過去の因縁が炸裂する中―――またも反射的に、マリアからダウンを奪ったエルム・・・
そのお陰で、マリアは周囲から云い囃されたモノの、自分がまだまだ未熟であることを痛感し、
後事を副署長のクラウドマンに託すと、自身は大人しく13分署に戻ったのです。
その時の、マリアの瞳に映っていた、悔しさと云うべきか・・・情けなさと云うべきか・・・
そんな複雑な表情を読み取ったヱリヤは、「まさか、あの時の・・・」と、直感的に思ったのです。
現在から遡る事1376年前当時―――ガラティアとジィルガの計らいもあって、「宇宙武者修行の旅」に出ていたヱリヤとエルムは、
或る時、A−80宙域に立ち寄った事がありました。
そしてそこで、周辺宙域を荒らし回っている「賊」に出くわし、退治した―――
けれどそれは、自然な成り行きだったのです。
その直後、彼ら・・・「バジリスク」を、一斉検挙する為、彼らの根城である「惑星チオタ」に降り立った、マリアが所属する「強制捜査隊」は、
運悪くエルムと遭遇し、彼女と拳を交らせ・・・そして、敗れた―――・・・
闘えば、必ず勝てていただけに、この時の敗北は、マリアにとっては余程こたえたモノと見え、
マリアの先輩である、バルディア=ヤーデ=ロスチャイルドに相談を持ちかけた処、
或る人物―――「マエストロ」に、会ってみないか・・・と、誘われたのです。
そして、云われるがままに会ってみると、いきなり「前置き」も「前フリ」もなく、「ディーヴァに入らないか」・・・と、誘われてしまったのです。
こうした強引な勧誘の仕方に、当初マリアは躊躇ったモノでしたが・・・
「バジリスク」の経緯の件や、当時のマリアに因んだ人物関係を説明されるに至り、
彼女も一定の理解を示した上で、「ディーヴァ参入の契約書」にサインをしてしまったのです。
その後の顛末は、ご存知の通り―――・・・
何も怖いモノが無くなったマリアは、バジリスクの件の報告書を書く様、「本庁」に呼び出された時、
偶々マリアの前を通りかかった、上層部の一人・・・当時の「総監」を、今までの怨みに辛身を加味させて、力任せに殴りつけたのです。
そして、その後の「査問」では、弁解などを一切せず、すぐにその場で「百万年の懲役刑」を云い渡され、
その当時、試験的に運営する予定だった「監獄惑星オンドゥ」の総責任者・・・「獄長」に就任―――
しかし、周辺宙域への体裁もあると云う事で、取り敢えずは、オンドゥに「13分署」を急設し、
マリアを「署長」に据えることで、「隠れ蓑」にしようとしていたのです。
しかし・・・それにしても―――こうした、度重なる事象は、果たして「偶然の賜物」なのでしょうか・・・
いえ、こうも、一人の人物に対して、都合のいい「偶然」は、最早「偶然」とは呼べない・・・
総ては、そうなるように仕組まれた―――「必然」と云う罠・・・
けれどマリアは、どちらかと云えば、「そちら」の方がいいとさえも思っていたのです。
これでもう・・・上の顔色を伺わなくてもいい―――媚びなくてもいい―――
それだけでも、多少なりとも「まし」だと思っていたのです。
閑話休題―――
「GPL」の王者から後れて会場入りを果たしたエルムは、急遽、対戦前の会見を行うこととし、
既に準備運動をしていた、「GPL王者」ドーラ=クジャナ=エイブラムスを呼びつけたのです。
しかし・・・こう云った行為が、対戦相手から、よろしく映ろうはずもなく―――会見場も、やや、殺気立ってきたモノだったのです。
第百二十九話;白熱の会見
記:え・え・・・ええ〜と、そ・それでは〜〜―――りょ・両者、公正な試合を行う事を誓う、宣誓の握手を〜〜・・・
エ:フフ〜ン・・・ま―――お互い、頑張ろうじゃない♪
ド:―――・・・。
エ:なにをしてるんだい・・・早くおしよ。
ド:「UFP」のエルム・・・噂には聞いていたけど、失礼この上ない人だったとはね・・・幻滅したわ。
エ:ふぅ〜ん・・・それ、私を挑発してんだ―――可愛いったらw
ド:それが失礼だと云うのです!
それに聞けば、後から「入星」した私が、先に会場入りを果たすなんて・・・
だとしたらあなたは、今の今まで何をしていたと云うのですか!
エ:そ〜んなの・・・私の勝手―――だろ・・・何をしてようが、あんたには関係ない事じゃないか・・・。
それよりも―――正々堂々と闘る宣誓の握手だ・・・さっさとしな。
この、違う二つの格闘団体の成り立ちは、実は「UFP」の方が先でした。
そもそも、「UFP」と云う団体は、自らの趣味が高じて、エルム自身が設立を思い立ったモノだったのです。
云わば―――エルムこそが、近年における、「宇宙格闘団体」の、「生みの親」にして「祖」・・・
そして、そんなエルムに触発され、外宇宙でも「宇宙格闘」の熱は、益々ヒート・アップしていき、
ドーラが所属する「GPL」も、そうした団体の一つでもあったのです。
だから、時の「GPL王者」のドーラからしてみれば、エルムの存在とは、「神」にも近かった・・・
はず―――だったのですが・・・
これまでの無礼・失礼極まりない行為に、終にドーラの、格闘家としての魂に熱が入り・・・
エルムが差し伸べていた手を―――弾いてしまったのです・・・。
(参考までに・・・この時、ドーラが「無礼・失礼極まりない行為」だと感じていたのは、
それまでエルムの事を、尊敬に値する人物だと思っていたのに、先にこの惑星に来ていたエルムが、会場入りもせずに何をしていたか・・・
しかも、その事は、この会見で総て明らかとなったのです。
厳粛な場であるのに・・・口元には、「食べかす」が・・・)
しかし、そう―――それは最早、ドーラからの「宣戦布告」に、他なりませんでした。
けれどエルムは、いかにも「闘争嗜好者」であるのが判るように、口の端を釣り上げ、「にぃんまり」と、笑っていたのです。
そして―――・・・
エ:ふぅ〜ん・・・フフフ―――・・・
いいねえ〜♪ 実に好いよ―――あんた・・・やっぱ、そうでなくちゃねぇ〜〜♪
少しだけど気が変わった・・・さっきまでは、あんたに華を持たせてあげようと思っていたけど・・・そいつはロハだ。
ド:な・・・にぃっ?! あなた―――私との試合で、「八百長」をしようとしていたと云うの??
ゆ・・・赦せない―――・・・!!
なんとも驚いた事に、エルムはその場で、こうした諍いがなかった場合、対戦相手であるドーラに、わざと負けてあげる事を公言してきたのです。
しかし、それこそは―――・・・ドーラも云っていたように、「八百長」・・・
観客の皆は、自分達の「正々堂々とした試合」を、観に来てくれていると云うのに・・・
それを「わざと」―――?
その言葉だけで充分・・・「プロレス界」の内訳では、「片翼」を担うドーラは、憤りの余りに席を蹴って立ち、そのまま会見場を後にしたのです。
その様子を、呆気に取られて見ていたリリア達は―――・・・
リ:な・・・なんか―――すんげーことになっちまったなぁ・・・
イ:し・・・しかし―――エルム様も、どうして配慮のない一言を・・・
ヱ:あら、私は別に、そうは思わないわ。
蓮:なぜ・・・に、ございまするか―――
本来ならば、闘う場所は、試合会場―――「リング」の上でのみ・・・
それを、この会見場で、一触即発の事態にまでなっていた事に、リリア達は少々興奮気味になっていたのです。
けれど、そんな彼女達とは違い、ヱリヤだけは冷静そのモノでした。
なぜなら・・・ヱリヤは、エルムとは永い付き合いで、お互いを「親友同士」以上に感じていた・・・
しかも、そうした関係上、「プロレス界」の内部構造などに、詳しくもあったのです。
だから、リリア達に説明をしてあげたのです。
プロレス界における、二つの重要な役割について―――・・・
ヱ:シュターデンは、元々は「ベビー・フェイス」だったけれど、今では年季も入った事だし、「ヒール」しかやらなくなってきているわ。
それに、あの子・・・ドーラと云ったかしら、あの子については、純粋な「ベビー・フェイス」よね。
リ:ああ〜ん!もう!! そんな専門用語並べられても、私には何一つ判らないって!!
ヱ:「ベビー・フェイス」とは、「善玉」・・・クリーン・ファイトで観客を魅了する者の事―――
それには、一点の曇りもあってはならない―――「反則行為」だなんて、もってのほかよ。
けれど、「ヒール」は「悪玉」・・・反則ギリギリや、反則行為を平気で犯す者の事―――
もちろん、凶器を使った攻撃なんて、彼らにしてみれば至極当たり前の事なのよ。
市:その事は判りましたが・・・では、ならばなぜ、エルム様が「悪玉」などと―――・・・
ヱ:その前に一つだけ―――「プロレス」と云うのはね、「エンターティナー要素」が、とても高いの。
だから先程、シュターデンが云っていた、「八百長」・・・つまり、仕組まれた試合内容で、観客を魅了させる―――
これは、一種の「ショー・ビジネス」と云えるわよね。
けれど・・・この事は、絶対に「密」で、なければならない―――
でも、シュターデンは、敢えてそうしなかった・・・
どうしてだと思う?
リ:ん〜・・・これから、あの人との―――試合が〜・・・面白くなるから!
ヱ:少しは判ってきたようね。
そう、シュターデンは、彼女を試したのよ。
シュターデンが、これからどのくらいの割合で、「本気」の闘争に望むのか―――・・・
これは、私も少し愉しみになってきたわ。
そのヱリヤの言葉は、ここ最近のエルムが、気紛れである事を物語っていました。
それに、現在のヱリヤ達の様に、「純粋」―――他に、何かの小細工を施さなくても強い者にとって、
それが況してや、相手を取って「対戦」する、「格闘技」等の分野に措いては、最早「そうした者」の、「匙加減」一つ・・・
それに、エルムがドーラを試したことにより、試合の難度が確実に上がった・・・
これを、「愉しめない」など、決してあり得はしない・・・
けれど、所詮ヱリヤも、エルム本人ではない為、結局の処は、エルムがどこまで「本気」なのかは知れず、
しかし―――そこも云ってみれば、一つの「愉しみ」ではあったようです。
でも、実際は―――・・・
この時点に措いても、エルムが蟠っていた事柄は、たった一つのみ・・・
この惑星の宇宙港にて、自分に攻撃を仕掛けてきた者の正体―――
確かに、この時点までのエルムにとって、先程の様な因縁めいた事柄は、心当たりがあり過ぎて、どれのことかは判り兼ねたモノでした。
が―――・・・
ヱリヤが、マリアの複雑な表情を見て、直感したのと同じ様に、徐々にエルムの方でも、心当たりの件数が絞り込まれてきたのです。
そして―――行き着いた果て・・・
「そうだ・・・あの時の・・・あの子だ―――」
今現在、エルムの左手の痺れが引かないのは、ドーラに握手を拒まれた時、弾かれた所為ではない・・・
それよりほんの少し前に、マリアから受けた拳の威力が、そうさせていたのだとしたら―――・・・
「それにしても、よく育ってくれたモノね・・・」
「だとしたら、この上は、この私直々に、挨拶に伺わなくては―――・・・」
「公爵」は―――「純然たる闘争の系譜」を、その身体に流す者は、内心悦んでいました。
なにしろ、1370年前までは、未だ熟れなかった果実だったのに―――現在では、熟れ過ぎるほどに熟れて来ている・・・
自分の咽喉の渇きを、潤してくれそうなまでに―――・・・
=続く=