≪四節;総てを帰依するために≫
〔では、そのあとの史実は―――?
皇の臣の中の『槍』と称する者、魔皇と死闘を演じ、終(つい)にはこれを打ち倒したり―――
その証拠として、彼の者の左手に填(は)められたる魔性の指輪を、己の槍に掲げ―――
ここに邪悪なる者が、打ち倒されたることを、世の人達に知らしめられたり―――
でも、真実は――――?
魔皇も、そして直属の七魔将達までも、遺されていたモノには僅かな――――真にもって微々たるモノしか遺されていなかったのです。
つまり、これの意味することとは・・・・?〕
皇:姉さん、手遅れ・・・って、どういう事―――それに脱け殻・・・・って??
丞:言葉通りの事です、陛下。
この者達は、この世での覇業が成就できぬ事を悟り、とある事をしでかしたあとに、私達が踏み込んだ事に他ならないのです。
皇:な――――なんだって??!
丞:(ぅん―――?)お待ち下さい、どうやら戻ってきたようです・・・
驃:(はァはァはァ・・・・・)じ、丞相!! あれは・・・・あそこにあったのは一体――――
丞:・・・一振りの剣と、黄金の指輪しか残されていなかった――――とでも??
車:(えぇっ?!!)ど・・・・どうしてその事を、お師様が??
丞:・・・・・それよりも、一時シャクラディアに戻ることといたしましょう。
〔災いをなす者達がしでかした『とある事』・・・・。
実は、この事に、丞相たる者は、大いなる懸念を抱いていた・・・そして、実際に、その事を目の当たりにして“手遅れ”と悟ったのです。
そして―――今は、皇城・シャクラディア、その一室・・・皇の自室にて。〕
驃:なんだって――――??
車:りんかー・・・ねいと??
丞:そう・・・彼の者達は、この時代での、己の野望が叶わぬ事と見るや否や、
ここでの因果・因縁を断ち切り、別の時代へと転嫁・・・・逃げてしまったのです。
驃:し・・・しかし、何を証拠に―――
丞:・・・・それは、先程私が申し上げたように、彼の者達の死骸に遺された、『残留瘴気濃度』が、余りにも低かったからです。
〔リンカー・ネイト・・・・そう、別称を『輪廻転生』と呼ばれたこの大秘術は、“アルス・マグナ”の中でも、特に扱いの困難とされているものであり・・・
でも、しかし――― 一か八かのその賭けに、魔皇と七魔将達は乗り、そして“勝ち逃げ”した・・・と、いうことなのです。
それでは――― 彼らは?? このまま指を咥えて見ているだけしかないのでしょうか・・・・〕
車:そ・・・それじゃあ――― 私達は、これから一体どうすれば・・・・
驃:(う、うぅ〜〜――――・・・)
丞:・・・・・お畏れながら、陛下。
皇:・・・・・うん?!
丞:あなた様は、自分のなしてしまった不祥事・・・つまりは、ご自分の尻拭いを、後世の者達に託すおつもりなので・・・?
皇:(な―――っ!)わ、私だって、それが出来さえすれば・・・・
丞:すぐ―――に、でも後を追いたい・・・・と?
皇:あっ―――は、はぃ・・・。
車:で、でも・・・その――― リンカー・ネイト ?? 私達の中で、一体誰が扱えるので??
丞:その事に関しては――― 一応私めも、 アルス・マグナ には少々の心得がありますので・・・。
驃:丞相閣下が――――・・・でも、何?? その、『アルス・マグナ』って。
丞:それは―――
〔“アルス・マグナ”――――それは、『無』から『有』を生み出すもの・・・・
そしてそれこそは、自分より上位の、ある人がなした事――――
初めは、大地と大気を組成している素から、『オリハルコン』なる鉱物を創造(つく)りだし、
そしてそれに自分の『氣』を練り込むことで、意志ある鉱物『ジルコニア』を作成させた事・・・・
しかし、その『意志ある鉱物』の技術を、ディスクリプト=弟子の一人に盗み出された事により、
その者は自分自身に戒めを施し、この次元とは違う『次元の狭間』に身を貶めたという――――
でも、その一方で―――
そのある人の側で、その術式の研究の手伝いをし、何をすべきか―――の、ノウハウを叩き込まれた者が、そのある人の実妹であり、
そしてまた、当世の皇の下で、治世を鑑みる役職『丞相』である“マエストロ”なのです。〕
皇:そう・・・だったのですか・・・・では―――
丞:はい。
それではこれから、陛下には引き続き病床に臥せてもらいます。
その上で、この私めがリンカー・ネイトに必要な、下準備をなしておこうと思うのです。
皇:成る程・・・それで、準備する期間としては?
丞:恐らく―――二年余りかかる・・・か、と。
驃:二年・・・・短いようで、長いな―――
車:でも、ちょっと待って―――? お師様は・・・マエストロ様は、あの者達が転送される時機の事を・・・・
丞:無論、その時機も既に割り出しております。
皇:では、それはいつ――――
丞:・・・・それは―――
〔それこそは、現在(いま)の―――アヱカ姫達の生きる時代・・・・
その時より、実に七万年後の、時の果て――――だったのです。
そしてそれよりあとの事は、史実にもあるように、カ・ルマを平定した後、皇・女禍は、心身ともに疲れ果て、
かの有名な文言を残し、薨去されてしまったのです。
しかし―――今までに語られたように、その“死”こそは一時的なものであり、
極端な事を述べてしまうと、“偽り”のなにものでもなく、それがキリエにも申していた、
『騙している事に変わりはない』だったということだったのです。〕
To be continued・・・・