≪十節;救出劇≫
〔そして―――また一人・・・その剣、『緋刀・貮蓮』の餌食になった者が。
それから―――この、カ・ルマの監査の騎士の形(なり)をした者は、婀陀那に近付き・・・〕
婀:そなた―――もしや・・・
監:・・・・公主――――
婀:(や、やはり!!)
監:・・・動かないでいてもらおう、今、楽にしてやるから・・・。
シュ――― シュ――――・・・ン
キィン――― キシィ――――ン・・・
〔婀陀那の目の前に突きつけられた“光の刃”、けれど今度ばかりは、彼女の生命を絶つために使われませんでした。
でも、それは間違いなく・・・婀陀那の両手両足、首元に架せられていた枷―――に、だったのです。
すると、その刃がその場所を通過したとき、枷はその音とともに真っ二つとなったのです、
無論、婀陀那の体には傷の一条もつけられることなく・・・。
そして―――暫らく無言のまま見つめあう二人・・・〕
婀:・・・・・。
監:・・・これを―――(ふぁさ)
婀:あ―――・・・
監:そんな姿にまでされて・・・さぞや辛いことだったろうに―――
だが、あんたが口を割らなかった・・・そのお蔭で、ワシの主である方は、その生命を永らえる事が出来た。
そのことに関しては、主に成り代わり禮をいたそう―――(ペコリ)
婀:・・・・妾を――――
監:(ぅん?)
婀:妾のことを・・・“公主”と言った―――
妾の正体を知り得(う)く人間は、紫苑の他にあと一人―――・・・そなたは“ステラバスター”なのか・・・?
監:“ステラ”・・・・確かに、以前はそんな名を使っていたことはある―――
だが・・・今は違う。
婀:・・・・では、今は、なんと――――?
監:ワシは―――・・・
タ:ラー・ジャはクメルが産の タケル=典厩=シノーラ と、申す・・・。
(ず・・・)この姿ではお初にお目にかかります、ヴェルノアが公主―――婀陀那=ナタラージャ=ヴェルノア様。
〔すると―――何も羽織っていない婀陀那を気遣ったのか、着けていたマントを外し、優しく内掛けてやる監査の騎士の姿を模した者。
そこで、婀陀那は問いかけてみる事としたのです。
この・・・公主である自分の“真”の存在を知るというこの者に・・・
すると、やはり思ったとおり、その男の口からは、ある存在・・・『ステラバスター』の名が。
しかし、こうも言っていたのです、『“以前”はそう名乗っていた』・・・・と。
そして―――次第に、自(おの)ずから明らかにした“自分の正体”・・・それを聞いた婀陀那は―――〕
婀:タケル・・・典厩・・・・シノーラ・・・・
それが―――そなたの名前・・・
タ:いかにも―――
婀:・・・それよりも―――そなた、先ほどに“我が主”と申しておったな、何者の事じゃ・・・
タ:(フッ―――・・・)たいしたお方・・・と、だけ申しておきましょう。
凡愚なるワシを、五度もその草庵に尋ねて下されただけではなく、お会いしたときには、その高潔なる理想までもお聞かせいただいた・・・
この禮に対するに、何か報いなければ―――と、そう思い、草庵を出奔するに至ったのです。
婀:そなたの事を“五度”も―――・・・中々に見識のあるお方のようじゃな。
タ:恐縮の至りでございます・・・
婀:・・・して、御ン名は―――?
タ:(フ・・・)恐らく―――婀陀那様も良くお知りの御仁でございますよ・・・。
婀:そうか―――やはりそうであられたか・・・(フフ・・・フフフ―――)
〔タケルは―――未だここが敵の砦の中・・・と、思い、自分が仕えている“主”の名は明らかにはしませんでした。
けれども、婀陀那はどこか思い当たる節があったらしく、彼が言わなくても、その存在が誰であるか・・・は、分かってしまったのです。
その次に―――彼女は、先ほどから気になっている、彼の佩剣の事を聞いてみたのです・・・〕
婀:ところで―――そなたの佩いている剣は・・・?
タ:ああ―――・・・(ゴソゴソ) これ のことですか。
お恥ずかしきながら、『緋刀・貮蓮』でございます。
婀:ひ・・・“緋刀”!!? で―――・・・では、そなたが、あの・・・『清廉の騎士』!!
タ:・・・単なるまぐれで、この剣の柄を握ったとき、反応して刃を出してしまいました・・・
何もワシでなくとも、もっと相応しい者が―――・・・
婀:・・・・いや、そうではないでしよう――――
やはり、そなた程の者でなければ、務まるものも務まりはしますまい。
タ:(・・・フ―――)一国の公主様にそれほど評価を受けますとは・・・
そのお言葉、ありがたく頂戴いたします。(ス―――・・・ペコリ)
婀:いや、栓無き事よ。
それよりも―――・・・ここから出る算段のほうは・・・
タ:無論、整えてございます―――。
ですが―――婀陀那様には、不服があるやも知れませんが・・・・
今より、この者達の鎧を着けてもらう事になりますが・・・よろしいか―――?
婀:・・・こやつらの―――? なぜに・・・
タ:なに――― 一芝居打つために・・・ですよ。(ニッ)
〔目の前の精悍なる漢タケル・・・その者こそ現在の『清廉の騎士』であり、
アヱカ姫の―――『女禍の魂を持ちし者』の護衛をしている者・・・それであると、婀陀那は瞬時に悟ったのです。
それに―――今更ながらに言うまでもなく、タケルがこの砦に来たというのも、
“婀陀那の救出”が、第一の優先項目・・・だったからなのです。〕