≪七節;勿忘草―――その花言葉が意味するモノ≫
〔そのことを説明するのに、少しばかり時間を遡り・・・
「巣」内部での、エルムドア大公爵とスターシアの会話に、そのことを示す重要な手掛かりが・・・〕
ス:そう云えば―――あの者の名前・・・その総てを知らされていないな。
ユリア=F=クロイツェル―――あの「F」とはなんなのだ。
エ:フム・・・ご本人様は、「フレグラント」と云っているようだが―――あれこそ、現在のあの者を示す、重要な手掛かりとなっている。
ス:「フォゲット・ミー・ノット」・・・確か、花の名に、そう云ったモノがあったと記憶しているが。
エ:「勿忘草」・・・花言葉では、『私を忘れないで』―――と、云うらしいが・・・健気なモノじゃないか。
ス:それと、もう一つある―――『真実の愛』・・・それでなのか、女禍様と「相互共有」であると云うのも・・・
〔図らずも、スターシアが所望したお花こそ、ユリアのミドルネームにも中てられていた、「勿忘草」だったのです。
(それを彼女は、初めの内は、仲間内にでも違う事を云ってはいたようなのですが・・・それは、「欺くならば味方から」―――と、云う事もあり、中々辛い立場ではあったようです。)
それはそうと―――お店では・・・〕
ス:この私が、ここまでしてお願いをしていると云うのに、売れないと云うのだな。
ユ:申し訳ございません・・・どうか、あのお花だけは―――
ス:そうか・・・そこまで拘っていると云うのであれば、是非もないことだ・・・。
この花は、形こそは小さいが、その意味している処はとてつもなく大きい・・・
嘗てのお前が、この惑星にあった総ての動植物を焼き払おうとした時でも、この花だけは、あのお方がプラント・ハントによって株を有していた・・・
そして、お前と対峙した時、お前のことを「判った」―――と、云っていたと云うが、お前も、その時やはり気付いたのではないのか・・・ヱニグマ。
ユ:―――・・・。
ス:返事がない―――と、云う事は、そうだと捉えてもいいのだな。
〔スターシアが、どれだけ頼み込んでも、ユリアはそのお花を手放そうとはしませんでした。
その理由は、そのお花が持つ「花言葉」もさることながら・・・驚くべき事実が―――
それが百万年前、ユリアがまだヱニグマとしてその猛威を振るっていた時、その危険性を予測していたのか、
当時は、まだ女禍だったジョカリーヌが、ヱニグマからの破壊の手から回避する為に、少しばかりのプラント・ハントを行い、その内に、偶然「勿忘草」があったと云うのです。
そして現在―――この花は、このお店に飾られている、一株しか残っていなかった・・・
自分と、存在を「相互共有」する、無二の存在から借りてきた、「たった一株」・・・
見かけの上では、他の花に見劣りしてしまう、青く小さな花なのに―――
その花は、過去を伝える遺伝子を、その身に受け継いでいたのです。
だからこそ、そんなにまで大事にしているモノを、殊更に奪えないモノだとしたスターシアは・・・〕
ス:済まなかったな、お邪魔をしたようだ。
ユ:申し訳・・・ございません。
ス:しかし―――どうしたモノか・・・このまま、手ぶらでは帰れんな。
おお、そうだ、それでは一つ頼みごとをして帰るとしよう。
ユリア・・・その花を、今よりも一層大事に―――枯らす事のないように・・・な。
もしそうでもして、あの方の寂しそうな表情を見るのは、耐え忍びないモノがあるからな・・・。
ユ:勿論です―――このわたくしも、細心の注意を払わせて頂きます。
そして、いずれは・・・この花を―――
ス:『真実の愛』で、地球を埋め尽くす―――か・・・
これはまた、途方もない計画だな。
だが、お前にならばできるように感じる、嘗て―――女禍様が、そうなされたように・・・な。
〔そのお花―――「勿忘草」には、お花の名前そのものが「花言葉」として流用されていました。
しかしながら―――このお花が持つ、もう一つの「花言葉」・・・それが、『真実の愛』。
嘗て、「愛」を司った女神の―――まさに「それ」を強調するかのような、強い力を宿した言の葉こそ、
ユリア=フォゲットミーノット=クロイツェルの、存在意義そのものだったのです。
そして、その強大な愛は、ユリアのその誓い通り、この・・・美しく蒼き天体である「地球」を、覆い尽くすまでになるのです。〕
〜Fine〜