≪七節;帝國の崩壊≫

 

 

〔こうして、この国であった騒乱は、一応の鎮まりを見せたか―――に、思われたのです。

 

が―――・・・〕

 

 

佐:(ぐ・・・う・・・ど、どうやら、僅かだが動かせられるようになったか―――

  それに、彼奴(きゃつ)()は今、油断をしている・・・この機を逃しては―――)

 

 

〔冷酷無比にして、帝國・・・果ては皇帝に絶対なる忠誠を抱いていた大佐は、

ようやくにして、スターシアから受けた雷撃が、緩和されつつあるのを感じ取り、本懐を遂げて油断をしているユリア達の隙を狙っていたのです。

 

ところが―――・・・〕

 

 

佐:ぐぅおあああ―――!

 

エ:フフフ・・・なんとも健気なモノだ。

  もはや、汝自身が忠誠を捧げる「象徴」も失せたと云うモノを―――

 

佐:う・・・お・の・れ―――ま、まだ鼠が・・・

 

 

〔倒れている自分のすぐそばに転がっている、自分の拳銃・・・それを、彼女達に見つからないように、そっと拾おうとした時―――

自分の手と、拳銃毎踏みつけにする足が・・・

しかしそれは、今まで姿を見せなかった「大公爵」―――エルムドアだったのです。

 

そして、この騒乱の総てを見届けたエルムドアは、ユリアに対して―――〕

 

 

エ:フッ・・・さて、どうしたら良いのかね―――ユリア・・・

 

ユ:・・・わたくしは、今件に関しては、「ヴェロー・シファカ」の壊滅のみを主目的に置いてきました。

  ですから、それ以外の事は、最早わたくしの(あずか)り置く範疇にはありません・・・。

 

ス:フッ・・・聞こえようによっては、実に都合のよいように聞こえるが―――

 

ユ:ですが、事実としてわたくしは―――・・・

 

ス:まだ判っておらんようだな。

  お前が「盟主」と見定めたお方は、お前のそうした考えも織り込み済みで、この地へと遣わしたのだ。

  まあ・・・私にしてみれば、迷惑この上ない事なのだが―――

 

ユ:・・・・・・。

 

エ:フフ・・・ラゼッタ―――新人をいびるのはそれくらいにしておいてくれ。

  それにしても、国家を支えていた屋台骨が崩壊した今となっては、早急に決めておかなければならない事ではあるが・・・

 

 

〔以前には敵対していた事もあり、程度以上の厳しい言葉を述べるスターシア。

その事に、ユリアも口を閉ざしてしまうのですが・・・そこをエルムドアが助け船を出し、()ず自分達がしなければならない事を、問題提起したのです。

 

しかし・・・ユリアだけは―――〕

 

 

ユ:あの・・・少しお待ちください、そのやり方では、今までのこの国のあり方、そのままではありませんか。

 

エ:うん? まあ・・・そのように捉えられても致し方のない事ではあるが―――

  では、汝から、これに代わる「最良」の代替案でもあるというのかね。

 

  なによりも、国力が極端なまでに疲弊し、民達が生きていくのにやっと―――と、云う、この国の現状で・・・

 

ユ:(・・・!)―――いいえ・・・

 

エ:ならば、口を噤んで黙っていて貰おう・・・。

 

ス:済まないな、きつい云い方で。

  だが、私とて同感だ、確かにこの「やり方」は、私達が目指してきた事とは程遠い―――に、してもだ、

  この国の「象徴」としての存在は、もういない・・・こうした疲弊した国家には、喩えそれが「案山子(かかし)」と云えど、心の拠り所があれば、人心の安寧が図れるモノだ。

 

  こうした「やり方」に賛同できかねる―――と、云うのなら、口を噤んで成り行きを見守るしかない。

 

 

〔その時、エルムドアから提起された案とは、なんの実権を持たない者を「象徴」に据え置き、その裏で自分達がその者を操る・・・

しかしそれは、以前でのこの国の―――「ロマリア帝國」の政治手法であり、その事にユリアは見咎めたのです。

 

けれど・・・その代替案を求められた時、ユリアは提示できなかった―――

「ならば、黙っていろ」―――と、厳しい口調で(なじ)られたモノでしたが、先程までユリアに強く当たっていたスターシアからは、エルムドアのモノよりかは和らいだ表現が・・・

 

そこには、ユリアが反対をする道理が判っていながらも、仕方なくそうせずにはいられない―――それしか方法がない事を物語ってもいたのです。

 

 

それに、彼らの言葉の裏内には、ある事が巧みに隠されていました。

それが・・・ならばユリアが、その「象徴」となってみるか―――と、云うこと・・・

 

けれど、ユリア自身は、その事はもう、自分の役割ではない事が判っていました。

その役割は、「アヱカ」の時で終わったのだ―――そう、自分にも言い聞かせてきたのです。〕

 

 

 

 

To be continued・・・・

 

 

 

 

あと