現在から1376年前―――A-80宙域に、その本拠を置くとされる、犯罪組織「バジリスク」を一斉検挙する為、
マリアを含める「強制捜査隊」は、或る惑星・・・「チオタ」に降り立ちました。
しかし―――そこにあったのは・・・
マ:(こ―――これはどう云うこと・・・
私達以外に、部隊は派遣されていないはず・・・なのに、どうして「バジリスク」の構成員たちが・・・)
マリアが、目を疑うのも無理はありませんでした。
それと云うのも、今回の「強制捜査」は、当時マリアが所属していた部署でさえ、通達されたのは数時間前・・・
なのに―――どこか他の部署が、自分達の手柄とする為、自分達より先に動いたのではないか・・・と、そう思ったのです。
しかしそれでは、重大なる「越権行為」―――権利の侵害とも云えたのです。
ですが・・・そのマリアの見解は、すぐに間違いであることが判明したのです。
なぜならば―――ここまでの事をしでかした、「張本人」がいたのですから・・・
マ:あなた・・・あなた―――ですね?
彼らをこんな風にしたのは・・・
他にも無事な構成員がいないか、部下に調べさせる為、周辺を捜索していた処・・・
自分達が降下した地点より、1kmも離れていない場所に、佇む何者かの存在を確認したと云う・・・
この存在が、チオタを根城に構えていると云う、バジリスクを制圧した何者かを知っているのではないか―――と、思い、近付いてみた処・・・
やはり、この存在こそが、制圧をした「張本人」なのだ・・・と、マリアは思うしかありませんでした。
それと云うのも、その存在の両の拳には、バジリスクの構成員のモノと見られる、「血」が付着していたのですから・・・。
それに・・・自分の近くに、マリアが近付いたのを、感じたのか―――
その存在は・・・
謎:あ~あ―――つぅ~まんない・・・
だって―――こいつら・・・すぐに壊れちゃうんだもんさぁ~。
あんたも・・・そう思うだろう―――?
なんと云う・・・強烈な気中り―――
この謎の人物は、バジリスクの構成員達を相手にしていても、その興奮冷めやらぬ―――と、云った感じで、
今度は、「強制捜査隊」の内では、最も腕が達つマリアを、次の「標的」として見定めたのです。
それにしても、蒼褪めた肌―――鮮血を思わせる、真紅の眸・・・
甘ったるい声色をさせながらも、血を―――闘争を―――求めて已まない、その獰猛性・・・
そしてこの時、マリアは瞬時にして理解しました。
この者こそは―――・・・
謎:どこ余所見をしてるんだい―――! 感心しないねぇ・・・お仕置きと行こうか!!
――=キャノン・スパイク=――
マ:うっ―――しまっ・・・!
マリアが、頭の中を整理していた時、その謎の人物は有無を云わさず、攻撃を仕掛けてきたのでした。
それにしても、なんと云う迅さ―――隊の内では、一番の敏捷性を誇るマリアでしたが、
その彼女でさえも、驚愕する迅さに・・・気が付けば、すぐ目の前まで謎の人物は迫り、マリアに、防御の暇さえ与えず、脚で蹴り上げていたのです。
しかし、マリアもいち早く反応をし、なんとか「決定打」は避けられたようなのですが・・・
思えば、これが、マリア生涯に措ける、たった一度の敗北の布石となってしまっていたのです。
つまりは・・・その時の、マリアの反応を見ていた謎の人物が―――
謎:ふぅ~ん・・・フフフ―――おやおや、今の私の攻撃を、躱す事が出来たなんて・・・
どうやら、ここにいる甘ちゃん連中よりか、少しばかり骨があるようだ。
それじゃあ・・・ほんの少しばかり、レベルを上げてみるとしようか―――ねぇ・・・
存外に、好い反応を見せた相手に、喜びを隠す事が出来ない、謎の強敵―――
その、口の端に寄る皺は、闘争の内に悦びを見出したる者にのみ、出せる事が出来るモノである事を、マリアは理解していました。
斯く云う、マリア自身も、「そう」なのですから―――・・・
それに、マリアには「猟犬」としての沽券もあった・・・
「獣」を狩る「獣」―――・・・
「主人」の云う事をよく聞き分け、命令された事を忠実にこなす「狗」―――・・・
しかし、当時・・・いえ、以前から警察上層部のやり方に、疑問を抱き始めていた為、
度々そうした「意見」を申し立てていたマリアは、次第に上層部連中からは、「危険な思想を持つ者」として見られ、
出世も、同期の者達よりかは、大幅に立ち遅れてしまっていたのです。
(しかも、上層部のそうした考え方は、マリアが優秀に過ぎるから、敢えて「出る釘を打っておいた」と、云う、考え方に収まるのではないだろうか。
それに、マリアの様に、優れた警官ばかりが出世をしてしまっては、何れは、自分達の立場が危うくなるとも、考えられたからではないだろうか。)
しかし―――そんなマリアを・・・
「獣を狩る獣」を、さらに上回る「獣」が―――隠していた牙を剥いた瞬間・・・
マ:う゛っ・・・ごおっ?!―――はあ゛あ゛・・・っ!!
マリアですら、捉えきれる事の出来なかった、謎の強敵の動き・・・
不意に、自分の「人中」の一つ、「鳩尾」の辺りに、衝撃が奔ったかと思われた―――次の瞬間!
先程より、まだ更に強い衝撃が、マリアの身体を貫き・・・
謎:はあああ・・・――=真・昇龍拳=――
血反吐を吐きながら・・・身体は宙に舞い、やがて地に沈んだ時―――
マリアは、思い知らされました・・・「敗北」と云う、屈辱の味を・・・
しかも、更には―――
謎:うぅ~ん、ちょーよゆーっチ♪
てか―――ありゃりゃ・・・この子はちょいと出来ると思ったんだけどね~。
私が、ちょいと本気を出したらコレかい・・・
折角、愉しめると思ってたのに~・・・けど、ま、仕方ないっか♪
自分は、固より本気―――だったのに・・・相手はまだ、余裕すら見せていた・・・
その事に、マリアは既に、立ち上がる気力さえ失くしてしまっていたのです。
そして―――薄れゆく意識の内で、自分が相手としていた、「謎の強敵」の正体が、判明してきたのです。
それは、「もう一人」―――「謎の強敵」と、同じくして、この惑星を訪れていた、この少女の言によって・・・
少:ちょっと、もうそろそろ帰るわよ―――って・・・あんた、また何をやらかしたの・・・
謎:ありゃ、お前サマ~今までどこに行ってたんだよ。
少:関係ないでしょ―――
それにしても、派手にやってくれちゃったわね・・・。
どうするの、彼らを強制捜査する為に、「宇宙警察機構」が、この惑星に来る・・・って、話しよ。
その彼らが来る前に―――・・・
謎:それ~って、ひょっとしなくても、この子の事?
少:(~~・・・。)
あんたねぇ・・・相手をよく見て、闘争を仕掛けなさいよ!
謎:え゛~~でもさぁ―――
少:「でも」ぢゃないの゛!
全く・・・警察機関に喧嘩を売って、一番困るのは「あの方」なのよ?!
判ってるのっ―――「公爵」!!
公:あ゛~~はいはい、判りました・・・(顔が近い、顔が・・・)
反省してまーす・・・「焔帝」サマ。
第百二十七話;その者の名は、「公爵」
マリアが、薄れゆく意識の内で、聞き取る事が出来た「二つの存在」・・・
それこそが、自分を負かした「公爵」と、「焔帝」と云う存在でした。
しかし―――すると・・・その時の状況説明をするに至り、意外・・・と、云うか、至極当然の反応を、リリア達は示したのです。
リ:え゛・・・「公爵」―――って・・・間違わなくても、あの人の事だよなぁ~・・・
イ:いや―――でも・・・あの方しか該当する人は、思い当たりませんし・・・
市:それにしても・・・どうしてあの人が―――・・・
ジ:(ふ・・・不思議だ―――なぜだか、その時にその場にいないのに、状況が手に取るように判ってくるようだよ・・・)
マ:はい? なにが―――です?
ジ:申し訳ない・・・マリアさん、ここは、関係者として、私がお詫びを申し上げよう・・・。
マ:は? ど・・・どうして―――それに・・・あなたが「関係者」??
わ、私には、さっぱり―――なんのことやら・・・
ジ:ああ・・・「関係者」―――そう、「関係者」なんですよ・・・
実は、あなたが遭遇してしまった「公爵」とは・・・
マリアから、過去の経緯を知らされたジョカリーヌは、知っている者の及んだ行為により、自身も関係がなくはないと思い、
過去にマリアが被ってしまった「事故」について詫びると共に、マリアが遭遇した「謎の強敵」の真相について、公表をするつもりでいたのです。
しかも―――この事態は、これだけで収束する気配は見せず・・・
それと云うのも、「例の存在」が、様々な事象が重なり合い、この惑星・・・「オンドゥ」を目指している―――と、したら・・・?
更なる波乱を含み、事態は次の展開へ―――・・・
=続く=