「間違いない・・・」今、自分が対面している少女の言質で、この、少女の形をした者が、今回の自分の「標的」なのだ・・・
―――と、メイベルはようやく理解に至りました。
それにしても、妙だとは思っていたのです。
依頼人から、今回の件を依頼された時、「ミリヤ=アゲット=ロックフェラー」の、容姿を確認するモノは提示されず、
ただ口伝のみ・・・それも、何千年を生きている―――と、云うことから、相当な年で、老獪極まりないだろう・・・と、
自分なりに、勝手に想像に描いていただけだったのです。
それに・・・仕事仲間達に訊いてみても、「老獪なミリヤ像」は、誰一人として否定する者はおらず、
それが、ミリヤに関する、イメージ増幅の隔たりにもなっていたようです。
そこで、まだ更なる確信性を得ようと、自分が贔屓にしている情報屋や、ネットなどからも様々に検索を掛けてみたのですが・・・
何れも、結果としては曖昧なモノが多く、どれも実情に迫れたものではなかったのです。
加えて・・・期日の方も迫ってきている―――と、あれば、
ここはもう、直接確かめるしかない・・・と、思ったのですが―――
「まさか」・・・と、した事が、現実に起きてしまっていたのです。
そんなメイベルを尻目に、ミリヤは淡々と述べるのでした・・・。
ミ:―――そんなに、驚かなくてもいいわ・・・。
確かに、あなたが今夜訪問するまでは、1500年前が最後でしたけれど・・・それまでは頻繁にあったんですもの。
それにしても・・・誰なのかしらね―――この私を、亡き者にしようとした人・・・
そう、確かに・・・メイベルが今回、ミリヤを暗殺しようとするまでは、1500年前を境に、一度たりともなかったけれども、
「ロックフェラー家」の当主である、ミリヤの暗殺を目論んでいたのは、それまでには数限りなくあったのです。
そして、1500年後の現在―――また、こうして・・・自分の命を狙う為の刺客が、送り込まれてきた・・・
しかし、少女は怯えませんでした。
それどころか、久方ぶりの暗殺を目論んだ人物を特定するのに、眸を輝かせ始めたのです。
でも、メイベルも、依頼人との契約の関係上、その事は億尾にも出したつもりはなかったのに・・・
そのことは、この少女―――ミリヤにしてみれば、造作もなかった事だったのです。
それと云うのも・・・ミリヤは、メイベルと差向かう様にして、寝台の上に腰かけ、徐に―――・・・
ミ:―――「クライスラー」・・・
そう・・・昔、私が可愛がって、面倒を見てあげたあの餓鬼が・・・今にして、この私を煙たいと思うようになった―――と・・・
ウ・フ・フ・フ・・・フフ―――アーッハッハッハ!
可愛いわ・・・実に可愛いわ、ハロルド=デイビット=クライスラー! あなたの挑戦、受けて差し上げてよ!
「そんな莫迦な・・・」口の端にも出したことはない、況してや、その時の状況は、一方的にミリヤから捲し立て上げられたのみで、
メイベルは一言も発してはいなかったのです。
それに・・・事前に調べが付いていた―――と、云う感じでもなかった・・・
なのに、なぜこの少女は、自分の依頼人のことが、判ってしまったのだろう―――
しかも、奇妙極まりないことは、この後まだ更に続き―――・・・
ミ:それにしても・・・あなた―――そう、メイベル=ヴァイオレット=フォルゴーレと云うの・・・。
素敵なお名前ね。
それに、もう一つのあなたのお名前・・・「ウイッチ」―――中々のセンスをしているわね。
そう云われた途端、メイベルは云い知れ様のない悪寒を覚えました。
それもそのはず、まるで初対面の筈なのに、ミリヤは、自分の事を知っているかのように語り出し、剩、「業界」での「コード・ネーム」まで知られていた・・・
その不気味さに、思わずメイベルは、後退りをしていました。
この、「暗殺」と云う業界上、身の危険や死線を彷徨う事は、これまでにも幾度も経験してきましたが、
こんなにも云い知れ様のない、不気味さ、不安さ、を感じたのは初めてでした。
それを証拠に、冷汗に脂汗が入り混じったような、不快な汗が背中を伝い、身体もどこか小刻みに震える感覚を覚えていたのです。
そこには緊張―――それも、いつもは自分が標的に与えていたモノが、この時ばかりは逆の立場に追い込まれてしまった・・・
しかも相手は、見かけの上では、年端のいかない少女の姿をしていると云うのに―――・・・
すると―――
ミ:・・・あら、あなた―――この私の事を、幼く見てくれているようだけど、人生の経験は、あなたより遙かに多いわ。
それに、あなたもこの依頼を受けたからには、私の事を相当調べたのでしょう。
そしてそこには―――「ミリヤ=アゲット=ロックフェラーは、3000年余りを生き・・・」と、あったはず。
ええ、そうよ―――私は、今年で3000年以上を生きる、正真正銘のお婆ちゃん・・・
まあ・・・細かい数字の事は、判らなくなっちゃったけれど―――ね・・・。
事実だけを述べるとすると、ミリヤ=アゲット=ロックフェラーは、3618年を生きる人間でした・・・。
それを―――自身でも、凡その数値しか知らない・・・と、云うのは、自分の年齢に関する、細かい数値を知った処で、何程の事はないともしていたから。
それよりも、ミリヤにとって重要な事とは、「今を生きる」こと・・・
しかしそれは、「生への執着」・・・と、云った様なモノではありませんでした。
それはそれとして、理由の如何はどうであれ、折角自分を訪ねに来てくれた訪問客を、接待しないわけにはいかなかったミリヤは・・・
ミ:さて・・・それでは、何からお話しをしてあげようかしらね―――
あなたも、この私に会ってから今まで、随分な疑問がおありでしょうから・・・。
そうね・・・取り敢えず、あなたを怯えさせている、私の「異能」に関して、話して差し上げましょう・・・。
自分を害する為に来ているのに―――そんな者に対しても寛容であり、余裕を見せる態度に、メイベルはすっかりと毒気を抜かれていました。
余程器が大きいのか―――肝が太いのか・・・
それとも、ただ単に、退屈凌ぎに付き合わせようとしているのか・・・
何れにしても、主導権は完全にミリヤが握っている事だけは、メイベルには理解出来ていました。
それに・・・最初から疑問に思っていた点―――
なぜ、こちらで思っている事、考えている事などが、ミリヤには筒抜けなのか・・・
しかし、それこそが、ミリヤの持てる「異能」―――
第百十話;月詠
ミ:あなた・・・「月詠」ってご存知?
メ:「月詠」・・・確かそれは、「感応」と呼ばれる特殊能力の一種で、その内でも、相手の行動や思考を読み取り・・・
更には、自分の意のままに操る事が出来ると云う―――・・・
ミ:その通り。
そして私は、産まれながらにして、その異能を授かった―――
これが何を意味するか・・・お判り?
初期段階に措いての能力の解放とは云え、その「異能」は異彩を放っていました。
それに、ミリヤが生を受けた当時―――彼女の父親は、まるで我が事の様に喜んだモノだったのです。
ですが、それは―――・・・
自分の愛娘が、誰よりも恵まれた才能を―――と、云ったモノではなく、
自分の持つ野望・・・全宇宙の富を、自分一人の私物にしようとした・・・
それには、愛娘のこの「異能」は、非常に役に立ってくれるだろうと思っていたのです。
けれどそんなことは、未だ実年齢でも幼い時分のミリヤには、判ろうはずもありませんでした。
しかし―――不思議には感じていたようなのです・・・。
ある日突然―――隣家の住人が、押し込み強盗に入られ、全員が殺害されたり・・・
仲良しだった子も、その親も・・・原因不明の失踪をした挙句、他殺体で見つかったり―――など・・・
幼心でも、不可解極まりない出来事は、絶えずあったのです。
そしてある時―――父親が、酒に酔った勢いそのままに、総ての事を告白してしまった・・・
その時―――ミリヤの内で、「ナニか」が弾けたのです。
この男のお陰で・・・
こんな下らない理由で・・・
私の周囲りの人達は、不幸な目に遭わされてしまったのだ―――
そう思うと、「父親」と名乗る、目の前の男の事は当然―――自分に対しても、憎らしいと思うようになってきました・・・
そして、始まったのです・・・。
ミリヤの―――実の父親に対しての、或る意味での「報復」と、
自分の「異能」のお陰で、不利益を被ってしまった者達に対しての、罪への償いが・・・
そしてそれは―――3000年を経た現在でも、幼い面影を残している、もう一つの謎の核心に迫る事でもあったのです。
=続く=