ようやく、「惑星の意志」としての意見を、一つに纏められる段階にまで来た地球は、次の段階・・・
つまり、他の惑星・星系間との交流の為、準備や対応に追われていました。
第百十一話;友好通商条約
その第一段階として、交流等の「窓口」を、地球の衛星である「月」の裏側に開設した地球は、
交渉の代表として、ジョカリーヌを中心とする「交渉団」を編成し、これから地球と誼を結ぼうとしている者達を、待ち構えているのでした。
リ:はあ〜〜・・・いよいよかぁ・・・
一体どんな奴らが来るんだろうな。
市:友好的な人達ばかり―――だと、良いのですが・・・
ジ:そうとばかりとは限らないよ。
内には、利権を独占しようと狙っている連中も、少なくないからね。
だから・・・なるべく、私達が水際で食い止める―――
つまり、「月の裏側」の役割は、宇宙の「関所」だと思って貰っていい。
蓮:なるほど・・・その表現は、的確にして判り易くございますな。
イ:それで・・・どれだけの人達が、私達と交流を求めているのでしょうか。
ジ:うん・・・実はね、私達と、「友好な通商」を「目的」とした、交流を求めている者達は、殺到しているんだ。
見てご覧、これが今日一日で、私達が会わなければならない者達のリストだ。
ジョカリーヌから手渡された、一葉の用紙(A4大)には、これから自分達が会って、選定をしなければならない、各星域や星系の代表や、果ては組織立った団体・・・など、
拡大鏡で見なければならない程、小さく書かれた字体で、所狭しと敷き詰められた書類―――「リスト・ファイル」がありました。
その雑多性たるや、100以上・・・その事に、リリアは既に頭が痛くなり始めたモノでしたが、
何もジョカリーヌも、今回の事に関しては、リリアや蓮也・市子にイリス達四人を、直接交渉の席に宛がわせようとしたわけではなかったのです。
そう・・・云わば、リリア達は「見習い」―――「研修生」・・・
地球にいる人類とは、また違う・・・様々な感情を持った者達を、これから自分達二人を通して、「見て」「識って」貰おうとしていたのです。
・・・と、云う事は―――「正式な窓口」は、「二つ」・・・
それが、ジョカリーヌとデイドリヒ―――
これから、この二つの窓口を介して、地球と付き合おうとしている者達を、見定めなければならないのです。
それにしても、種々様々―――
最初、ジョカリーヌについていたリリアにイリスは、彼女の交渉術の巧さに、目を見張っているのでした。
ジ:―――なるほど、つまりあなた方は、私達と友好的に、物流などの取引を求めたい・・・と―――
それでは、私達「フロンティア」が定める「規定」は、ご存じの筈ですね。
これから付き合っていく者が、相応しいかどうか・・・それを見極める為、ジョカリーヌから提示された条件や質問は、1,000以上に余りました。
そしてそれを、数々の関門を、次々とクリアしていく、ジョカリーヌが担当した宙外からの訪問者・・・
それにしても―――こんな多くの質問を、後に続く多数に対しても、なさなければならないと思うと、リリアは卒倒しそうになるのですが・・・
それはそうと、ジョカリーヌが提示した、「フロンティアが定めた規定」とは、何だったのでしょうか。
その一部を抜粋してみると―――
『当局の交渉担当者が判断して、明らかに危険物であるとみなされる物質・・・「爆薬」「毒物」「劇薬」「麻薬」等や、
稀少で取引等が禁じられている「動物」「植物」「鉱物」等の、「売買」を目的とした「持ち込み」を、一切禁じるモノとする。』
『「特区」として認められ、「中立」に指定された宙域での、「武器」「弾薬」の、「密売買」及び、「テロル行為」に係わる、「犯罪者」の「密入国」の禁止・・・
及び、その「幇助」に関する行為の、全面禁止。
(尚、この記載事項に違反するようであれば、当局の倫理規定に基づき、結ばれた契約の「強制解除」並びに、
関わった人員の「強制退去」を、命じるモノである。)』
その「一部」だとしても、実に事細かに規制されている事に、果たして寄りつくものかどうか、疑わしいと感じていたリリアではありましたが―――
リ:うはあ〜〜―――「合格者」って、結構いるのな。
イ:でも、恐らくそれは、あの方が仰っている事が理解出来ているからでしょう。
それにしても・・・厳しいですね、今まで私達が、どれだけぬるま湯に浸かっていたかが判ります。
こんなにも、厳しいと思われる条件を、次々とクリアし―――次なる選定の場へと移される者達・・・
とは云え、当初、リリアが予想していた数よりは多かった為、話しの判る連中ばかりだ―――と、そう思っていた反面、
中には・・・
デ:もう少し「緩和」を―――と、云いたいところの様だが、これが最低のラインだ―――と、これほど云っても判って頂けないなら、
・・・帰って頂きましょう。
商:おいっ! どう云う事だこれは!! 話が違うじゃないか!!
デ:違いませんよ・・・少しも。
ただ―――あなた方の論点が、ズレているだけの話しです。
商:ええい・・・お前のような若造では話にならん! 責任者を呼び出せ!責任者を!!
デ:「責任者」・・・つまり、あなたの担当は、この私です―――ならば、この私の云っている事を、理解して頂かなければ・・・
―――おい、後が閊えている・・・さっさとこの分からず屋をつまみだせ。
商:あっ?! な―――なにをする・・・は、離せ〜! 離さんか、無礼者〜!!
取り扱っている商品が、先程の「規定」に准じていなかった為、「強制退去」を命ぜられた・・・「三角座通商船団」の代表。
それにしても、どうして彼が、「強制退去」を受けたのでしょうか。
事前に受けた、「商品・積み荷リスト」には、なんら問題はなかったと云うのに・・・
その疑問に、デイドリヒはこう答えるのでした。
デ:ある規則性に従って、この「リスト」を見て行くと―――同乗させてある「乗務員」の殆どが、「売春」目的の「商品」だ・・・。
だが、確かに、幾つかの物品は、リスト通りなのだろうが・・・。
それに、「字列変換」手口と云うのは、初歩でね―――どうやら「地球」を、新規の市場として開拓しようとしていたらしいが・・・お生憎さまだったようだな。
それに・・・先程の連中は、こちらが握っている「プラック・リスト」にも掲載済みでね・・・。
以前から、「禁術書目録の売買」等、黒い噂が後を絶たない連中だったわけさ。
幸い私も、面を拝めたのは今回が初めてでね・・・それを思えば、或る意味では僥倖―――だったかな。
なんとも、検査をしている者の目を惑わせ、違法の商売を企む者が、網にかかった・・・
ただ、そう云った連中を担当していたとはいえ、デイドリヒは彼らを「拘束」「拘留」はしませんでした。
それはどうしてか―――と、云うと、まだこの施設には、そう云った設備が完備してなかった・・・
喩え、「留置」しておく場が、確保されたとはしても、システムが対応しきれていなかったのです。
要は、それだけ「見切り発車」だった・・・
とは云え、初期段階での交流が出来たと云うのは、それだけでも進歩したと云えるのです。
こうして―――その総てが、順風満帆・・・とは云い難かったけれど、着実に、外宇宙交流の準備は整えられていくのでした。
=続く=