この真剣勝負、主催の立会いの下、「始まり」の掛け声とともに、一気に相手との間合いを詰めるリリア―――
その相手であるグワゴゼウスは、直前の、何やら曰くありげなガラティアの一言により、気を取られてしまい、一瞬無防備になってしまったのです。
そして気付いてみれば、対戦相手は驚くほど接近していた・・・
しかし気を持ち直し、すぐさま勝負の方に集中し始め、かろうじて・・・なんとか、リリアからの一撃を防ぎ切ったのです。
その様子を見て、溜息を吐くジィルガは・・・
デ:あぁ〜ら、今ので決めなきゃ―――
なにしろ、二人ともお互いの事を、何も分かっていないんだからさぁ。
ん〜〜だとしたら―――もうリリアって子に、チャンスは巡って来ないかもね・・・。
し:そ―――それは、どうして・・・
デ:そんなの判った事じゃない。
だってあの子―――自分の手の内を見せちゃったんだからさ。
だ・か・ら、今の一撃を避けられたのは、同時にあの子が勝利する機会が薄くなってしまった・・・ってことなのよ。
お互いが知らない―――それであるが故に、「最初の一撃」は殊の外重要でした。
なぜならば、「お互いの事をよく知らない」から・・・つまり、どんな手で勝利を収めるか、その手段が杳として知られていなかったのです。
しかしこの時、リリアの剣は、虚しく空を切ってしまいました・・・
その事を、ジィルガは、さもグワゴゼウスにも聞こえるように伝えたのです。
しかもそれは、対戦相手側への、的確な助言―――にも聞こえなくもなかったのです。
その事は当然、同時に、リリアのピンチにも繋がった―――剣を空振ったお陰で、身体が完全に泳ぐ格好となり、構えも儘ならないとした時・・・
グワゴゼウスからの反撃が―――
リ:あぐぁっ―――!
ジ:リリア―――!
姉さん・・・なんて事をしてくれたんです!
ユ:ジョカリーヌ、落ち着きなさい。
まだ決着はついていませんわ。
それに・・・マエストロも、ただ単に「敵を塩を送った」わけではありません。
そうですわね―――ジル・・・
デ:全くあんたときたら・・・半分愉しみが減っちゃったじゃないの。
攻撃は避けられたけれど、相手も反撃の為の時間を要した為、その時間を、ダメージを軽減する為の対策に費やした・・・
けれど、時間は、そうは掛けられない―――と、すれば、剣を盾にして、後ろに跳び退く事くらいしか浮かびませんでしたが、
この際、贅沢は云っていられないので、すぐに実行に移したら・・・
相手からの反撃―――まるで、剣の様な爪が、リリアを襲ったのでした。
でも、身を護る対策は講じていた為、寸での処でグワゴゼウスからの反撃は躱せられたモノの、その代償として―――・・・
市:リリアさんの剣が・・・
リリアが現在帯剣している剣は、また新たな剣が出来るまで、自分で鍛えたモノでしたが、如何せん急拵でもあった為、以前より携えていた剣よりかは、脆くもあったのです。
つまり、その剣でグワゴゼウスからの反撃を躱した時、その衝撃に耐え切れず、リリアの剣は破壊されてしまったのです。
だから、これで「勝負あった」―――と、思いきや・・・
ガ:フフン―――確かに、壊れちまったね・・・リリア殿の剣。
だけどね、リリア殿は持っているじゃないか、「アレ」を・・・
リ:「アレ」?! ―――つったって、私がピンチにならなきゃ、「アレ」が出て来てくれないじゃないか・・・
ガ:なに云ってんだい、今が十分に「ピンチ」だろうに。
リ:あ、云われてみれば・・・
今度はガラティアから、リリアに助言がありました。
しかもその助言は、リリアが持つある特性―――「晄楯」の事を示していたモノでしたが、
リリア自身も、未だに自分の意思で出す事は容易ではなかった・・・と、するのですが、
その原因を、ガラティアは―――
ガ:それはだね、リリア殿が「出せない」―――じゃなくて、「必要がない」から、出てこなかっただけの話しなのさ。
ま・・・あんな物騒なモノ、自由に―――それも、自分の意思で出せれた事には、問題はありはしないんだろうけどねぇ・・・。
「物騒なモノ」―――と、ガラティアはそう云いました。
けれどリリアは、今まで自分達のピンチを救ってくれた「晄楯」が、そんなモノだとは思ってもいなかった為、しばらくリリアの思考は停止してしまったのです。
そんな好機を―――対戦相手であるグワゴゼウスは、見逃そうはずもありませんでした。
なにより、この人間の小娘に勝てば、自分は自由の身・・・と、くれば、勝負を焦らないわけにはいかなかったのです。
だから、次の一撃を、止め―――と、ばかりに繰り出した・・・の、ですが・・・
それは無意識―――
無意識・無想・無我の内に放たれたモノ―――
地べたにへたり込み、どこか混乱したかのような感じのリリアに・・・
グワゴゼウスからの爪牙が、容赦なく襲いかかる―――・・・
これで今度こそ、「勝負あった」か―――に、思われましたが・・・
そこにいる全員は、信じ難い光景を目にしていたのでした。
それもそのはず・・・なんとリリアは、気が脱けた状態から、左手を相手に差し向け、「晄楯」を発現させていたのですから。
けれど、その事に一番驚いていたのは、周囲りの人達ではなく、寧ろ・・・
リ:えっ―――わっ?? な・・・ナニ、コレ・・・いつの間に―――
た:(意識して出したのではない・・・?)
