≪六節;異聞―――酒蔵の怪≫
〔そこは―――・・・薄暗い闇の中・・・
そこは―――・・・一種異様な雰囲気を醸す場所・・・
独特な香りがし―――小動物達が駆け回る・・・
そして・・・保存に適した温度に保たれたその場所で―――
何とも不可解な影が蠢くのが、見え隠れしていたのです・・・
しかも・・・何やら液体を舐めずり回るような物音を立てながら、時折仄かな溜息も交じっていたのです―――
その時皇女は―――城内の通路を小走りに急いでいました。
忘れていた・・・この二人が復活を果たしているという事は、当然自分たちの一番上の姉であるあの人も・・・
それに、あの人が一番先に行き着きそうなところと云えば―――・・・
しかもあの人は、あるモノの愉しみと云うものを自分に教えてくれた人・・・
最初は―――仄かな酸味に、口から鼻に抜けるような芳醇な芳香・・・
その当時にはそれに対しての抵抗があまりなかったためか、軽い眩暈と頭がふらつく感じがした―――・・・
けれども、それが次第に堪らなく好い感覚になって行き、気分も段々と良くなって行った・・・
或る人は、そのモノのことを―――神からの恩恵(おめぐみ)―――だと云った・・・
まさにそうだ―――「醸造物」と「蒸留物」・・・製造の工程や味わいなどに違いは見られるけれども、大本は同じモノ―――
それが・・・アルコール―――
一番上の姉も、末の妹である女禍も好物であるモノ―――・・・
迂闊だった―――今頃あの場所には、あの人がいるに違いない・・・それに―――・・・
とどのつまり、皇女にデルフィーネ・・・ヱリヤにエルムにベェンダーが、揃いも揃って向かっていたのはその人物が一番出現しやすい場所―――
シャクラディア城・地下酒類貯蔵庫(ワインセラー)・・・だったのです。
そして案の定―――辿り着いてみれば・・・〕
ガ:――〜くっはぁあ〜っ・・・!〜―――
―――っ・・・かぁあ〜〜っ・・・いい味出してるよねぇ〜〜この200年物v
ジ:お゛・・・・(遅かったぁあ〜〜orz)
デ:(私たちが来るまでの間に・・・)
べ:(総てのモノに手をつけられていたとは・・・)
ヱ:(まさに・・・底なしと云うべきか―――)
エ:(酒くさぁあ〜! )
ガ:―――おや、あんたたち・・・今ご到着かい? こっちゃあもう一杯飲(や)っちゃってるよぉ〜ン♪
ジ:ちょっと姉さん―――! こんなに手当たり次第に樽を空けるなんて・・・どぉ〜云うつもりなんですか!!?
ガ:オヤオヤ―――なんだよぉ〜そんな難いこと云っちゃいけないよ?女禍ちゃん・・・
ジ:あ゛あ゛あ゛あ゛・・・っ! アヱカが生まれた年のまで〜〜―――
ガ:ああ〜そいつが一番気合いが入ってたねぇv
ジ:姉ぇ゛〜さんっ―――!
ガ:――――飲む?
ジ:「飲む?」・・・って―――今の私が飲酒適齢期に見えるんですか!
ガ:いい〜ぢゃないの〜―――思えば・・・私があんたにこいつを覚えさせたのは、丁度その位の頃だったんだからさぁ〜。
ジ:確かに・・・見かけの上ではこの位でしたが―――あの当時はすでに私も齢100を超えてたではありませんか。
ガ:・・・確かぁ〜銀河宇宙での飲酒適齢期は、齢350過ぎてから〜〜だったと思うんだけどぉ〜?w
ジ:(の゛?) それじゃあ―――軽ぅく、軽犯罪法に引っ掛かってるじゃあないデスメタル!!
ガ:けどさぁ〜〜そんなに云うほど重くないんだからさぁ・・・
ジ:姉ぇ〜さんっ!! 罪が軽かろう―――重たかろうの話じゃ・・・
ガ:・・・私さぁ―――
ジ:・・・えっ?
ガ:いつか―――姉妹揃って、こんな風に杯を酌み交わそう・・・って、それだけが夢だったんだよ―――
それがねぇえ〜? デルフィーネの奴は下戸だし―――女禍ちゃんもようやく飲(い)ける口になってきたかなぁ〜〜と、思ってたら・・・
なんか―――ここ最近立て込んじまって、一緒に飲める機会なんてあったもんじゃなかっただろう?
ジ:(あ゛っ・・・なんか雲行きが―――)ちょっと・・・ジィルガ―――姉さん??(・・・が、もういない〜〜orz)
ガ:もうっ―――! 今日と云う日は、何が何でも・・・とことんまで付き合ってもらっちゃうからね゛っ! 覚悟しなよぉ〜?♪
〔酒類貯蔵庫いっぱいに広がる独特の芳香(かお)り―――・・・
そこはもう、そこに蓄えられている総ての酒樽を・・・少しづつ飲むために開栓をし、
閉めるのが面倒なので開けられたままになっているため、アルコールの匂いが部屋中に充満していたのです。
そう・・・やはり―――自分たちの一番上の姉は、この場所にいた・・・
総ての酒樽の利き酒をするため―――いや、自分と一緒に飲む姉妹のために、先んじて宴会場に来てすでに出来上がっていたのです。
そして・・・いつの間にか、自分は姉のお酒の相手をさせられている―――
これもまた、在りし日の・・・永遠の光景―――
しかも気がついてみれば、ベェンダーやヱリヤ・・・それにエルムまでもがガラティアのお相手をさせられて、お酒に酔って眠ってしまっている。
厭だ―――厭だ―――と、口では断っていても、その人から勧められたモノは皆一様にして口にしている・・・
確かに、そこで無下に断ってしまえば、あとで散々厭味を云われるけれども―――酔って好い気分になれるのならば悪い気はしない・・・
それに一番上の姉も、受ける側が本当に拒んでしまえば、そこから先は無理強いはしない・・・
末の妹が知る上で、次姉の次にお酒の弱いエルムが、ヱリヤの隣で静かな寝息を立てているように、
そこには・・・遙けき昔―――まだこの惑星・・・地球に着くまでに、一番上の姉―――ガラティアの艦ゼニスでささやかに催された小宴会の光景があったのです。
あの当時とは若干参加した人物が違ってはいましたが、やはりこんな感じだった―――・・・
そんな―――懐かしい光景を見せられた皇女・ジョカリーヌ(女禍)は、酔い覚めの一杯を求めるため・・・
また誰彼に云うでもなく云われるでもなく、酒好きの姉の傍に寄り添って行ったのでした。
時をして同じ頃―――・・・パライソ国の黎明時から表舞台に出ることなく、主に情報の収集と云う事に功を為していた ある集団 が、
皇国が盤石の下に成り立ってきたのを見計らったように―――ようやくにして、その本懐のために動き出そうとしていたのです。〕
To be continued・・・・