これからのお話しの舞台は―――中世ヨーロッパ「風」の・・・「オデッセイア」と云う国での物語。

 

(さき)のお話しより、互いの意思を尊重し合い、一つとなった男女がありました。

 

一人は―――この国、「オデッセイア」の王家の姫君・・・リリア=デイジィ=ナグゾスサール。

そしてもう一人は―――過去に、この国で催された武闘大会の決勝で、見事リリアを(やぶ)った男・・・千極驍(せんごくたける)の実弟、千極蓮也。

 

この二人が、これからの生涯を共に生きていこうとしたのも、(もと)はと云えば、ある因縁めいたこんな出来事からでした。

 

そのきっかけは―――リリアが、自分を(やぶ)った事のある武芸の達人・・・(たける)との再戦を果たそうと、彼の行方を捜していたところ、

5年を掛けてようやく見つけ出したまでは良かったのですが、その時には既に(たける)は闘える身体ではなく、宿敵とも云えるリリアの腕の中で安らかな眠りに就いてしまったのです。

 

そんなことがあり、半ば目的を見失ってしまっていたリリアの前を―――偶然にも、(たける)の実弟である蓮也と出会ってしまった・・・

そこでリリアは無理を承知で、蓮也に・・・本来ならば(たける)に対して申し込むはずだった「真剣勝負」を申し入れたのです。

 

ところが・・・この「真剣勝負」の最中(さ な か)に、リリア自身が自分の(なか)で目覚め始めた「恋愛感情」に気付き始め、またもや敗退―――

その後に自分の素直な気持ちを相手に伝えた事で、現在に至るのです。

 

 

それからは―――・・・と、云うと、リリアと蓮也の勝負の行方を見届けたと云う事で、同伴をしていた「座頭」の市子は、オデッセイア国に隣接している「サライ」へと戻り、

もう一人の同伴であったラスネールも、一区切りがついたと云う事でリリアの(もと)(わか)ち・・・

そしてリリアと蓮也は、リリアの出身であるオデッセイアの首都城「ノーブリック城」へと帰還したのです。

 

第一話;王国の将来

 

けれども・・・問題は山のように積み上げられていました。

それと云うのも、誰が何と云おうと、リリアはこの国のお姫様―――

次代(じ だ い)の、この国を背負って行く立場―――・・・

 

そう云った立場の人間の宿命は、最早云わずと知れたところ―――・・・

 

しかしリリアは、そう云った権利を放棄し、5年と云う歳月を(たける)を探すことに注ぎ込んだ・・・

その「ツケ」が今、一度に押し寄せていたのです。

 

 

 

リ:あ〜〜ん・・・もう厭っ―――! 飽〜〜きた!

官:これリリア殿―――まだ半分の半分も終わっていませんぞ。

 

リ:〜る゛っさいなぁ・・・云われなくても判ってるよぉ!

 

 

 

老練の文官から、今まで溜まっていた業務の遂行を()かされ、半分腐ってしまっているリリア―――

この一場面を見ても判るように、彼女はこうした手間のかかる作業・・・彼女自身の言葉を借りるなら、「面倒臭い事」は大の苦手だったのです。

 

だからこそ、自分を(やぶ)った(たける)を何としても探し出す―――と云うことを口実に、5年間そう云った事から逃れたかった・・・とも、考えられなくもないのですが・・・

それはそうと―――成り行きとは云え、リリアの国・・・オデッセイアに来ることとなってしまった「男」は・・・と、云うと―――

 

 

 

蓮:いかがでござる―――(はかど)っておりますかな。

リ:あっ、蓮也〜〜丁度いい処に来た・・・今から昨日の稽古の続きをしよ?

官:だぁ〜〜めですっ! それは今日の分を終えてからにしなさい!

 

 

 

彼―――蓮也も、この国に来てからと云うモノは、只飯(ただめし)を食うと云うわけにもいかず、取り敢えずは軍部に籍を置いて、そこで切磋琢磨・練磨をしていたのです。

それに蓮也は、彼の故国でもある「東の国」でもそうだったように、文武を両立させていた・・・

未知の地ゆえに、文字が判らないまでも、周囲(ま わ)りにいる人達に訊いて回り、それを自分の故国の言語に直すなどをして、彼が武一辺倒ではない事を知らしめていたのです。

 

そんな(いと)しの彼が―――自分の様子を見に来てくれた事を(よろこ)んだ・・・

 

いえ実は・・・その事を口実に、またもや「面倒臭い事」から逃避しようと画策しようとしていたわけなのですが、

それは呆気(あ っ け)なく文官の知れるところとなり、今日のノルマを達成するまでは「おあずけ」―――と、きつく釘を刺されてしまったのです。

 

 

ともあれ・・・ようやくの(てい)で、その日のノルマ分を片づける事が出来、「面倒臭い事」から解放されたリリアではありましたが―――

蓮也が、そんな彼女を再び迎えに上がった時には、リリアは憔悴しきっていたのです。

 

 

 

蓮:大丈夫・・・なのでござるか?