リリアが、次に自我を戻した時、自分の前に光の盾が展開し、相手からの攻撃を防いでいたのでした。
その事に、少しリリア自身も戸惑いましたが―――この人物だけは、「ここぞ」と云う時に・・・
ガ:今だよ―――! その六本の内の一つを掴みな!
そうすれば、あんた自身の―――・・・
ガラティアから、そう云われるがままに、リリアは、自分の前に展開する、六本の内の一つを手に取ると・・・
今まで、リリアは、「盾」だけしか創れないモノだと思われていたのに―――
その「盾」は、「剣」に変化したのです。
それを見るなり、ガラティアは・・・
ガ:(やはり思った通りだ!!
良いよぉ〜実に良い! それに・・・あの子の眸―――!!)
グワゴゼウス・・・負けを認めな、もうお前に、勝ち目はない―――
グ:く・・・っ! その眸―――そうだな・・・お前の云う通りだ・・・
リ:はぁあ? なんで―――なんでそこで、腰を折る様な事を云うんだよ!
折角こっちは、その気になってる〜っちゅうのにぃ!
ユ:それは、仕方のない事なのです。
だって、今のリリアさんのその眸・・・それこそは、グワゴゼウスの義兄弟、シュトゥルム=ドミチェリ=ナグゾスサールと、同じなのですから・・・。
ある事情をよく知る人物の一人から、現代のリリアにも因縁深い名前を挙げられました。
それにしても、地球に住むリリアが、どうして宇宙からの来訪者の眸を・・・?
けれどそれは、また別のお話し―――
それよりも、ガラティアは、今、実際にリリアが引き起こした、不思議な現象について解説をしたのでした。
第百一話;无楯
ガ:あれこそは「无楯」。
そしてこの私が、ここ最近研究してたテーマなんだよ♪
ジ:嬉しそうですよね、姉さん・・・
ガ:そりゃ当然だろ♪
なにしろ、実証検分する機会って、そうあったもんじゃないからねぇ〜。
それに、「无」ってのはさあ―――「事物も現象も全く存在しない事。」「『有』と『無』の対立を超越した、悟りの世界」「絶対無」「『有』または存在の否定、その欠如」
・・・と、云われてるくらいだからねぇ〜。
それに、云ってみれば、「無敵属性」がボーナスでくっついちゃってるもんだからさぁ〜、どう転ぼうが、この子が負けるって結末はなかったんだよ♪
その場で、実際にリリアが出来てしまった事は、地球に住む人間種族が、出来るはずもない事・・・「有り得ない現象」そのものでした。
だ―――と、すれば・・・それが出来てしまったリリアは、純粋な地球人ではない・・・と、云う事になってくるのですが、
ここで忘れてはならないのは、「无楯」を展開させた時の、リリアの身体的特徴―――
つまりは、その部分以外は、普通の地球人の娘なのに・・・興奮や激情に触れてしまうと、変わってしまう「ヘテロクロミア」―――・・・
そして、また更に興奮をしまうと、まるで魔族の様な眸になってしまう―――「鬼眸」・・・
それが、先送りにされている、そもそもの原因だったとすれば・・・?
ならば過去に―――500年もの昔に、リリア=ディジイ=ナグゾスサールの先祖である、リリア=クレシェント=メリアドールに、何かがあった・・・と、云う事なのです。
=続く=