リリアとハミルトンの夫婦が、エクステナー大陸のラダトゥーィユ(現在の「ノーブリック」)に移り住んで、二年の月日が経ったある日の出来事・・・

 

その年も、作物の収穫は良好で、その事を祝う「お祭り」も、盛大に終えてからのこと。

(にわ)かに、各家々が作物を収納している「倉」が、何者かに襲われる・・・と、云う、「事件」が相次いで起きました。

その事に、当初は、リリアもハミルトンも、「ならず者(デスぺラード)」の仕業だろうと思い、初期段階の警戒を張り巡らせてみたのですが・・・

(くだん)の容疑者は、程度の知恵はあるらしく、まるでその事を嘲笑(あざわら)うかのように、次々と犯行を重ねて行ったのです。

 

そこで、思う処となったリリアは、独自の調査に乗り出してみた処・・・ある意外な事実が判明してきたのです。

それが―――朧げながら見えてきた・・・容疑者の全容。

 

この「事件」を起こした「容疑者」は、「単独」ではなく「複数」で―――しかも、統率もよく取れている・・・云わば、「賊」・・・。

おまけに、必ずと云っていいほど、犯行現場に遺されている、何かの「シンボルマーク」と見られるモノ・・・

 

この証拠を手に、太陽圏内を管轄に置いている、「マエストロ」―――ジィルガに、ホット・ラインで相談を持ちかけた処・・・

 

 

 

デ:ああ〜ら、リリアちゃんじゃなぁ〜い。 お久しぶり―――

リ:「御無沙汰をしております、マエストロ―――」

  「それより、相談に乗って頂きたい事が・・・」

 

デ:うぅ〜ん、いいわよぅ―――あなたと私の仲じゃなぁ〜い。

  それで? どう云った事なの・・・

リ:「(あはは・・・)それが実は、私とハミルが移り住んだ土地で、ここ最近頻発するようになった、ある事件の事なのです。」

  「こちらを見て下さい・・・」

 

デ:・・・これは?

リ:「当初は―――「ならず者(デスぺラード)」の連中が、(ふざ)け半分にやっている事だと思っていたのですが・・・」

 

デ:見慣れて行く内、そうも思えなくなった―――良い勘してるわね。

  いいでしょう、そこの処まで判ったなら、この「シンボルマーク」が示す意味を教えてあげましょう。

 

 

 

而して―――それこそが、「広域犯罪組織」に「指定」されていた、「グリフォン」のモノだと云う事を、

改めてジィルガから教えて貰うと、これからの対応策を講じる為の協議に入ったのでした。

 

それにしても、「グリフォン」―――・・・

広大な宇宙を、広域に(わた)って荒らし回る「宇宙海賊(ステラ・バスター)」・・・

その組織立った行動に、一般住民の手には余るモノだとしたリリアは、嘗ては自分も、名を馳せた武芸者だっただけに、

単身にて、賊連中の根城(ア ジ ト)へ踏み込む為の手段を・・・また新たに、自分が携える為の「剣」や「鎧」を作成する為のノウハウを、ジィルガから授かったのです。

(その時に制作した「剣」や「鎧」は、奇しくも「現代の」リリアの王族に伝わっていた、「王家伝来の剣」であり「鎧」だったのです。)

 

 

こうして―――準備を整えたリリアは、夫であるハミルトンに見送られ、賊連中が根城(ア ジ ト)としていると見られる場所に辿り着くと・・・

すぐさま宣戦布告―――剣を鞘から抜き放ち、賊連中の殲滅を開始させたのです。

 

 

 

第百四話;未来への作用・中篇

 

 

 

賊:ナ―――ナグゾスサール様ぁ〜!

ナ:どうした・・・何事だ、騒がしいぞ。

 

賊:げ・・・現地人とみられる女が、剣を抜いてオレ達の仲間を襲ってんでさぁ〜!

ナ:なにを莫迦な・・・こんな貧相な惑星で、そんな大層な事が出来る奴がいるモノか!

  それより・・・何をボサッとしている! やられたらやり返せ―――!!

 

 

 

慌てふためく部下を一喝し、報復(しかえし)を奨励する賊の頭こそ・・・この後すぐ、(まみ)える事になる―――「グリフォン」上級幹部・・・

シュトゥルム=ドミチェリ=ナグゾスサール―――なのでした。

 

しかも、この運命的な対決は、避けられない処となり・・・

 

 

 

リ:あぁ〜ら、随分と張り切っちゃってるようだけど―――どうやらあなたが、こいつらのお山の大将みたいね。

 

ナ:ち・・・腰抜け共が―――

 

リ:・・・自分は偉そうにふんぞり返ってて、厄介事は部下に総て押し付ける―――

  どこも変わらないわよね・・・。

  それに、そう云った連中の下っ端は、厭な事を押し付けられるモノだから、私が剣を構える前に、逃げ出すんだものね・・・

  こんなのは、もう、勝負とは呼べないわよね。

 

ナ:なんだと〜〜? それは本当か・・・お前ら―――

賊:あ・あ・・・あの―――ナ、ナグゾスサール様・・・こ、これにはわけが〜〜

  あ、あの女―――とてつもなく、強い・・・ちゅぶりっ?!

 

ナ:この恥晒し共が!!

  この私が、勇者気取りのこの女を葬った後は、お前達の番だからな・・・覚悟をしておけ!!

 

リ:―――信じらんない・・・あなた、正気?

  この連中は、曲がりなりにもあなたの仲間なんでしょうに!

