|58章|

 

 

【『香水』の芳香(かお)り】

その香水『シャンタージュ』は、癖のなく嫌味のない爽やかな芳香(かお)り・・・

私の―――憧憬(あこが)れとしている、『ヴェルノアの公主』様が好んでつけていた芳香(かお)り・・・

 

だけれど・・・と、言うこともないのだけれど、この香水の人気はかなり高く、

この大陸の女性のほとんどかつけていたため、さほど珍しくはなかったのですが―――

 

このときひょっとすると、リリアは『もしかして―――』という気に駆られたのかもしれません。

 

 

【眸の先に捉えられし者】

しばらくは―――婀陀那もここの官との対応に追われており、息をつく暇もなかったのですが、

ふと人足が途絶えたところで紫苑が近づき、それまでの労をねぎらっていたのです。

 

そこでは、こういった所作事に余り慣れていないホウ王子への気遣いや、

ヴェルノアに残してきた“影”のルリへの皮肉などを言って紛らわせていたのですが・・・

 

ふと―――婀陀那が此方に目をやると・・・

よく自分を訪ねてヴェルノアに来ていたあの存在―――

アレは・・・確か・・・リリアと名乗っていた―――

 

リリア―――そうか、そういえば・・・ルリからの報告では、

何がしかの疑惑に駆られ、それを暴くためにヴェルノアを訪れていたとか・・・

しかも―――ルリの仕掛けた罠にかかり、あたらほうほうの体(てい)で追い返された・・・・

 

ふむ―――ならば、それを利用しないてはない・・・

 

 

あの一瞬で、ここまでの陰謀が渦巻いていたのでした・・・。

 

 

【生きた心地】

―――がしなかったことでしょう・・・の、リリアちゃん。

 

なにしろ、前述の謀(はかりごと)そのままを、婀陀那から繰り出されることによって、

以前の ゴシップ・スキャンダル を披露されそうになるし・・・

お酒も強要させられるし―――・・・

 

もぉ〜〜―――サイアクぅ!!(<リリア談)

 

 

【ある花の古名“君子”】

その花は・・・気高くも華やかであり―――愛でるときにも芳しい香りを漂わせていた・・・『菊』という華であり。

奇しくも私が慕っていた先生の家の紋章もその華だった―――・・・

 

そして―――・・・その華の古名・・・“蔭君子”とは、

世を逃れて住む、徳の高い人物でもある―――という・・・・。

 

 

【息を呑む】

セシルも―――リリアまででないにしろ、相当泡を食った様子ではある。

それは当然のことで―――この世で二番目に繁栄をしている列強の当主なのだから、

まさかこんなところに―――・・・といった疑問も宛(さなが)らに、またも問い詰めるような一コマ・・・

 

そこをタケルは窘(たしな)めようとするのですが―――・・・

 

 

【飾らない存在】

無欲にて無装飾―――よく見てみれば、着物の襟のところも綻びが見えてみすぼらしそうに見えるのに・・・

 

けれど―――仲間の一人が言うには、この人こそ私たちが一目おかけしておきたかったガク州公様だという・・・

 

身分も―――貧富も、何も・・・この人の前では隔たりを持たない・・・その意味をなさない。

 

日ごろ肩書きの躍進に腐心しているどこぞの国の官たちや、そのことにやはり一喜一憂している私たちとは違う・・・

 

やはり―――『格の違い』とは、この人のためにあるのだろうか・・・とさえ、リリアは思っていたのです。

 

 

【アヱカの別の一面】

しかし、そんな優しげなる一面のそのウラで、あの婀陀那に対して意見するなんて・・・

 

でも、実はあの場面は女禍様がやってたの。(勘のいい人なら気づいてるはず。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻る