北方からの脅威に晒される―――そんな未曾有の事態に、リリアは憂いました。
このままでは自分の国はもとより、隣接している友好的な国家までもが危ない―――
だからこの国の統治者である「大皇」に、一刻も早く国に帰してくれるよう頼み込むのですが・・・
けれど彼方からは、無情なまでの判断が・・・どうやらリリアは、これから大皇と、何やら話しあわなければならない事があるらしく、それが済まない内には戻れない―――と、云うのです。
そのことに、所詮は他所の国の事だから・・・と、思い始めたリリアではあったのですが、そこで大皇の―――ジョカリーヌの影響力の大きさを、垣間見ることとなるのです。
そのことで喚ばれた人物は・・・たったの二人でした。
しかも一人は少女―――そしてもう一人は・・・
リ:―――あれ? マキさんと同じような人だ・・・
?:はあ? うちんとこのマキちゃん知ってるってのは―――どゆことなんだろね。
ジ:車騎将軍・エルム―――その人は、今、君の娘さんが担当をしている地域の人だ・・・。
エ:へぇ〜〜―――あ、そゆことぉ〜〜! だからバルちゃんもいるってわけなのね〜。
ラ:公爵様・・・いい加減、他人前で「ちゃん」付けだけはやめといてください〜って・・・あれだけ・・・
エ:はンッ―――あんたの事をどう呼ぼうが、私にゃ関係ないね〜
フフ〜ン♪ こーんちは♪ あなたのお名前は―――?
「いきなり・・・で、なんですけど―――随分と無警戒・・・つか、人懐っこい人もいたもんだよな・・・」
その時、初対面のリリアと仲良くなろうと近付いてきたのは、あの侯爵マキと同属であると見られる人物でした。
あの人と同じ様に―――真紅の眸を持ち・・・
あの人と同じ様に―――青白い肌を持つ・・・
それに、無遠慮で―――いかに自分が人畜無害なのかを、全面的にアピールしてくる・・・
けれどその人は、今回大皇が切った手札の一枚である為か―――・・・
?:シュターデン・・・いい加減にしておきなさいよ。
ジョカリーヌ様も呆れてるじゃないの―――
エ:あ! そ〜だった・・・忘れちゃってた―――テヘヘ・・・ゴメンね?ちょいと用があるからさ・・・
今まで・・・そのまま置いておいたら、陶製の人形で通じるような美少女の口が開かれた―――と、そう思った時には、
どうやらこの二人は同僚のようで、殊の外大皇が大切にしている―――「車騎」と「驃騎」の両将軍である事が、のちのち判ったのです。
それにしても不釣り合い―――先程の無遠慮な人が、あの侯爵マキと同族の人で幾分か年上のように見られるけれど・・・
そんな人に同等の口を利く、この美少女は何者―――?
いやしかし、こんな幼い子までもが一軍を与る「将軍」―――だ、なんて・・・
自分が知る常識では有り得ない事が、なお一層リリアの不安を掻き立てていたのです。
そんな・・・リリアが呆れ返っている内にも、この二人には大皇からの内示があり―――・・・
ジ:ヤレヤレ―――忘れちゃってた・・・か、いい気なもんだよね、エルム。
エ:あ・・・っははは―――気にされちゃって・・・マスぅ?
ジ:まあね―――それより、お前たち二人に至急行って貰いたいところがある。
云われなくても・・・判っているね。
?:勿論ですとも・・・南方にある大陸―――「エクステナー大陸」に赴き、そこにある「オデッセイア王国」と「サライ王国」の脅威となっている「プロメテウス」を撃破すること・・・でしょう。
ジ:いや―――驃騎将軍・ヱリヤ、今回はそこまでする必要はない・・・と、私は考えている。
ただ、警告を与えるだけていい・・・それにお前達には―――
エ:云われなくとも判ってますよ・・・こいつはお返ししときます―――
リ:あ・・・っ? それは―――??
ヱ:「車騎将軍の印綬」・・・つまり、平たく云ってしまうと―――この国にある将軍の位でも、最高位に位置するモノよ・・・
エ:そゆお前サマだって、「驃騎将軍」のを持ってるじゃんかぁ〜
ヱ:それでは・・・一旦返納いたしますので、宜しく管理の方―――お願いいたしますね。
リリアは―――ただ驚いていました・・・。
第一、その二人が就いていた官職は、この国の武将ならば生涯に一度はなりたいと願い、また憧れていた官職だったのですから・・・
それであるにも拘らず、この二人は大皇からの命を受諾すると、別段何の惜し気もなしに大皇に返上したのです。
それは一体どうしてなのだ―――と、改めて訊いてみると・・・
ヱ:どうして―――も、なにも・・・そんな御大層なモノを着けてたら、前線には出られないでしょう。
いいとこ―――砦の番をやらされるのがオチよ・・・厭よ、そんな退屈なこと・・・私は。
驚くべき事は―――未だ年端のいかない子供が、事もあろうに戦場の前線に出たがっているのだと云う・・・
しかも、彼女のその一言一句は、別段誰から云わされている風でもなく、紛れもなくその少女の言葉で紡いでいた・・・
それを見てリリアは、この国の「人」の層の厚さを思い知るのです。
それからというものは―――・・・大皇からのお誘いもあると云う事で、一緒に食事を摂るリリア・・・
けれど、その表情はどこか暗く沈み・・・折角の御馳走も、何か味気もないモノのように感じてしまっていたのです。
そんな様子を察したのか―――・・・
ジ:・・・どうしたの―――全く進んでいないみたいだけど・・・
リ:・・・―――
ジ:ねえ、リリア―――
リ:・・・こんなこと―――してる場合じゃない。
私がここで、こんな事をしている間にも―――プロメテウスの奴らは・・・
ジ:そこはもう君の心配する処ではない―――落ち着いてご覧・・・
リ:これが落ち着いて―――
ジ:いいから・・・まあ、これも何かの機会だから、君に話しておこうと思う―――
膳の上を見れば、季節の野菜や各地の名産畜肉などが、これまた豪華に彩られた器に盛られて、主客の口に収まるのを待ちかねていました。
けれども・・・招かれた客分であるはずのリリアは、どこか気も漫ろで料理に手をつける素振りが全く見られなかったのです。
そこでジョカリーヌが、どうして手をつけないのか―――と、質すと、やはりリリアは、事前に知ることとなった重要な事項を気にしているモノと見え、
一度は自分に言い聞かせた事に反発でもするかのように、その時口にしてしまったのです。
するとジョカリーヌは・・・ここでようやく、リリアを引き留めようとした本当の理由を語ることにしたのです。
第十三話;逸る気持ち
ジ:君には・・・私の手伝いをして貰いたいんだ。
リ:はあ? ・・・云ってる意味が判んない―――
今こうしている間にも、私の国や隣の国は脅威に晒されていると云うのに・・・その私を国に帰さないばかりか、あんたの手伝いをしろだなんて・・・意味が判んない!!
ジ:だから―――そこは先程も云ったように、もう心配する必要は・・・全くない。
あの二人に任せておきさえすれば、万事が丸く収まる―――そう云う手筈になっているんだ。
それから君には・・・ある場所に、これから私と一緒に登って貰いたいんだ―――
自分の国の危急に焦るあまり、周囲りを見失っていたリリアは、そこで落ち着きのあるジョカリーヌの説得を受けていました。
それに、ジョカリーヌが信頼するあの二人―――ヱリヤとエルムに任せておけば、オデッセイアやサライは脅威に晒されることもなくなるだろうともしていたのです。
その上でジョカリーヌは、リリアに・・・自身が構想に描いているある大事業を手伝ってもらうため、
以前に侯爵マキが挫折した「空中庭園」を、今度は自分とリリアの二人だけで見学してみないか―――と、誘ったのです。
その事にリリアは、やはり納得はしていませんでしたが―――ジョカリーヌも諦める様子を見せないので、
ここは一応承諾し・・・あとはいい加減にあしらっておいて、兎に角早くにオデッセイアに戻れるよう画策するのですが・・・
この時まだ知らなかったのです―――・・・
その場所で、今までの自分の人生観を変える出来事が、待ち構えている事を―――・・・
=続く=