 

ナ:他人の貴様に、なんの関係がある・・・私の役に立てん者は、喩え仲間・部下だとて容赦はせん。

  それが、この私の流儀だ―――

 

リ:・・・聞くんじゃなかったわ―――あなたの、その思い上がった・・・そして、腐って捻じ曲がった根性、これから叩き直す!!

 

 

 

「仲間」や「同志」と云った概念を、自分達の「主君」だった人物から教わり、また、その国家で培ってきたリリアにとって、

ナグゾスサールの云い分は、とても享受出来るモノではありませんでした。

 

自分勝手な云い分・・・「利己主義」と云うモノは、自分さえよければ、他人はどうだっていい・・・そうした主張だっただけに、

この(かしら)(もと)で忠誠を誓わなければならない部下達の事を、喩え、今は敵同士であったとはしても、リリアは同情せずには居られませんでした。

 

それに、こう云った(たぐい)の組織は、頭さえ潰してしまえば、あとは瓦解する・・・

その事を知っていたリリアは、実に久方ぶりに、自分の持てる「武技」の総てを、解放したのです。

 

 

 

リ:まさか・・・再び解放する日が来るなんてね―――思わなかったわ・・・。

  今こそ受けなさい―――!

〜我が宿(しゅく)名に()いて 敵を誅滅せり〜――――=ムーン・スクレイパー=――

 

ナ:む・・・ぐぅおおっ?!

  こ―――こやつ・・・? 莫迦な!有り得ん!! こんな辺境で、これほどの「気」を発する者がいたとは・・・!!

 

 

 

リリアは―――リリア=クレシェント=メリアドールは、僅か数年前までは、戦場の前線を疾駆する、名のある将校の一人でした。

しかも、やはり当時、同じくして席巻した仲間の(なか)に、「雪」と「花」の「宿(しゅく)」を宿した将校がおり―――

三人並んで、「雪月花」の名将として持て囃されていたのです。

 

そう・・・リリアこそは、「月」の「宿(しゅく)」を宿した名将―――

それに、幾度となく強敵に挑んだ場数も()ることながら、味方であるパライソ軍中に()いても、一目(いちもく)置かれる程の立場でもあったのです。

 

そんな彼女だからこそ、「剣気」「覇気」も充分―――

()してや、自分が危険な目にも遭いもせず、部下にばかり処理をさせていた者に、(おく)れを取る道理がどこにあったでしょうか・・・

事実―――リリアの放った剣閃は、見事ナグゾスサールを捉え、

このまま・・・賊の(かしら)は、その剣閃の果てに、消え去るモノだ・・・と、思っていた―――

 

しかし、そこで気を抜いては・・・「残心」を怠ってはならなかったのです。

 

そうした―――リリアの一瞬の油断・・・そこを、ナグゾスサールは見逃しませんでした・・・。

 

 

 

ナ:ヌハハハハ―――! この私を倒すとはな・・・見事だ・・・。

  だが―――このまま終わるモノと思うな!

 

リ:(!)ナニ・・・しまっ―――

 

 

 

ナグゾスサールが死に逝く間際、云い知れない感覚をリリアは受けました・・・。

而してそれが、この手のタイプによくある「(のろい)」―――

 

そう・・・リリアは、ナグゾスサールが死に逝く間際に、彼からの「(のろい)」を貰ってしまったのです。

 

だとしたら・・・どんな「(のろい)」を―――?

 

そう思った次の瞬間、リリアの右眼に激痛が(はし)り―――その余りの痛さに、そこに(うずくま)ってしまうリリア・・・

そして、しばらくすると、その痛みは収まったのですが・・・またしばらくすると、次の波・・・今度は左眼が―――

 

このまま・・・自分は・・・目が見えなくなってしまうのか―――そんな心配をしたモノでしたが、その心配は、杞憂にすぎた事でした。

それと云うのも、次第に時間が経過して行くに従い、両眼を襲っていた激痛は収まり、

果たして目が見えるのか―――どうか、開けてみると・・・今までと同じ様に見えていたからなのです。

 

それでは、先程までの激痛は、なんだったのだろう・・・

もしかすると、アレこそが、ナグゾスサールの仕掛けた「(のろい)」だったのか・・・

彼が、「(のろい)」を発した時に見せた、どこか自信ありげな表情も、今にして思えば、あまり大したモノではなかった・・・

そうリリアは、多寡を括ったモノでしたが―――そもそも、それが間違いの(もと)でした。

 

それと云うのも・・・リリア本人には判らない―――

本人が、本人の姿を見る事が出来るのは、鏡に映った己の姿だけ・・・

 

()しくも、リリアが受けた「(のろい)」の正体を、初めに目にしてしまったのは、愛する夫のハミルトンだったのです。

 

そう・・・つまり―――彼が、賊の殲滅を終えた、妻を(ねぎら)う為に近寄った際に・・・

 

 

 

ハ:リリア、ご苦労さ―――・・・リリア?!その()は??! 

 

リ:・・・えっ? どうしたの、ハミル―――私の()がどうか?

 

 

 

その時・・・ハミルトンは見てしまったのです―――

愛する妻の()が、左は「(クリムゾン・レッド)」に―――右は、白目の部分が黒く染まり、虹彩は「真紅(ピジョン・ブラッド)」、瞳孔は「爬虫類特有」のモノに代わっていた・・・

所謂(いわゆる)、「魔族特有」のモノになってしまっていたのです。

 

つまりは、この時リリアが受けてしまった「(のろい)」の内容が、500年を隔てた現在のリリアの、「鬼眸(き が ん)」に通ずる処でもあったのです。

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと