無限に広がり―――多岐に亘る広大なネットの海を、自在に渡り歩く者達がいました。

 

しかし中には、「軍関係」や「政府関係」のデータベース上・・・いわゆる、「進入禁止」の場所に無理矢理侵入し、「機密」や「重要」事項を(さら)って行く―――

電脳侵略(ハ ッ キ ン グ)」と云う、犯罪行為を犯す者達の事を、「電脳侵略者(ハ  ッ  カ  ー)」と、呼んだモノでした。

(元々こうした行為は、「進入不可能」な場所に、何らかの痕跡・・・「足跡」だけを残す―――と、云う、云わば「愉快犯」的な存在だったのですが、

それも「やり過ぎた」と、あれば・・・弁解の余地はなかったようです。)

 

そしてここに、稀代の「電脳侵略者(ハ  ッ  カ  ー)」と呼ばれた人物がいました。

 

その人物は、当時―――「電脳侵略(ハ ッ キ ン グ)」の(なか)では、「最高峰」とまで云われている、「ソレイユ」のマザー・コンピュータ―に「電脳侵略(ハ ッ キ ン グ)」を敢行し、

見事それを成し遂げた人物として、「電脳侵略(ハ ッ キ ン グ)」の世界では『神』にまで祭り上げられたほどの人物だったのです。

 

けれど・・・侵入をした場所が、(まず)かった・・・。

「足跡」を残し、侵入から逃走の経路まで、きちんと消した―――ハズ・・・だったのに、

住んでいた処を突き止められ、そこに、「ソレイユ」の所有者「ご本人」、ご登場・・・と、あっては―――

 

その日、ジゼル=ぺルラ=オーチャードにとっては、最悪の一日の始まりでした。

 

そしてそれは、自分が仕掛けておいた網にかかり、ここにこうして捕える事の出来たジィルガにしてみても、拍子抜けも同然の事だったのです。

 

それもそのはず・・・改めて、自分が捕えた者を見てみれば・・・

 

 

 

ジィ:何の冗談―――だったのかしらねぇ・・・

   あなたみたいな子が、今、私達の間で話題に上っている、「稀代の天才ハッカー・クリューチ」だったとは・・・

 

 

 

怯え・・・ただ震えるばかり・・・

そんな人物が、「侵略難度S級」に指定されている、ソレイユの攻性防壁を突破し、「足跡」だけを残した人物と、「同一人物」とは・・・

 

そんな、大胆な行為が出来ると云うのに、自分が捕まえてから、毒の一つでも()けば、まだ納得する事が出来たのに・・・

これでは、甚だ拍子抜けをしたモノだったのです。

 

でも・・・一つ状況が変わると、それが本当なのだと云う事が判ってきました。

 

ジィルガにしてみれば、「お灸を据える」くらいの意味で、自分が出っ張ってきた事でもありましたが、

ジゼルの性分を見て、恐らくは悪戯半分で犯したことなのだろう―――

それでも、これからはもう二度と、こうした行為に及ばないよう約束させる為に、「誓約書」を作成させようとしたのです。

 

けれど、その様式・・・地球では、未だ「紙媒体」が一般的であった為、「端末」で作成させる方法の方が、珍しかったのですが・・・

実は、この「端末入力」こそが、ジゼルの能力に深く関わっていたのです。

 

 

第百十六話;天才ハッカー

 

 

ジゼル=ぺルラ=オーチャードは、普通に、どこにでもいる女性の一人でした。

大人しく・・・内気で・・・どちらかと云えば、外交的ではない―――他人と話しをするにしても、同性は(もと)より、異性だと一層話さなくなってしまう・・・と、云うのは、

最早「いじめられっ子」体質としては、抜きん出ていたのではないでしょうか。

(つまり、日頃ヘレンから、「とばっちり」を受けてしまうのは、こうした性格が災いをしているのではないでしょうか。)

 

そんな彼女が、「情報端末」と云う、無二の存在と出会いを果たしてからは、彼女を巡る環境・運命共に、一変してきたのです。

 

あれは・・・ジゼルが476歳(地球年齢に換算して、約26歳)の誕生日の事、父親から与えられた一台の機械が、その後の彼女の運命を変えたのです。

 

(もと)より、ジゼルには、同性・異性共に、「友人」と呼べる間柄はいませんでした。

だから、父親が買い与えてくれた機械に、次第に依存していくのは、想像に(かた)くないことだったのです。

 

 

そして・・・ある日の出来事―――

いつもの様に、ジゼルが、自前の情報端末を使って、あらゆる場所にアクセスをしていた時・・・

偶々(たまたま)、アドレスを一字間違えてしまった処、ある惑星の政府機関―――それも、機密事項を扱う部署のコンピュータに、アクセス出来てしまった・・・

 

するとそこで―――

普段の彼女だったのならば、慌てふためくモノだったのに・・・

その時だけは、彼女は、(おおよ)そ彼女らしからぬ行動・・・大胆不敵な行為―――

当時から使っていた、「H.N(ハンドル・ネーム)」―――『クリューチ()』とだけ残し、総ての痕跡を消し去ってしまった・・・

 

こうしてみると、ジゼルの及んだ行為とは、なんら問題性がないと思われるのですが・・・

実は、ジゼルから「電脳侵略(ハ ッ キ ン グ)」を受けた同じ時期に、その惑星の「情報部」は、「ソフト」や「ハード」を最新式のモノに換装(かんそう)し終えたばかり・・・

なのに―――「電脳侵略(ハ ッ キ ン グ)」をされてしまった事実が明るみになってしまったお陰もあり、セキュリティの面を根本から見直さなくてはならなくなった・・・

 

そしてその後―――その惑星だけに留まらず、至る処にて、正体不明の「クリューチ」の被害が続出し始めてきたのです。

(なか)には、このどさくさに紛れて、大量の「個人情報」が漏洩・流出すると云う、大事件にまで発展したそうですが・・・当の「クリューチ」であるジゼルの証言によれば、「それをやったのは私ではありません。」だとか・・・

つまりは「真相は闇の中」―――依然として、この事件の解明は、なされていないのです。)

 

そうした事態を重く見た「フロンティア」は、ある幹部を通してジィルガに依頼―――

また、ジィルガも、姉からの要請により、自分の(ふね)を「囮」に使う事を思い付き、ここにこうして現在、「稀代の天才ハッカー・クリューチ」は、捕縛されてしまっていたのです。

 

そして―――これ以後、こうした悪さを二度としない為の「誓約書」を作成させる為、用意していた「空間操作型ラップトップ」を、ジゼルの目の前に差し出した処・・・

 

 

 

ジィ:さぁ・・・これに、あなたの名前と、「H.N(ハンドル・ネーム)」を署名し・・・て―――

 

 

 

「これは・・・」

 

情報端末を目の前にし、また、触れてしまった事で、途端にジゼルの表情が、明らかに先ほどとは一変してしまいました。

 

先程までは・・・「悪さをして、親に叱られてしまった子供」―――「道端に棄てられている小動物」―――と、云った表現が、お似合いだった・・・そんな内気な女性が、

今はもう、目つき鋭く、周囲(ま わ)りには眼もくれるでもない―――・・・

 

それに・・・

 

 

 

ジゼ:―――これでよろしいでしょうか。

 

 

 

その言葉遣い一つを取ってみても、先程までの「オドオド」したモノではなく、「ツン」とした態度―――

 

しかし、たったこれだけの変化を見ただけで、ジゼルの事を「二重人格者(ダブル・スタンダード)」である事を見ぬいたジィルガは・・・

 

それに、眼を(みは)ったのは、そちらの方ではなく、寧ろ―――・・・

その事を確かめる為に、試してみる事にしたのです。

 

 

 

ジィ:ねえ・・・ちょっと―――あなた、一つ頼みがあるのだけど・・・

ジゼ:―――なんでしょう。

 

 

 

「囮」とは云え、「侵略難度S級」の、自分の(ふね)「ソレイユ」に侵入をしてきた彼女・・・

ならば―――同じく「侵略難度S級」に指定されてある、「第七銀河連邦軍・統合幕僚室補佐」の、

ある男のパーソナル・ファイルが保管されてある、コンピュータへのアクセス方法を云ってみた処・・・

 

 

 

ジゼ:―――それだけで十分です、あとは自分で・・・

   それで、この人物の何が―――・・・

 

 

 

アクセスを開始して、モノの数秒とかからないうちに、その人物のパーソナル・ファイルを掲出させた・・・

―――どころか、あとを留まる処を知らず、その人物・・・ザガン=ボルダー=マルコスが、同志とクーデターを決行する計画書をも弾き出してきたのです。

 

その事を見るなり、ジィルガは或る感情に到達しました。

 

「このままでは惜しい・・・」

 

「このままで・・・」つまり、ジゼルが犯したことへの罪科を問えば、彼女は自分を憎み、二度とこの優れた能力は、自分の手には入らなくなるだろう―――

それよりも、今ここで温情を与えておいてやれば・・・或いは、現在自分が秘密裏に「立ち上げ」を推進させている、「あの計画」に協力をしてくれるかもしれない・・・

 

そこでジィルガは―――・・・

 

 

 

ジィ:ねえ・・・ちょっと気が変わっちゃったんだけど―――お話しだけでも聞いてみない?

ジゼ:―――ええ・・・聞くだけならば・・・構いませんが。

 

 

 

広大な宇宙・・・故に、蔓延(は び こ)る犯罪―――

けれどしかし、それを取り締まる「警察機構」内部は腐敗し、本来の、「弱き者を護る」と云う、職責を忘れてしまったかのようだ・・・

だからここは、自分が汚名を被る事になっても構わないから、

誰にも知られない・・・「秘密の警察機構」―――「ディーヴァ」を立ち上げ、

陰から、そうした弱者達を護って行きたい・・・と云う(むね)を、そこでジゼルに打ち明けてみたのです。

 

そして、この「計画」を打ち明けられたジゼルも―――「協力をするだけならば、自分の罪過も少しは軽くなるだろう」くらいにしか思わず、

「それならば・・・」と、云う事で、ほんの軽い気持ちで返事をしてしまったのです。

 

 

けれどそれは―――今となっては、「もう少し様子を見てからでも遅くはなかった・・・」

現在のジゼルが、もし過去に戻れるとしたなら、この時の自分に、充分に警告を促せた事でしょう・・・。

 

 

しかし、現実として、シゼセルからの快諾を受けたジィルガは、ジゼルの気が変わらない内に、

彼女より先んじて「ディーヴァ」の一員となっている、或る惑星に住む富豪―――ロックフェラー家に招待したのです。

 

そしてそれは・・・ジゼルにとって、引き戻す事の出来ない「片道切符」であることを、

彼女はまだ知らずにいたのでした―――

 

 

 

 

=続く=

 

 

 

 

あと