絢爛(けんらん)豪華な住居に住み―――強き者を従え―――花や植物にまで造詣(ぞうけい)があると思われる、パライソ国の統治者・・・「大皇(おおきみ)」。

そんな、数多くの性格を持ち合わせる謎多き人物に、いつしかリリアはその当初の目的―――

強いマキやラスネールを従えさせているのだから、当然「大皇(おおきみ)」自身も相当に強いのだろう・・・ならば、直接対決をしてみたいものだ―――と、云う欲求は、

ものの見事にすっかりと抜け落ちてしまっていたのでした。

 

それに、どこか肩透かしを受けた感覚―――・・・

マキからは、「空中庭園」と云う施設のどこかにいるはずだから、探してくる間にシャクラディア城の散策を勧められた―――

けれど、誰かの案内なしに、このただ広い建物を巡り歩くことなんて出来るわけがない―――

おまけに、いつの間にかラスネールは、自分の理屈で今はどこかの空の下・・・

 

つまり、現在のリリアは文字通りの一人ぽっち―――

(てい)よく置き去りにされてしまい、何の当てもなくふらふらと彷徨(さ ま よ)い歩き、偶然出た処が―――・・・

 

第十話;リリア一人・・・

 

リ:あ・・・ここは―――・・・

 

 

 

「広い・・・なあ―――あいつの庭も広いけど、ここはあいつのより輪を掛けて広い・・・」

「それにしても・・・綺麗な処だなあ―――ここは・・・」

 

気が付くと、リリアは・・・先程、大広間から大皇(おおきみ)の部屋に行くまでに見かけた、広く大きな湖のある庭園に来ていました。

そしてそこで、いろんな想いを馳せさせたのです。

 

「そう云えば―――残してきた連中は、また私がいなくなってしまった事に、心配しているんだろうか・・・」

「そう云えば―――蓮也は、私の事を気に掛けてくれているのだろうか・・・」

「そう云えば―――市子は、ソフィアの国に住むようになって・・・それから・・・」

 

思えば―――その時ふと、望郷の想いが、頭を(もた)げてきていたのかもしれない・・・

日ごろ親しくしている友人や、想い人から想わずも遠く離れてしまっていた事に、柄にもなく感傷的にも・・・また、人肌恋しくなってきていたのかもしれない・・・

そんなリリアの姿は、恐らくもう一人の自分が見ていたとしても、しょぼくれて落ち込んで見えていた・・・それがもし、赤の他人の目から映った場合には―――?

 

しかしその「もし」は、現実のモノになろうとしていたのです。

 

 

 

?:―――あれ? ねえ、娘さん・・・どうかしたの?

リ:・・・え? ああ―――なんでもない・・・

 

 

 

しょぼくれて、落ち込んで見えるリリアに―――声をかけてきたのは、恐らくはこの国の住人だろうか・・・

小豆のような赤い紫をした髪―――瑠璃のような青味がかった紫の眸―――色白で・・・朗らかで・・・特に印象的だったのが、笑うとそこから光が(こぼ)れてくるようだった・・・

そんな感じのする―――女性・・・

 

それに、農作業からの帰りなのだろうか、真っ黒に土で汚れた手を、この湖の水で洗う為に、この庭園に寄った・・・そんな感じでした。

そんな光景を見てリリアは―――・・・

 

「ふぅん・・・この国の「大皇(おおきみ)」ってのは、住人でもここの施設を自由に使えるように、開放してあげてるんだ―――」

「判ってるんだなぁ・・・私達みたいな「王族」や「貴族」は、国民達の力があってこそ、存在が出来ているってことを―――」

 

しばらくリリアは、手を洗うこの国の農民の女性を見つめ、この国の統治者である「大皇(おおきみ)」が、自分自身と同じ考えを持っている事に気が付くのでした。

 

そう・・・行く行くは、リリアもエクステナー大陸にある自分の国、「オデッセイア」の王位を継がなければならない身・・・

そんな中で、果たして当主として―――或いは君主として、心得るべきは何なのであるか・・・

自分が治める国の、民達の恒久的な笑顔―――それをどうやって行けば築いて行く事が出来るのか・・・

 

その事は、長年リリアが―――自身に課していた議題であり、その事を知るため・・・ただ無為に旅などを続けていたわけではなかったのです。

 

それに―――・・・

 

 

 

民:・・・どうしたんだい、さっきからずっとこちらばかり見て―――

リ:ああ―――いや・・・真面目に働いているんだなぁ・・・って。

 

民:それはどうも―――そう云えば君は、ここでは見かけない顔だね・・・

リ:ああ―――実は・・・マキって人に連れて来られて・・・

 

民:へえ―――あの人が・・・帰ってきたんだ。

リ:―――知ってんの?あの人のこと・・・

 

民:あっはは―――なにしろ彼女は、この国では有名人だからね。

  それで・・・どんな処から来たの?

リ:あ、うん―――エクステナーの、オデッセイアって処から・・・

 

 

 

その農民の女性は、見知らぬ顔のリリアがよほど珍しかったモノと見え、名前やどこから来たのか―――など、しばらく話し込んでいました。

それに、リリアも話し相手が見つかったからか―――自分の出身である「エクステナー大陸」がどんな処で、自分の国である「オデッセイア」がどんな国で、

周囲(ま わ)りには他にどんな国家が点在してあり、その他の国とは仲良くしているのか―――果てまたは敵対しているのか・・・

そんなことを、パライソ国の農民であるこの女性に訥々(とつとつ)と説明してみせたのです。

 

 

そうこうしている内に、とっぷりと日も暮れ、いつまでもこの女性と話し込んでいるわけにもいかないとしたリリアは、未だ自分を迎えにも来ない侯爵に文句を言う為、

適当な理由をつけてその場を去る事にし―――その女性と別れることにしたのです。

 

すると、そんなリリアの背後(う し)姿を見ながら―――・・・

 

 

 

?:・・・ウフフフ―――どうやら、まだ捨てたモノではなかったみたいだね。

  それにしてもご苦労だった―――バールゼフォン、今はゆっくりと休みなさい。

ラ:お気遣い―――感謝致します・・・。

  ・・・で―――いかがなモノでしたか。

 

?:君の云っていた通り―――口は悪いようだけど、実直そうで何よりだ・・・それに、私と気の合う処も見られる。

ラ:そいつぁ―――良かった。

  だがあの娘さん、結構な「面倒臭がり屋」ですぜ?

 

?:アハハハ―――それこそ結構じゃないか・・・益々気が合いそうだ。

  では、明朝の朝議の後―――合う事にしよう・・・それでいいね。

 

 

 

侯爵・マキの従者(サーヴァント)であるラスネールが、その女性の背後に控え、何事かを話し合っていた・・・

その場面だけをみると、話し合う相手が違うのではないかと思うのですが・・・

実はそれが間違い―――彼は、話し合う相手を間違えてなどいなかったのです。

 

それと云うのも・・・覚えているであろうか―――ラスネールが、石牢内で・・・リリアに向かって云っていた事を・・・

そう―――あの時彼は、「上からの催促」と云っていたのです・・・。

 

確かに、ラスネールの直属の上司は、侯爵であるマキだけれども―――例の命令・・・

「南方の大陸の意思を反映できる者の探索とその保護」―――

この命令は、果たして一体、どこから発信されたモノだったのでしょうか・・・。

 

 

明けて翌朝―――泊まる宿の当てもなかったので、仕方なくこの城の一室を借り、「今日こそは」・・・と、意気込み、

先ずその手始めに、昨日とうとう自分を迎えに来なかった侯爵を探すことから始めたのです。

 

すると―――以外にもすぐに見つけ、昨日の事を詰め寄ってみると・・・

 

 

 

リ:あっ―――見つけた・・・ちょっと、昨日はどうしちゃってくれたわけよ。

マ:あ・・・リリアちゃ〜ん―――ゴメン、ゴメン。

  あそこったらただっ(ぴろ)い上に、上層(う え)(きり)がないもんだからさぁ〜―――23階から上が、ちょっち莫迦らしくなってきちゃってぇ〜・・・

 

リ:は? それ・・・って、途中でケツ割ったってわけ?? 信じらんない―――ちょっとあり得ないんですけど・・・

マ:ニャハハ・・・〜まあまあ、そこはあたしに免じて許してやって頂戴よ〜w

  それより―――今からなら確実に会えるけど・・・どうする?

 

 

 

そんなこと・・・聞かれなくても判っている―――

最早どうするかなど、愚問中の愚問―――自分も感じている、凄い奴に会う為に、ここに来ているのだから・・・

 

大皇(おおきみ)」が、どんな人物かは知らない―――けれど、当初の目的通り、自分と大皇(おおきみ)と・・・どちらが強いのか試す為に、直接対決を申し込みたい・・・

 

そして―――それを終えさせた後には・・・

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと