし、屈強な味方の同盟まで結んできた・・・
人は変わる―――・・・
そして国も変わる―――・・・
あれだけ押されていた戦局も―――・・・
そのきっかけは、婀娜那が佩いていた聖剣―――「クロスクレイモア・ジグムンド」が、仲間の到来を知らせるかのように、「共鳴」をした時からでした。〕
リ:(!!)共鳴―――・・・近い、この近くに婀娜那様かタケルさんのどちらかがいるわ!
紫:全軍―――歩調を速め、且つ周辺に警戒を!
(いつになく空気に緊張感がある・・・戦場は近いはずだわ―――)
〔その「共鳴」は、婀娜那の「ジグムンド」だけに拘わらず、援軍に向かっているリリアの「デュランダル」や紫苑の「ファフニール」、
イセリアの「エクスカリバー」にギルダスの「バルムング」もほぼ同時に共鳴をしていたのです。
その事により友軍が近い事を知る事が出来たのですが・・・こうした時に油断し、突然敵軍と遭遇して小規模戦闘になってしまう事は十分に考えられた為、
迅速かつ慎重な行動が求められたのです。
しかして―――その時機(とき)は意外にも早く訪れてきました。
恐らくは・・・敵軍の斥候と見られる部隊と―――〕
魔:キギッ―――なんだお前達は! 一体どこか――――らっ・・・?!
紫:敵本隊は近い―――! これより我々は、戦場(いくさば)を駆ける一陣の風とならん!!
〔不意の敵との遭遇に―――唸りを上げるフランヴェルジュ・・・
それが戦端展開の合図でした。
元々、個々が優れる能力の持ち主、この旅団を率いる紫苑も、その傘下にいるリリアもイセリアも―――
いえ、彼女達ばかりではありませんでした、ノブシゲも・・・チカラも・・・ギルダスも―――
その誰しもが、この旅団を指揮するのに足る、能力の持ち主。
それがこの時、一個の旅団に編成されていると云うのは「便宜」と云う上だけでの話しであり・・・
そして今―――各々が率いる大隊は、いずれ劣らぬ武力(ぶりき)をして、戦場の敵に刃を突き立てるのです。〕
To be continued・・・・