リ:あ゛は♪ へーきよ、こんなもん―――で・・・も、ないかなw

 

 

 

心配する彼―――と、心配しなくても大丈夫・・・と、敢えて痩せ我慢、強がりを云ってみせる彼女・・・

そんな彼女のいじましさに、今回分のノルマ達成のご褒美と云う事もあり、(かね)てより(のぞ)んでいた稽古の申し出をしてみたのですが、

どうもその日はリリアの気の乗る処とならず、折角の蓮也の行為を無駄にした(かたち)に終わらせてしまったのです。

 

―――と、まあ・・・前のお話しからの続きと云えば、大体がこんな感じと云ったところ。

リリアも、腐りながらも自分に与えられた責務は果たせてはいるのですが、

何分(なにぶん)にも、政治関係の事は「面倒臭い事」として、あまり興味がなかった為、今回のような事態になってしまうのも無理らしからぬところ・・・と、云ったようです。

 

けれども、自分の国に帰還(か え)ってきたからには、否応なしにそんな事に直面する事は判っていたはずなのですが―――・・・

ならば、どうしてあのまま―――流浪の旅を続けなかったのか・・・

そこには、ある事情が絡んでくるのでした。

 

では、その「事情」とは―――・・・

 

とある日、蓮也との会話が、その「事情」を知るきっかけとなるのでした。

 

 

 

蓮:そう云えば―――・・・

リ:ん?なんだ、蓮也・・・

 

蓮:そなたの父上と母上には、未だお目にかかってはおりませなんだな。

  いつ会わせて頂けるのでござろうか―――

 

 

 

皆さまも、薄々お感じだった事だろうか―――リリアのご両親の事を・・・

リリアの父親である人物は、このお話しの初期の頃に記述がなされ、その時には「オデッセイア国王」―――だった・・・とはしているのですが、ならば今は?

それに、リリアの母親なる人物は―――?

 

本来ならば、長い旅路から帰還(か え)ってきた愛娘を(いた)わる場面と、愛娘の後をちゃっかりついてきた(馬の骨)に、文句の一つでもつける面白い場面があってよかろうはずなのですが・・・

つまり、蓮也が抱いていた疑問とは、愛娘であるリリアが戻ってきたにも拘らず、出迎えすらもしなかった・・・やもすれば、不在を臭わせる両親の存在に―――だったのです。

 

すると、リリア本人の口から、その事に関わる重大な告白が―――・・・

 

 

 

リ:母・・・か―――私は、母の顔をよく知らない。

  ただ・・・親父が云っていたのには、顔は私によく似ていた・・・と、だけ―――その親父も、今年で3年を迎える・・・

蓮:な―――なんと・・・それはつかぬ事を・・・知らぬ事とは申せ、申し訳次第も・・・

 

リ:別に―――蓮也が謝るほどの事じゃないよ。

  母は、私を産んですぐのことだったらしいから、無理だったけど・・・

  ただ―――親父のヤツは、私が国を出奔()てから・・・と、聞いていたから、せめて臨終には立ち会いたかった―――今でもその事は後悔している・・・。

 

  ―――でもな、私の意地を通したおかげで、蓮也・・・あんたに会える事も出来たし、私はそんなに悪い結果になったとは思ってもいないんだよ。

 

 

 

そう・・・リリアの二親(ふたおや)は、既に逝去(せいきょ)し―――この世にいなかった・・・と、云うのです。

しかしその事実は、現在のオデッセイア国の王位は空位のまま・・・

ただ、官が便宜を図って国政を切り盛りしていたのです。

 

つまりは―――この度、帰還したリリアを待ち受けていたのは・・・「早急なる王位の獲得」―――と、云う、重過ぎる責任でもあったわけなのです。

 

けれど・・・ここに来て、リリアは何かにつけて王位に就くことを避け、それでも五月蝿(う  る  さ)く云い寄ってくる官に、一つだけ条件を突き付けた・・・

それが、今まで自分が溜めておいた、王家の人間としての業責務の執行―――

その事が完遂するまで、王位には就かないとしていたのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと